第二章 3
なんとか更新できました。できました、とか言いつつストックを減らしてるだけです。どんどん余裕が無くなっていく……。生産が消費に追い付かない!
そんなこんなで最新話をおとどけします。
病院という場所に来るのは久しぶりだ。俺たちのような若い人間には、基本的にこういう場所には縁がない。……まあ、この年から病院の世話になるような生活はご免被りたいが。
「……ここに来るのも久しぶりだな」
何となく呟いた俺の言葉に、夏美が頷く。
「そうね。最後に君らが来たのって去年の一月頃だから、半年近く来てなかったのね」
夏美の言葉はどこかしみじみとした空気があった。
「まあ、俺ら一応部外者だし」
「……そんなこと気にしなくていいのに」
とは言ってもな。
一応、家族間のことでもあるし。むやみに首を突っ込むのもどうかと思うわけで。
そのまま、それきりで会話は途切れ、病棟の白い廊下を、ただ歩く。
白く清潔な廊下は……皮肉にも生命が削ぎ落とされたような雰囲気を纏っているようにも感じる。清潔というのは――そういうこと。細菌の繁殖を抑えるのが清潔であるなら、それは生命の力を奪う環境を作ることだ。どうでもいいが、『禊ぎ』も元々は身削ぎが原義だったらしい。
「着いたぞ。入ろう」
山岡が、目的の病室に着いたことを告げる。標札には『美濃美香』と書いてある。
「……お邪魔するよ、美香さん、美穂ちゃん」
夏美は病室の扉をそっと開き、軽くお辞儀する。それが夏美の、この部屋の主に対する最低限の礼儀だ。夏美に続き、俺たちも病室に入る。
広い病室だった。個人用の病室としては、おそらくもっとも大きい部類に入るだろう。
まず目に付くのは、部屋の多くを占める、無数の機器。心電図が無機質な電子音を一定間隔で鳴らすのを聞きながら、俺は窓際に視線を移した。
……窓際のベッドに寝ているのは――少女だった。歳は、自分たちより一つ上らしい。長く伸ばしたままの黒髪を枕元に垂らし、静かに横たわっている。
彼女の表情はよく見えない。なぜなら――透明な呼吸機のマスクが、顔全体を覆っているからだ。
薄い布団の上に力なく横たわる痩せ細った腕からは、細い管が何本も伸びている。
呼吸機のマスクとホース、腕から伸びる管、心電用の計測パッド。……無数の機械に繋がれて、機械の力を使って、彼女はやっと、その命を保つことができる。
生きているのではなく――生かされている。この光景を見ると、いつもそんな思いを抱く。
……延命治療。はたして、その選択は正しいのか。そんな、答えのない疑問がいつも浮かぶ。
「なにボーっとしてんの。……ほら」
ちょいちょい、と夏美が指で肩をつついてきた。そして、その指でベッドの脇を指す。
そこに座っているは、14歳くらいの女の子。……美濃美穂。美香さんの妹だ。
彼女は、じっと姉の姿を見ている。彼女がどんな表情をしているのかは、こちら側からは分からない。ただ、俺たちが病室に入ってきても、身動ぎ一つすることなく、姉の見続けている。
その姿を見ていると、声をかけるのをためらわれた。姉妹の間に、決して邪魔していけない何かがあるような気がした。
……だというのに、この女は。
「ねえ、いつものアレやってよ」
「いや、自分でやれよ」
「いつも同じ展開だったら向こうも飽きるじゃん」
「……むしろお定まりの展開だからこそ心温まるものになると思うんだが」
「いいから、ほら」
夏美に強引に腕を掴まれる。やれ、という意思表示。
こうなったら、どうあっても夏美は譲歩しない。……しかたないか。
気配を消して、美穂の背後に忍び寄る。そして――
「……だーれだっ?」
「――ふぎゃ!?」
目隠しをしたのは俺。ただし、声を出したのは夏美。
「うにゅにゅにゅ……?!」
相変わらず言語中枢が崩壊しているやつだ。なんなんだ、うにゅにゅって。
「夏美、さん?」
お、やっと日本語喋った。
「ぶっぶー!」
喜々として間違いを告げる夏美。……これをやりたいがために俺を使ったということだ。夏美的ルールでは声を出した人間ではなく目隠しした人間を当てなければ正解にならないらしい。
「……答えは!」
「朝木くんでしたー」
後半は棒読み。なんせ俺の声だからな。
「朝木さん……?」
美穂の顔から手を外すと、勢いよく振り返り、目をまん丸にして驚いている。
「何しに来たんですか?」
……コケていいですか。いや、実際にはコケないけど。アニメなら確実にコケるシーンだ。
「……見て分からんのか」
「ふむ……」
美穂は顎に手を当てて思案し
「……ッ!!」
なぜか――顔を真っ赤にして俺の前に立ち塞がる。
「……待て。今どういう勘違いをした?」
途方もなく嫌な予感がして訊いてみるが、
「お姉ちゃんには手を出させません!」
「は……?」
……コイツ、何言ってんの?
「つ、つまりアレでしょう?! 意識がないのをいいことに、お姉ちゃんをオカズにして、オ、オナ、オナヌ――フゴォ!?」
ピー音が挿入される寸前に、慌てて口を塞ぐ。
「なに言いだしてんだお前?!」
仮にも中学生の女子なんだから、もっと色々わきまえろ!
「離して下さい!」
「いでっ?!」
手に噛み付くとか……猫かお前は!
「私、この前DVDでみました! 病院のベッドに寝てる女の子の所に、男の子がお見舞いにやってきて、オナ――フゴォ?! フガガガガ!「いでっ?!」しちゃう話でしょ?!」
……だから禁則語を言うなっちゅうに!
「あんな病みまくりの厨二鬱アニメを基準にしないでくれ……。だいたい中学生の女子がオナ……とか言うな」
「失礼な、別に意味くらい分かってます。馬鹿にしないで下さい」
「意味が分かれば使ってもいいってもんでもねえよ……」
だめだ……コイツの相手は疲れる。――助けてくれ、夏美。
とアイコンタクトを送ると、
「じゃあ美穂ちゃんはオナヌーしたことあるの?」
……爆弾投下。なぜお前は、そこでさらに場を混乱させるようなことを言う。
「……えーと、……あ、……ありますょ…………」
思いっきりキョドリながら言う美穂。
「……あー、これ絶対経験ないわ」
「なんでそんなぞんざいな扱いなんですか!」
ほらね、また空気がカオスになってくるよ。
「ちなみにそういうお前らは経験あるのか?」
……山岡! お前まで悪ノリかよ!
「私はあるわよ」
夏美よ! なぜお前もそこで普通に答える!? お前らには恥じらいってものがないのか!!
「……まあ一度きりだけどね。特に面白くもなかったし」
じゃあなぜにやったし。とは、さすがに訊けないが。
「で、お前は?」
「いや、聞くまでもねーだろ。健全な男子なら……」
ですよねー、と二人でハモる。……この一連のやりとりに意味はあったのか?
話題は収束。無駄に無駄を重ねた紆余曲折の末、部屋は静かになる。そのタイミングを見計らい、夏美は口火を切った。
「あ、じゃあ改めて。お邪魔してます。……お姉さんのお見舞いに来たよ」
お邪魔します、じゃなくてお邪魔してます、なんだな。事後承諾であるあたりが夏美らしい。
「ありがとうございます。夏美さん。山岡さん」
そう言って深々と頭を下げる美穂。
「あの……俺は?」
「あ、忘れてました」
しれっと答える美穂。
「……絶対わざとだろ!」
見舞いというかただ病室で騒ぐだけの時間が、ゆっくりと過ぎて行った。
最初から予測できていたことですが展開が非常にまったりですね。もう少しスピーディーに進めたいと思うもなかなかそう上手くはいかないものです。悪者の腕が悪いのかはたまたプロットが悪いのか……。ていうかプロットも作者の責任ですね。だってこれ、原案考えたの中二の時だもん、なんて言い訳は無意味ですよね。頑張ります。
それはそうと原稿の執筆速度がピンチなんですよね。推敲する時間は取れたのですが肝心の素案を執筆する時間がね……。忙しい時期だとかモチベーションが云々だとか。おそらく一番の原因は同時並行で幾つもプランを進めようとする悪癖のせいでしょうが……。
なんつって、本文のクオリティをあとがきで誤魔化そうとする悒燈なのでした。
次回も……期日に間に合うように頑張ります。