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色う焔と異界の剣士  作者: 手羽先すずめ
紅の撃ち手
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一致団結


 硬い素材で作られた円形リング付近まで近付くと、勝ち残った生徒の顔がよく見えた。普段、あまり他の生徒と交友を持たないので、生徒の顔を見ても名前が思い浮かばないことが多いのだけれど。しかし、今回は違った。顔を見た瞬間、彼の名前をはっきりと思い出す。


 いつか俺に喧嘩を吹っ掛けてきた、カインズという男子生徒だ。


「よう、俺のこと憶えてっか? キリュウ、シュウヤ」


 彼はリングから降りると、俺を視界に納め。真っ直ぐにこちらへと近付いて来た。


「一度、戦った奴のことは忘れないようにしているんだ。憶えているさ、カインズ」

「戦った、な。あれが戦いになっていたとは思えねーが、まぁそれはいい」


 カインズは以前よりもずっと落ち着いて話していた。あの時の激高っぷりが嘘のようだ。あれから、どんな心境の変化があったのかは知る所じゃあない。けれど、少なくとも今から戦えば、俺は抜刀せずにはいられないだろうな。


「お前を倒すのは、この俺だ。必ず、生き残って出場しろ」

「言われずとも、負ける気は更々ないさ。というか、代表になって出場しても、俺とあんたは同じチームだぜ?」

「良いんだよ。どうせ、最後の一人になるまで戦うんだ。学園がどうだのこうだのは関係ねぇ」


 カインズの言い分は正しい。バトルロイヤルのルール上、最後まで生き残った者の勝利だ。そこにチームだの学園だのと言った枠組みは形式上の物でしかない。リングに上がったが最後、自分以外は全員敵だ。


 一時的に徒党を組むことはあっても、最終的には仲間内で争うことになる。なら、カインズのような生徒が居ても、何ら問題は無いわけだ。学園側としては、そうも言ってられないだろうけれど。


「シュウヤ、キリュウ。リングに上がれ」

「はい」


 カインズにああ言われたのだ、無様な姿は見せられない。それにベッキーも見ているのだ。格好の悪い結果になれば、それはダイレクトにエリーまで伝わるだろう。それは何としてでも避けたい所だ。休学中で暇を持て余したエリーに、退屈凌ぎの笑い話にされては堪らない。


「おっと、キリュウ。その腰にある剣は、たしか魔武器だそうだな?」

「えぇ。はい、そうですけれど」

「悪いが、バトルロイヤルでの魔武器の使用は禁止されている。私が責任を持って預かるから、キリュウはあそこにある武器置き場から適当な得物を選んでくれ」


 エリーから説明して貰う際に、聞き漏らしたのか。それともまたエリーが「言ってなかったっけ?」を発動したのか。そんな意外なことを先生はいい。ある方向を指でさした。その先には鉄製の分厚そうな扉があり、貼り付けられたプレートには武器置き場と書かれている。


「……分かりました。じゃあ、これをお願いします」

「うむ、確かに預かった」


 剣士が誰かに刀を預けるというのは、なかなかどうして抵抗がある。けれど、公平を期すためなら仕様がない。俺だけが魔武器を使い、魔法を斬っていては不公平になる。無法の斬り合いならいざ知らず。ルールがあるなら、その条件で勝たなければ意味がない。


「えーっと、此処か」


 重くて分厚い鉄扉を開けて中に入ると、自動で明かりが点灯する。現代で言うセンサーみたいなものが、魔法によって構築されているみたいだな。


「うーん。どれにしようかな」


 武器なら大概のものが使えるように親父に鍛えられている。だから、結局はどれでも良いのだけれど。此処は無難にロングソードで行くとしよう。これが一番、新しく。刃が欠けて居ないから。


「お待たせしました」

「決まったようだな。よし、上がって良いぞ」


 先生に許可を貰って、リングに上がる。


「全員、揃ったな。これで生き残った最後の一人が出場決定だ。気合い入れて行けよ」


 リング上には見知った顔が何人かいる。競技は学年別に行われるので、当然と言えば当然か。相変わらず、顔を見ても名前が浮かばないな。まぁ、別に良いか。名前を知らなくても、戦えば記憶に残る。それだけで十分だ。


「始めッ」


 先生からの合図により、リング上の生徒は一斉に動き出す。魔法を放つ者、接近を試みる者、逃げようとする者。そして武器を構える者。それぞれがバラバラに、定めた標的に攻撃を仕掛けた。



「おいっ! あいつヤベぇぞ!」

「あいつを優先して叩けッ」


 始まりの合図が告げられた直後、俺は手近な生徒を斬り伏せ。その直ぐ側にいた生徒をリング外まで蹴り飛ばし。飛来した水の魔法を躱して、さほど開いていない距離を埋めて、術者に斬りかかった。


 開始して一分と経たず、三人を倒した。


 それが、いけなかったのか。状況は完全に不利になってしまった。残った生徒達は一致団結して俺を排除しようとしている。ルール上、問題ない行為だが、些か卑怯だと言葉にしたいところだ。


「残り十二人か。まいったね、こりゃあ」


 周囲を完全に包囲され、次々と魔法が放たれる。


 斬魔の刀があれば斬っていたのだが、生憎今は先生の手の中だ。なので、無理に無効化しようとはせず、その場から大きく跳躍して魔法の直撃を躱し。着地予定地点にいる生徒の顔面を蹴り、リングから退場させたのち地に足を付ける。


「そおらッ」


 膝を折り曲げて着地の衝撃を和らげ。そのまま立ち上がり様に、剣を振るい上げる。ローグソードの範囲内に生徒は二人。そのどちらも斬り裂いて、残りの人数はあと九人。先は長いが地道に数を減らしていこう。


 そうして予選は進み。残りは最後の一人となる。


「〝刺々しい衝撃(ニードル・ハンマー)〟!」


 魔法の名前が叫ばれ、最後の生徒はリングの表面に手を叩き付ける。すると、鋭く尖った針の群がリングから生え。雑草の増殖のように、次々と範囲を広げながら、こちらへと向かって来る。


 しかし、幸いにも針が生える速度には限界がある。針が生え、また次の針が生える間にある、若干のタイムラグ。その間隔を後退して逃げ回りながら見極めると、一転して攻勢に転じる。


 奴の魔法は針を生やす能力。だが、生えた針自体はリングの一部だ。リングと同じ材質なら、斬ることが可能である。そう判断し、今度はこちらから針へと向かった。


 眼前で針が生え、タイムラグが発生する。


 その僅かな隙間を狙って一閃を薙ぎ、針を根元から斬り払う。進路を切り開くことに成功した。針の生えた場所には、もう魔法の効果は及ばない。だから、安心して身の安全を確保できる。


 開いた安全地帯に飛び込んだ直後、タイムラグが過ぎて背後で針が生える。一歩遅ければ串刺しになっていた。けれど、もうその心配は無い。このまま針を斬りながら群れの中を突き進もう。


「くそっ、もう一度だッ」


 俺の猛進を見た最後の生徒は、リングに手を付けたまま更に魔法を発動する。それはデータの上書きだ。一度目の魔法を中断し、二度目の魔法を放つ。それにより針の増殖は止まるが、また新たに術者の周りから針を生やすことが出来る。現に、針と針の間から、また新たな針が突き出ている。


 けれど、そうした時にはもう遅い。俺はもう十分に近づけている。


 二度目の魔法効果が及ぶ前に、強くリングを蹴ってリング上から離脱する。脱出先は空中だ。跳び上がり、針の群れを跳び越えて直接、術者のもとに舞い降りた。リングの全てが針に覆われようとしている中、唯一の完全な安全地帯が此処だ。


 ここに針が生えれば、自分も串刺しになる。だから、此処に侵入した以上、もう魔法は使えない。


「降参しろ、あんたの負けだ」


 ロングソードを突き付け、そう促す。


「くっうぅ……分かった。降参だ。俺の負けで良いよ」


 最後の一人が両手を挙げたので、このリング上に戦える者は俺一人だけとなる。


「勝者はシュウヤ、キリュウだ。よって本戦出場決定、お前は生徒の代表となった。それに恥じぬような戦いを本番で見せてくれ。……次で最後だ。残りの男共は全員、リングに上がれ」


 次の予選の邪魔になってはいけないので、早々にリングから降りる。そして先生から刀を返して貰い、することも無くなったので元の位置。練魔館の隅のほうへと戻っていく。そんな俺をベッキーは含み笑いで迎えてくれた。


「なに笑ってんだよ?」

「いや、シュウくんってば、けっきょく魔法を使わなかったからさ」

「あぁ、使わなかったのは俺が半端者だったからだよ。今はまだ、魔法を使わないほうが戦いやすいんだ」


 それを聞いて、またベッキーはにやりと笑う。


「ストイックだねぇ。けれど、それも度が過ぎれば恨みを買うよ。さっきシュウくんに負けた連中は、屈辱の極みを味わったはずだ。俺には魔法を使う価値もないのかって」

「結構なことじゃあないか。その悔しさを糧にして、強くなればいいさ。相手に気を遣って魔法を使うことこそ、あいつらに取っては屈辱だろ。手加減して戦ってるのと同じだぜ? それは」

「そうかもね。でも、手加減して戦ってくれるほうが、傷が浅くて済む。って考えている生徒だっているかもよ?」

「そんな志の低い奴のことなんか知らん」

「あははっ、ばっさりだねぇ。シュウくんのそう言うさっぱりした所、嫌いじゃあないよ」

「そいつはどうも」


 褒められているんだか、そうじゃあないんだか。まぁ、どちらでも良いか。


 それから程なくして、最後の男子予選が終わりを迎え。次に、女子の部の予選が開始された。第一回目は残り数人となったところで、謎の微妙な空気が流れ。一瞬、戦闘が止まるという妙な様相を呈したものの。なんとか出場者一名が選ばれた。


 戦闘が止まった理由をベッキーに聞くと。どうやらあの数名は友達同士らしく、一瞬戦うのを躊躇ったかららしい。


 続いて第二回目、今度は比較的スムーズに展開が進み。一度として戦闘が途切れることなく、最後まで戦い抜いた一名が出場決定となる。


 そうして第三回目、最後となる予選でベッキーが動き出した。


「んじゃ、行ってくるよ」

「あぁ。エリーの分も頑張れよ」

「頑張れ、ね。あぁ、頑張るともさ」


 ゆったりと歩いて行き、ベッキーはリングに上がる。他にも続々と女子生徒が舞台に立つ。けれど、その誰もが浮かない表情をしていた。何というか、やる気がまったく感じられないのだ。最初から勝負を諦めているかのような、そんな雰囲気さえ感じる。戦う前から戦意喪失していた。


 あぁ、そうか。だから、エリーが出ないと聞いて、ベッキーは面倒臭がったのか。こんなやる気の無い予選なんて、ただただ面倒臭いだけだ。こんなに面白くも何ともない戦いは他にないだろう。


 もう既に、この時点でベッキーの勝利は決まったようなものだ。


「あー、かったるい。もう面倒だから、さっさと決めさせてもらうよ」


 先生の合図をまたず、そう勝利宣言するベッキー。それに反発する者も、反応する者さえ。あのリングの上には居なかった。


「全員、揃ったな。では最後の予選を始めよう」


 先生の声で、いま合図が発せられた。

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