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起承転結の承の部分のはずです

 鏡の中のボクの部屋は、鏡の外と特に変わった所はない。

もちろん鏡の中だから、ほんの文字や部屋の間取りがが反転していたりはするけれど。

でも、基本的にはただ暗く、静けさが漂っているだけ。

冷たい外の風の音も、ひどく臆病なくせにしょっちゅう喧嘩をしている近所の野良猫のうなり声も、ここまで聞こえてくることはない。


 他にもう一つだけ相違点を上げるとすれば、それは部屋のドアから暖かい明るい光がうっすらと漏れて、四角い光の輪を作っている事だ。

扉の向こうには、フワフワちゃんが暮らしている二階建ての小さな家や、奇麗にそろえてある青い芝生とデルフェニウムの青い花が咲く庭がある。

その世界には昼と夜の時間がなく、毎回朝か夕方のような淡い光が照らしていた。

そこではきっと太陽は地平線にくっついてずっと離れられないんだ。


「大丈夫だよ」


とフワフワちゃんがボクに言う。

ボクは頷いてドアの前までフワフワちゃんの手を引き、ドアノブに手をかける。

急に瞳孔が縮んで目が痛くならないように、ボクはいつものように扉をゆっくりと開けた。

扉はいつもボクが開ける。

フワフワちゃんには開けられないから。



 フワフワちゃんの庭の芝生に、白いレースを固めて作った様な丸い形の美しいガーデンテーブルと、おそらくセットと思われる4つの椅子が置かれていた。

そのテーブルの上には香ばしい匂いのするクッキーと、ハーブティーが注がれた4人分のカップが置いてあり、中央の花瓶にはデルフェニウムと名前の分からない小さな白い花が生けられている。

 

「さあ、お客様、どうぞ」


フワフワちゃんがボクの手から離れてぱたぱた椅子まで走って行き、重たそうに椅子を引いた。

ボクが礼を言って座るとフワフワちゃんも隣の椅子に座る。

フワフワちゃんは両足をせわしなくブラブラ動かし落ち着きがない。

どうやら空いた席に座るであろう2人を待っているらしかった。

ボクはテーブルのカップを持ち上げ一口啜った。

甘い匂い。

そしてとても甘い味。

小さな石が口に入った時のような、「じゃり」という不快な音が口の中で鳴った気がした。

何気なくカップの中を見ると、奇麗な黄色いハーブティーの中に3匹の黒い蟻の死体が上下にぷかぷか浮き沈みしているのが見えた。

ボクは何も言わずにカップをテーブルに戻す。


「ねえ、いつも思うんだけれど、こういうテーブルとか食器とかってどこかで買ってるの?そういうお店がここにもあるの?」


ボクはハーブティーの蟻のことを考えないようにするためにフワフワちゃんに話しかけた。

フワフワちゃんはボクの顔をきょとんとした顔で見ると、また誰も座っていない椅子の方を見てそわそわしだす。

まるでボクが言った事が理解できなかったか、良く聞こえていないみたいだった。


「お店なんかで買ってないわ。ここで生まれたのよ」


デルフェニウムが耳が痛くなる様なキンキン声で話す。白い花も


「でも、お店があるかは私たちも知らない」


と囁く。


「ボクはどうすれば良いんだろう。このまま何もせず何も考えずただ座っていればいいんだろうか」


「そんなに暇なら空でも見てたら?」


デルフェニウムが皮肉っぽく言う。白い花も


「今日は空気が澄んでいて星がよく見えるよ」


と囁く。


 フワフワちゃんは相変わらずだし何もする事がないので花たちに言われた通りにすると、薄紫の空に確かにうっすらと白い星々が見えた。

それは奇麗だったけれど、ボクの知っている星座は1つも見えず、床に散らばった大量のビーズのを思わせた。

雲はそれなりに出ていて、大きな雲たちがゆっくりと同じ方向に移動していた。

きっとこの場所より良い場所を知っているんだ、だから移動している。

そうでなかったらただの愚者だ、きっと。


 嫌な事を考えて、少し頭が痛くなる。

ボクは目をつむって呼吸を整える。

そして楽しい事を考える。

そうすればいつも意識は自然に遠のいて、とりあえず苦痛から意識だけはやり過ごせる。

もう慣れたものだ。


「遅ーい。もう来ないかと思ったんだよ、ボク」


遠くの方でフワフワちゃんの声が聞こえる。


「寝てるの?起きて、ほら。みんな来たんだよ。もう、2人が遅れたからだよ」


目を開けると、ボクの正面に首のないスーツの男の人が、ボクの左(フワフワちゃんの正面)に蛇の尾を持つ大きな白いイタチが座っていた。


まだ頭痛は治りそうになかった。

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