表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/82

17話

 心底愉しそうな笑い声が室内に響き渡る中、他の者達は言葉もなかった。

 当たり前だ。一体誰が想像出来ると云うのか。

 自ら敵に囲まれた状態をわざわざ作り出そうなどと正気の沙汰ではない。

 先ず前提として普通は一つ敵を絞り、それ以外から敵が攻めて来ないように考えるのが常道だ。


 一つの目標に対して集中出来るようにする、君主ならばその方針を取って然るべき。

 とは云ってもどうしようもなく複数の勢力と敵対することもあるにはある。

 例えばそう、同盟を結んでいる他の家が敵対したから連座で。

 が、それにしたってしょうがなくそうなるだけで自ら望んで四方に敵を配置するのは常道を外れている。

 だと云うのに信長は四方を敵に囲まれ、戦争をし続ける道を選んだのだ。

 しかもただ選んだわけではない。十二分に耐えられるように、息切れしてしまわないように入念な準備を施していた。


 甘い政策で国を肥やしていたのは総て反信長包囲網を見据えていたのだ。

 あちらから殴って来る以上、迎え撃つのは当然のこと。

 民も仕方ないと納得出来るし、むしろやる気が出るだろう。

 何故、正しい此方が殴られねばならないのか。


 聖剣王信長は無謬の光、その証拠に今まで良き暮らしが出来ていたのだ。

 むしろ殴って来る方がおかしいと云う怒りがやる気となる。

 が、やる気を掻きたてる要因はそれだけではない。

 包囲網に参加するであろう勢力だ。


「毛利、本願寺や延暦寺ら寺社勢力、、雑賀衆、武田、上杉、朝倉、浅井、包囲網に参加するであろう主だった勢力だ。

他にも木っ端な勢力も幾つか乗って来るかもしれんが、うちの民草でも分かる有名どころは今挙げたようなとこだわな」


 そして、それら総てを倒せばどうなる? 終わるのだ、乱世が。

 それらを呑み喰らってしまえば最早織田を止める手立てはない。

 包囲網による戦争が始まって時点で民草も気付くだろう。

 そして、一つ一つ勢力を呑んでいくうちに期待が高まっていく。

 終わる終わる、惨い世の中は終わりを告げる――と。

 誰にも分かり易い形で明確なゴールが見えるのだ、やる気が出ないわけがない。


「誰にも明確に引けなかった線がある。此処を超えれば乱世は終わりだって線だ――――俺が引いてやる」


 群雄割拠で、それぞれが間近な相手としか戦争をせず、だからこそ何時までも戦が終わらない。乱世が終わらない。

 しかし反信長包囲網を作ることで気付くだろう。

 もしもこの包囲網を信長が食い破ってしまえば、織田信長こそが天下人であると。

 応仁の乱に端を発したこの戦国乱世を終わらせられると。


「毛利元就、上杉謙信、武田信玄、今川義元、北条氏康。名だたる英傑は世に幾人も居るし居た。

だけどどうだ? そいつらは様々な事情が絡み合って、天下統一の具体的な絵を描けねえ。

そりゃそうだ、どいつもコイツも内情不安だったり近場の相手と勝ったり負けたり。

具体的にこの日ノ本に覇を唱え、総てを一色に染め上げられる策を練ることも出来なかった。

そう云う意味で俺は運が良い、能力的には先に挙げた者達も十分なものを持っているのに運が足りなかった」


 先ず第一に、日ノ本の中央近くに根を張れた。

 第二に、聖剣と云う武器であり盾にもなり得るものを手に入れることが出来た。

 第三に、織田信秀が築いた基盤が重厚だった。

 内政面に力を注ぎ国を肥やせたのは信秀が築いた基盤である経済力を信長が引継ぎ更に発展させられたから。


 が、勿論運が良くてもそれを活かせるだけの能力が無ければ意味は無い。

 信長が多少どころでは済まぬほどに優れていたから運を活かせたのだ。

 反信長包囲網は史実においても起こったこと。

 カンニングしただけじゃん――などと云うのは大いに間違いである。


 何せ史実のそれとは中身がまったく違う。確かに史実の包囲網が発想の参考にはなっただろう。

 しかし、その上で今信長が発表した反信長包囲網の意味を考えたのは彼自身だ。

 史実などまったく参考にならない。

 何が出来るか何が出来ないかを考え、冷静に取捨選択。


 自分達の武器は何か、弱点は何か。

 使えるもの使えないもの、活かせるもの活かせないもの。先々を見据え何が最善なのか。

 多くを選り分けありとあらゆる部分に先へと繋がる仕込みが出来たのは信長が優れているからに他ならない。

 他の誰に同じことが出来る? キレ過ぎるほどキレているのだ、何もかもが。


 あの、信勝との語らいの後。

 未だ復讐も終えていない段階でモヤモヤとした気持ちのまま僅かな時間で描いてみせたのだ。

 無論、細部を煮詰めるためにそれからも色々考えただろう。

 だが大まかな部分は桶狭間以前の信勝との語らいを終えて直ぐには出来上がっていたのだ。


「運が足りず、虚しく老いていき先が短くなった奴らと若く未来もあるこの俺。

そう云う部分でも、民草の期待が違って来る。俺ならば、とそう思わせなきゃいけねえんだ。

一つ一つに勝ち続けてな。終始戦をするってことだしあちこちから包囲網と云う性質上、あちこちからやって来る」


 だが、同時にかかって来るのは不可能だ。


「接敵していなければ、接敵するようにしなきゃいけない。

同じ包囲網に加わっている連合ならばともかく違った場合は先ずそこを攻略しなきゃいけねえ。

どうしたって包囲網は歪になって、だからこそ俺達にも勝ちの目が見えて来る。包囲網の正念場は序盤だ、序盤を過ぎれば……」


 と、そこで信長は一益に視線を向ける。

 意味が分かっているな? と。


「……楽に、なる。一つ崩せば、我らはまた肥え太ることが出来ると云うことですな。

民草にも分かる明確な終わりに突き進んでいる織田。負けた側の民草にとってもそう。

負けたのならば織田に加わるわけですが、乱世終結と云う大義名分がために搾り取れる、反乱の心配もなく……!!」


 何せ此処で更に逆らえば本当の意味で明日は無くなってしまう。

 皆殺しにされたところでしょうがない。これはそう云う類の戦だから。

 これまで聖剣の威光を控えて来たのもそのためだ。

 聖剣の威光をこれでもかと遣い、これが天下に静謐を齎すための戦である喧伝し織田は戦うのだ。


 それを邪魔すればどうなるか、本当の意味でこの国にとっての敵となってしまう。

 聖剣伝説は大いに役立つ。未来に比べ信心と云うものが深く明確な差別が存在するこの国この時代。

 信長はただでさえ大名と云う民草にとっては天上人なのだ。

 そこに聖剣伝説による補正まで加わってしまえばその虚像は何処まで膨れ上がるのか。


 だからこそ、敗者として多くを搾り取られても我慢が出来る。

 何せ自分達が負けたと云うことは更に天下へと近付いたと云うことなのだから。

 最初から戦の意図と終わりを誰にも分かるように明示するのは味方の士気を上げるためだけではない。

 敵から味方となった者が苦境の拠り所とするための柱としても機能ためでもあるのだ。


「そうだ、人は終わりのない苦境には耐えられないが終わりが見えているのならば耐えられる。

そして耐えた先には希望がある。いい加減飽き飽きしている乱世の終わりと太平の始まりって希望がな。

だからこそ、搾り取ることが出来る。無論、それでも見極めを誤るわけにはいかんがな」


 キッチリ搾り取り格差をつけることで元々の自国民の不満を消す。

 消しはするが、だからとて不満を消す以上の搾取は悪手だ。

 格差がつくほど搾取はするが、それでも最低限のラインを見誤るわけにはいかない。


「そして新たなに獲得した領土では必ずお触れを出す。この苦税は日ノ本の正当支配者信長に逆らった禊だ。

禊の終わりは新たな領土を獲得した際にと――ちゃんと明示しておく」


 そして次の領土でまた同じことをする。

 この自転車操業染みた真似を可能とすることが出来るのも包囲網と云う性質ゆえだ。

 戦する相手にこと欠かず常に新規領土獲得のチャンスに恵まれているからこそである。


「勢いを殺さぬまま勝ち続ける、そのためにも序盤は苦しいものになる。

しかし、それに耐えられる土壌は作り上げて来た。

パッと聞くだけじゃ良いこと尽くめだし、勝算も無しにこんなことを考えているわけじゃない。

だが、これは大博打だ。織田家がこれまで体験したことのない、重く苦しい戦いになるだろう」


 老いて先が短いと評した名将達。

 しかしそれは天下統一を主眼に置いた場合のこと。

 今は未だ存命で包囲網の中で彼らは出し惜しみすることなく能力を注ぎ込み織田を潰しにかかる。

 それを踏破しようと云うのだ。並大抵の道のりではない。


「始めてしまえば後戻りが出来ない戦い、天下をこの手に収めるその時まで止まることは出来ない」


 乱世終結と云う題目を掲げるのだ、そのために絞るのだ。

 であれば途中で勢いを殺して立ち止まるわけにはいかない。

 反信長包囲網とは自身のケツに火をつけて疾走することに他ならない。

 燃えて火達磨になりたくないのならば足を止めずに駆け続けて頂に上るしかないのだ。

 そうしなければ消えない火を灯すのだから。

 だがしかし、信長の望む天下を手にし信勝の望む未来へ繋がる国を築くのならばこのやり方が最短ルートなのだ。


「停滞を赦さぬこの覇道、俺単独では決して踏破出来ないだろう。

良いか? 俺は天下を獲る大まかな絵図を描いただけ。

そこに色を塗り、絵を完成させるには皆の尽力が必要不可欠だ。

お前達無くして俺の天下はあり得ん。だから、云おう――――俺のために総てを捧げろ。

代わりに、俺も報いよう。お前達の献身に、これまでもそうして来たようにこれからも報いると改めて誓う」


 驚愕から回帰した者達の心の中に沸々と火が灯り始める。


「文官連中は俺の頭脳となってその智慧を存分に魅せつけろ」

『ははぁっ!!』


 文官達が一斉に頭を下げる。


「武官連中は俺の剣となって立ち塞がる敵を悉く切り伏せろ」

『応ッッ!!』


 武官達が一斉に怒号の如き応答を返す。


「どちらもこなせる者は智慧と力、両面で暴れてやれ」

『ハッッ!!』


 立ち上る熱気は灼熱地獄の如し。

 だが、何ともらしいではないか。これが天魔の軍勢である。


「歴史に名を刻み付けるぞ、俺達は千年の時を経ても色褪せぬ光となるのだ!!!!!」

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!』


 鼓舞、歯に衣着せぬ云い方をするならばアジテート。

 その能力が抜群に秀でているのだ、織田信長は。

 空気を作り、その空気に浸らせ、熱を生ませる、生まれた熱気は上昇気流となって天高く何処までも昇って行く。

 絶大なカリスマ、しかしそれは諸刃の剣でもある。


 敵からすれば信長さえ除いてしまえばそれで終わらせられるのだから。

 そして、信長もそこはちゃんと理解している。理解して、命を懸ける道を選んだのだ。

 怖じず、折れず、目標に向かって放たれた飛矢のように飛び続けると。

 長所であり短所でもある、だが何とも人らしい――それもまたこの男の数ある魅力の一つなのだろう。


「では、改めて細かい話し合いと行こうか。ふふ、落ち着けてねえのなら深呼吸でもしな」


 上座に戻らず中央にどかりと腰を下ろし、皆に囲まれたまま信長は笑った。

 図太い藤乃ですらも呼吸を整えているのだから、数瞬前までの熱気は推して知るべしと云ったところか。

 全員が呼吸を整えたのを見計らい、信長は切り出した。


「足利を暴発させるのは決定事項ではあるが、何も直ぐにと云うわけじゃない。

ある程度京――ってより畿内の情勢を落ち着かせて、自分は将軍なんだって自覚を与えてからイジメてやらにゃな」


 そう語る信長の笑みは実にサディスティックだった。


「…………今この瞬間から暴発までの時は、我らが更に力を溜めるための時でもある」


 本来ならもう少しばかり後に大戦略を発表しても良かったのだが、考えた末に却下した。

 理由は幾つかあって先ずは心の準備、前代未聞ゆえ受け入れてから落ち着くまで時が必要だと判断したのだ。

 そしてもう一つは今長秀が云ったように力を溜めるため。

 信長は何のために力を溜めるのかを知らせておかねば身が入らないと考えたのだ。

 闇雲に筋トレするより明確なイメージを持って筋トレをした方が良いと云うアレと似たようなものである。


「そうだ長秀。その間に、力を溜めるだけじゃなく色々と小細工も弄するぜ」


 足利暴発の行動のみならず、反信長包囲網に加わるであろう勢力に対する水面下での嫌がらせ。

 そこは文官連中の仕事で、武官連中は兵の調練。

 誰一人として暇にはならない。

 各々が各々の適正分野で全力で働き続けなければならないのだ。

 だが、望むところ。火が点いてしまった家臣達からすれば早くて仕事がしたくてしょうがないのだ。


「で、先ずはその小細工の一つとして朝倉領内の一向宗に鉄砲を流すぞ。

出来の悪いのを、そうとは告げずに格安で流すよう堺の商人連中と話はつけてある」


 半兵衛が語ったように朝倉領内の一向宗、その動きは不穏そのもの。

 遠からずに一揆が起きると云う予想は正しい。

 そして一揆が起きた際に朝倉へなるべく打撃を与えて貰うため武器を流すのだ――勿論織田の仕業とバレぬように。


「細かい差配については半兵衛、お前に任せる」

「承りました。万事、上手くやってみせましょうとも」


 多くを云わずとも察してくれる、頭の良い人間は本当に便利だ。


「さて……話は変わるが次期将軍様が織田に流れて来た時、当然接待せにゃならんわけだ。

それに、擁立してからも付き合いでそれなりの頻度で京に赴いて幕府や朝廷と付き合わにゃならん。

そこで皆に聞きたい。お前らの中で畳の上の作法に自信ある奴って居るか?」


 いずれ暴発させるためにも最初は丁寧に接待してやらねばならない。

 そう云う積み重ねが大きな暴発を招くために必要なのだ。

 だが、理由はそれだけではない。

 将軍擁立後は朝廷との付き合いも増える。

 と、なればだ。当然の如くにそう云う畳の上の作法も必要になるわけだが……。


『…………』


 皆、何も云わない。

 信長を含めて元々尾張や美濃の田舎者なのだ。

 そんな田舎者が公家やらに通用するような作法を知っているわけがない。


「…………だよね」


 早急に講師を雇うことを決意する信長だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ