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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いて天下布武る俺――  作者: 曖昧


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11話

 その夜のこと。

 信長は自身の宿で、月を肴に三味線を奏でていた。

 琉球から齎された三弦、それをマーリンが改良して現代のそれと遜色ないものに仕上げたのだ。

 娯楽が少ないので信長はこのようなものにも手を出していた。


「にしても……ありゃあ、何なんだろうな


 ベン、ベン、ベンと調子の良い音が夜半の静寂に染み渡る。


「上杉謙信のこと?」

「ああ。信玄もどえらいし、面倒な手合いだと思うがよ……謙信は何だかなぁ……ガチで神仏の類なのか?」


 毘沙門天の化身を自称していることは知っている。

 信長自身も第六天魔を自称しているので、そこについては文句がない。

 しかし、だからと云って自分が魔王なんて人外の存在だとは考えていない。

 が、謙信はどうだ? あの得体の知れなさは毘沙門天の化身と云われても信じてしまいそうだ。

 好悪があって、人間の形で人間のように振舞っている。

 だと云うのにどうにもイマイチストンと胸に落ちないから謙信非人間説を捨てきれない。


「人間よ。ただまあ、あの手の人間はたまに歴史に現れるのよ。人間だけど、神がかりって表現が相応しい人間がね」


 マーリンも長い歴史の中でそう云う人間は幾度か見たことがある。

 とは云っても深入りしなかったので彼女にとっても殆ど未知なのだが。


「ほう……どっちにしろ、面倒くせえなぁ」

「上杉と敵対するつもりなの?」


 信長が温めている大戦略をマーリンは知らない。

 だからこそキョトンとした顔をしている。

 義に篤い人間なので謙信とは手を結べるかもしれないのに――と。

 聖剣と云う将軍家よりもビッグな名分を持っているのだ。

 上手いことやれば上杉を傘下に加えられるはずと思っているのだが……。


「まあ、な。いずれそこらは話すが……しかし、そうなった場合アレが領土に侵攻してくんだろ?

あんなん野戦だとかっちゃん以外に任せらんねーよ。次点でタッキー、長秀、藤乃辺りだが……出し惜しみは出来ん。

まあ、正攻法で攻略するつもりはねえから別に良いけどさ」


 それでも直ぐに搦め手が効果を発するわけでもないのだ。

 正攻法でやり合う必要もあって、その場合は勝家に頼るしかない。

 信長自身は何かと負担をかけることに申し訳なさを感じているが、勝家本人はむしろ嬉しいだろう。

 信勝との語らいを聞いていた唯一の人間で、その覇道を支えると誓った勝家だ。

 存分に自分を使ってくれ、頼られて嬉しい――そんな忠犬染みたことを想うのが勝家と云う男である。

 女の子だったらさぞや萌え萌えだろうが生憎と現実は髭ヅラのオッサンだ。


「ん、それより信長様」

「ああ……誰か来たな」


 云うやマーリンは自身に幻惑の術を施す。

 これで信長以外には認識出来なくなった。

 何もそんなことを、と思うかもしれないが宿の人間ならばともかく信長個人に用がある場合。

 同席者が居ない方が良いのだ。その方が相手も話し易いし、相手が本音を晒せば目的の良し悪しに関わらず信長もやり易い。


「入って良いぜ」


 とんとん、と戸が叩かれたので客を招き寄せる。

 静かに音を立てて戸が開かれ現れたのは、


「お前は……信玄の…………」


 当然の如く真田昌幸であった。

 信長は一瞬キョトンとするも、直ぐにハニートラップだと看破する。

 そりゃ当然だ、あからさまなやり方で気付けないほど阿呆じゃない。


「(見た目は良いがさして興味ねえんだよなぁ……でもまあ、据え膳だし、ラッキーと思っとくか)何の用だ」


 良い女ばかりを抱いているのでちょっと容姿が良いくらいでは靡かなくなった信長。

 それゆえ気楽な気持ちで居たのだが……。


「――――未来を買わせて戴きたく参上致した次第ですわ」


 真面目そうな空気は何処へやら、昌幸の顔には殺人ピエロのような笑みが浮かんでいた。

 糸目は開かれワインレッドの瞳が爛々と輝く様を見て信長は、


「――――」


 ぽかーんと大口を開けて固まっていた。

 信長は自身の人物鑑定眼にそれなりに自信を持っている。

 前世におけるホスト稼業、今世における大名稼業。

 共に人を見抜く眼が無ければ立ち行かず、今現在上手く回っているのはひとえにその能力があったから。


 現状と云う揺るがぬ事実が培った自負。

 実際に、眼のみならず勘と云う部分でも優れたものを持っているのが信長だ。

 だからこそ太原雪斎の暗躍を看破出来た。

 だと云うのにこの真田昌幸に関してはまるで見抜けず。


 しかしそのことで信長を責めるのは酷だろう。

 何せ彼よりも付き合いが長く同じく人を見る眼に長けた信玄ですら欺かれているのだから。

 それを殆ど初対面の信長に看破しろと云うのは無茶ブリが過ぎると云うもの。

 が、それを差っ引いても恐るべし真田昌幸と云ったところか。


「アハ♪」


 信長の間抜けヅラが面白かったのか、昌幸は心底愉しそうに笑った。

 そして、固まっている信長を一旦放置し何の躊躇いもなく服を脱ぎ捨てる。

 この時代、総てが総てと云うわけではないが宿には売春婦のような者達が存在していた。

 江戸時代になると飯盛女などの名称で呼ばれている。


 戦国時代ゆえ未だ何処もかしこもと云うわけではないし、商売の形態として普及しているわけでもない。

 それでも私娼を置く宿は存在していて、高野の麓にあるこの宿もそうだった。

 神聖な御山の下で何をと思うかもしれないが、これもまた腐敗の発露だろう。

 昌幸はその娼婦から男を相手にする衣装を結構な値段で借り受けたのだ。


 そしてそれに着替え、改めて信長と向き直った。

 髪型も野暮ったいものから色気滲む結い方に変えており、昼間とはまるで別人のよう。

 女は化けると申しますが、いや正にその通り。

 女遊びに慣れている信長ですら呆然とするほどだ。


「改めて名乗りの礼を。わたくしは真田昌幸。

信濃は小県の織田様に比べれば吹けば飛ぶような蟻の如き御家の娘。

甲斐は武田の大虎に仕えており、主君が命により信長様を探って来いと云われましたがそれは別にどうでもよう御座いますわ」


 しれっと信玄を蔑ろにする発言に、ようやく信長もスイッチが入った。


「――――カハッ」


 思わずイヤラシイ笑い声が漏れてしまう。やばい、どうしよう。愉しくなって来たぞ。

 期待していなかったのだが、何だこれは。

 にやけてしまうではないか、止められではないか。

 大名として歩き始めてからこのような戦国腹黒狸合戦ポンポコに対しても愉しみを見出し始めた信長。

 そんな彼にとってこのシチュエーションはたまらない。

 先を見据えた大戦略、間近を見つめた美濃攻略、それら総てが吹き飛んでしまった。


「おいおいおい、こんな時分に興奮させてくれるじゃあねえか。ああん?

いけねえな、いけねえよ……大人を刺激しちゃあ……いけねえぜ、昌幸よぉ。

もうこれ眠れねえわ、どうする? どうしてくれる? 火ぃつけた責任は取らせてくれるんだろうなぁ」

「ええ、勿論。先ほどまでの反応を見るに、わたくしの器量でも愉しませられることが分かりましたので」


 棘を孕んだ言葉がまた心地良い。

 そう、これだ。

 ただ美しいだけの花も愛でるには十分だが、毒も棘も内包した花はそれ以上だ。

 信長の昌幸に対する好感度は急上昇。

 マーリン、帰蝶、藤乃ほどではないものの、確実にそこに至るであろうと予感させるものが昌幸にはあった。


「おう昌幸、お前に忠は無いのかね?」

「おや、これは心外。ありますわ、無論。信玄公には目をかけて戴いておりますもの」

「にしてはどうだ? 虎を軽んずるような発言が聞こえたが?」

「このまま何ごともなく武田が安泰であるならば変わらぬ忠を捧げることに疑いはありませんわ」


 が、


「麒麟も老いれば駄馬にも劣る。

大虎が老いても猫にはならぬでしょうが、しかし死んでしまえば猫以下。

先が長い天魔、先の短き虎、未来を見据えるのならばどちらに重きを置くかは一目瞭然。

無論、信玄公も重いですよ? が、それはそれ。他に重いものを見つけてはならぬと誰が御決めになられたので?」

「一々尤も。帝ですらそんなこたぁ云ってないやね」


 人の心は自由で、それを縛るものは何処にも存在しない。

 腹の中で何を想おうとも、それを罰する法なぞ無いのだから。


「俺に何を望む?」

「真田を織田の庇護下へ。そして信濃一国をわたくしに下賜して戴きたく存じますわ」

「たかだか小豪族が大名になりたいと申すか」

「わたくしに値段をつけるのは信長様、こちらはただ希望を述べただけ」


 お前の眼はどれだけ肥えているのかな? 言外にそう告げているのだ。

 こんなことが云えるのは絶対の自負があるから。

 いやしかし成るほど、講談などでは子の信繁――幸村と云う名でよく知られる息子が大活躍するがそこはそれ。

 鳶が鷹を産んだわけではないのだ、鷹が当然のように鷹を産んだだけ。

 真田昌幸、その器量は間違いなく傑物のそれ。


 天下、と云うものを治めることは出来ないがそれは得意不得意の領域だ。

 向いていないため、信長や藤乃、竹千代、義元などには及ばない。

 さりとて信濃一国と云う単位であればどうか。

 今現在、竹千代が三河一国を支配しているが一国と云う枠の中であれば昌幸の方が上手だろう。

 つまるところ、ポンとくれてやっても問題は無いと云うことだ。


「ふむ……しかし、だ。そもそも信濃は織田のものじゃなくて武田のもんだろ?」


 武田が支配しているのは甲斐・信濃・西上野の三国。

 一方の織田は尾張・三河・遠江・駿河の四国だ。

 とは云え三河は名目上は対等な同盟相手である徳川のものなのだが実質は織田家傘下なので問題はない。

 駿河の一部を任せている今川に関しては云わずもがなだ。


「ええ、でも信長様は武田を滅ぼすのでしょう?」


 昌幸はしれっと今現在仕えている家が滅ぶと云ってのける。

 実際その通りなのだが、まだやってはいないしやれるかどうかも分からない。

 だけど昌幸は確信していた、信長は必ず武田を滅ぼしてしまうであろうと。

 今現在天下統一に対する大名分を持ちその能力も持つ信長。

 その気性を見るに足利のような間抜けは晒さない。磐石の支配体制を敷くはずだ。

 武田家も良くて家が存続し、細々と続くかなー程度の展望しか見えない。


「信玄公と御身が同年代ならば話も変わって来ますが死にます。

元々不摂生な方ですし、そう長くはなく……跡継ぎの勝頼様も優秀ではあられるが虎の後継としては不足。

まあ、何処もそんな感じではありますが北条も獅子の跡継ぎはさてどうなることやら」


 信玄ならば負けても武田存続は揺るがず。

 織田を支える屋台骨として存在感を示し大大名となることも望める。

 実際、織田が――信長が強くても聖剣と云うこの上ない名分を持っていても完勝は不可能だろう。

 さっさと見切りをつけて信玄と結ばねば織田家を危険に晒すと判断するはずだ。

 伊達や酔狂で甲斐の虎などと謳われてはいない。


「お前は何を想い、何を望み、俺にこんな商談を持ちかけた?」


 単純な保身・功名心、そんなものではない。

 その手の手合いならばこれまでも多く見て来たし、優秀であろうとも此処まで化けはしない。

 ならば真田昌幸の望みとは何だ?


「……知っての通り、信濃とは難儀な土地ですわ。

常に大国に狙われ、奪い奪われころころと支配者が変わる。

大国に振り回され続けるサダメを背負った厄介極まる場所。

今とて信玄公が治めてはおりますがそれも磐石と云えるほど磐石ではない。

わたくし、こう見えてそれなりに郷土に対する愛はありますの」


 草臥れた笑みを浮かべる昌幸、演技だとしても見抜けない。

 彼女が本気で欺むこうとすれば騙されてしまうから。

 しかし不思議と、信長は昌幸が本音を語っているのだと思った。

 多少なりとも昌幸の見せていなかった部分を見せられたことで勘も起動し始めたのかもしれない。


「今のような状況が何時までも続くのは真っ平御免被りますわ。

だから変える、他ならぬわたくしが変える。わたくしが信濃を手にすれば変えられる。

生きている間に揺るがぬ信濃を作り上げる――――それが我が大願に御座いますれば」


 油断ならない女ではある、年下で未だ少女と云える齢なのにまるでそれを感じさせない。

 しかし、好きなタイプだ。

 生まれ育った土地と、そこに住まう人々に対する深い愛情。

 目指す先は違えども、我も彼も共に夢追い人。嫌いになれるわけがない。


「信濃を欲する……か。しかし、だ。こんな話を持ちかけるお前を俺が受け入れるとでも?」

「御安心を――――織田様が強い限りは決して裏切りませんから」


 それはそれは飛びっきりの笑顔だった。


「弱くなれば?」

「裏切って別の強いところに向かいます」

「裏切り者を受け入れるとでも?」

「受け入れさせるのが腕の見せ所では?」


 ちなみにいけしゃあしゃあと云ってのけている昌幸だが、後に自身の言を翻すことになる。

 そう、戦国最後の大戦となる明智光秀との関ヶ原。

 織田方の不利にも関わらず昌幸は自らの意思で望んで信長と共に戦うことになるのだ。

 『旦那様の御言葉を借りるなら、惚れた方の負けと云うことでうわね』と苦笑しながら。


「……真田昌幸、表裏比興の者」


 この気持ちの良いやり取りに信長はもう我慢が出来なかった。


「ッハハハハハハハ! 良い、良いぞ。分かったよ、惚れた方の負けってな。

あー……此処まで面白い奴と面白い話をするのは久しぶりだよ。良いだろう、受け入れてやる。

しかし、だ。俺は功ある者には報いるが、能力だけ高くても実際に何も成さぬ者に報いるほど人好しではないぜ?」

「無論、承知の上。武田攻略の際は一番手柄を上げて御覧に入れましょう」


 ようは内側から上手いこと援護射撃して武田攻略の決定打を決めてやると云うことだ。


「では、契約の手付けを戴いてもよろしくて?」

「ん? 何が欲しい、契約書でも書いてやろうか?」

「いえいえ――――わたくしに種をつけてくださいまし♪」

「ほう……」


 今更子持ちになることに思うところはない。

 天下人への道を歩き始めた時点で跡継ぎは必要不可欠だから――って云うかもう子供居るし。

 しかし、だ。昌幸が子を所望するとはどう云うことか。

 信長も身内には甘いが、しかし大願成就がためならば切り捨てる覚悟も出来る。

 子が楔になるなどと楽観するような性質ではないはずだ、昌幸と云う女は。


「これは武士としてではなく、女としての私情。

わたくし、武士としては幾らでも裏切る尻軽ですが女としては別ですわ。

仮に織田家を裏切っても、此処で愛をくださるのならばわたくしは信長様以外の男に身体も心も赦しません。

抱いて貰えば分かると思いますが、わたくし純潔です」


 女としての武器を使えば武田でも、もっと色々なやり方が出来る。

 しかしそれをしていない、それはつまりどう云うことか。

 真田昌幸と云う人間は武士としての自分と女としての自分を完全に切り離しているのだ。

 武士としての願いのために女としての願いを捨てる気はなく、逆も然り。


「子宮に響くような麗しく素敵なとのがたの子を孕むは女として抱く至上の夢。

勿論、愛する御方と一生添い遂げられるのならばそれに越したことはありませんが……」


 武士としての夢を阻害するのならば已む無し。

 子を孕み、愛を受け取れたと云う事実で夢は叶っているので贅沢は云わない。


「なのでわたくしを完全にものにしたいと云うのならばどちらの夢も叶えてくださいませ」


 強く在り続けろ、そして愛し続けろ。

 そうしてくれるのならば結果として永劫果てぬ忠と愛を捧げることになる。

 ニコニコと笑う昌幸はこの上なく魅力的だった。


「月のものは来ていませんが、わたくし、愛をくださるのならば今夜必ず孕みますわ」


 艶然とした空気を漂わせ、信長にしなだれかかる昌幸。


「最高だ、絶対ものにしてやるよ――――俺の子を産め、昌幸」

「はい……あなた」


 この後滅茶苦茶セ●クスした結果、昌幸は宣言通りに見事懐妊、しかも双子。


『消えない線香花火真田信之』

『特大打ち上げ花火真田信繁』


 チート二人の製造が早まることとなった。

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