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踊る夢人形  作者: 執筆挫折マン
第一章
4/10

第一章 3

というわけで、続編をお送りします。今回は割と長めの回なので、そこそこボリュームがあるかもしれません。

「ところで念のために訊いておくけどよ、こいつを夢だと思い込んだりしてねぇだろーな?」

 少女は開口一番、そんなことを訊いてきた。

「さあ……」

「さあってなんだ、ハッキリ返事しろ!」

 ……なんか怒られたし。

「いや、最初は夢だと思ってたんだけどさ。でも感覚が妙にリアルすぎるし。でも、自分が少女に変身したって考えるほどファンタジーなアタマはしてないし。だから……」

「だから?」

「睡眠中にゲームしてるとか。脳波で通信して。なんかさっきあったぬいぐるみがゲームとか言ってたし。……っていうのが、今のところ一番有力な仮説」

「なるほどなあ……」

 少女は腕を組んで感心したように頷き

「まあ結論から言うと間違ってるがな」

 ……間違ってるのかよ。

「でも良い線はいってるぜ。睡眠中で操作って部分は正しい。ただし、操作方法は脳波じゃねえ。ついでにいうと、これはゲームであってゲームじゃねえ」

「……ゲームじゃなかったら何なわけ?」


「――現実」


 少女は一言で答えた。

「これは、現実で起こってることなんだ。……あたしが調査した結果得られた、おそらく真実に限りなく近いであろう仮説はこうだ」

 少女は得意げに語りはじめる。最初に通り魔じみた遭遇をしたから危険人物かと思ったが、案外良い奴かもしれない。

「この身体は、言うならばある種の浮遊霊。ゲームの主催者っつうあのぬいぐるみどもが、睡眠中のあたしたちの身体から霊魂を抜き取り、こういうカタチに仕立て上げた。物質的な実体を持ち、通常レベルを遥かに凌駕した身体能力を持ち、固有の武器と能力を持つ、戦闘用の駒。これがあいつらが言うドリームドールの正体だ」

 なるほど、そう言えば言っていたな。夢を見ている間に自分の意識で操作する、とか。それはそういう意味だったのか。

「で、あのぬいぐるみども――あたしはクマもんって呼んでるが、クマもんどもは夢人形(ドリームドール)をバトルロワイヤル形式で互いに戦わせてる。それがどういう意図かはわからねえがな」

「でもこの体が現実に存在するものだって確証はどうやって得たわけ?」

「単に人のいる場所まで行って確かめただけだ。色々実験した」

「へえ……」

 見た目に違わず行動力のある人間だな。自分だったら絶対そこまでしない。とりあえず惰性で動くのがモットーと化してるからな。

「そういやここってどこなわけ? あんまり人の気配はしないけど」

「田舎町の一角だよ。場所も知ってるがお前には教えてやらねえ」

「いや、別にいいけど……」

 知ったところで得することもないだろう。

「さて……」

 少女は無造作に伸びをして、立ち上がる。またどこかに移動するのか……、いや――

 ――背筋に悪寒が奔る。

 咄嗟に地面を転がるのと、日本刀がすぐそばを通過するのは、ほとんど同じタイミングだった。

「へえ……いい反応してんじゃねーか」

 ――ヒュン、という風切り音。恐らくは追撃。転がる勢いを利用して立ち上がり、砂利――ではなく枕木を蹴って跳躍。日本刀のリーチから逃れる。

 少女は、笑みを浮かべていた。容赦無く振るった日本刀を肩に担ぎ、不敵に笑みを浮かべていた。

「どういう――!?」

 言いかけて、やめる。……思考を、切り替える。

 これは、バトルロワイヤルであり、孤独なサバイバルだ。自分以外の人間は元々敵。最初味方だった人間を裏切って先に始末するのも駆け引きの一つなのだ。

 ただ……

「なんで、このタイミングに……」

 殺すなら、出会い頭のあの時のほうが良かったはずだ。なんでいちいち親切に説明してから勝負をしかけようとするのか。

「丸腰のガキ斬っても仕方ないって言ったろ」

「――今も丸腰ですが?!」

「バーロ。ものの喩えだよ。比喩表現ぐれー分かれ間抜け!」

 少女は日本刀をこちらに突き付けて、

「ちなみに夢人形は一人一つ固有の武器を持ってる。あたしならこの日本刀だ。おめーも出してみろ」

「出してみろ、って……」

 ……どうやって。

「気合だよ気合い! 出ろって念じるんだ!」

 って言われても。念じてるつもりだが、ウンともスンとも言わん。

「ぼやっとしてっとなます斬りにすんぞー!」

「わぁああああっ!?」

 攻撃再開。襲いかかる日本刀から必死に逃げる。

 くそっ! せめて武器を出せるようになるまで待ってくれるとかそういう慈悲はないのかよ! いや、客観的に見たらこれでも充分慈悲深いんだろうけどさ!

 線路の上を必死に逃げ惑う。とにかく足場が悪く、なんとか枕木の上だけを踏むようにして飛び跳ねつつ、ひたすら距離をとる。間違って砂利でも踏んだりしたらおしまいだ。

「しっかし、すばしっこいなーおめー。よくもまあそんなぴょんぴょん飛び跳ねれるもんだ。……でも」

 振り回される刀を躱し、もう一歩後退しようとしたところで――気付く。

「残念ながらそれ以上後ろに下がれねえぜ」

 しまった、と気付いた時にはもう襲遅い。いつのまにか、壁を背にしてしまっている。いや……そう誘導されたのだ。

 どうする……?

「無理を承知で飛び降りてみるか? ま、死にはしないだろーがよ」

 死にはしない。それが本当だとしても――無傷で済むわけがない。致命的な負傷をして――結局はやられる。

 だったら……

「だったら、イチかバチか……!」

「へえ、刀に徒手で挑むかよ」

 拳を構えた自分の姿を見て、少女は面白そうな声を上げ、

「いいぜ、相手してやるよ」

 刀を、それまで片手でやたらめったら振り回していた刀を、両手でピタリと構える。それは、素人目に見ても隙のない構え。今までの遊びとは違う本気の構えだということが嫌でも思い知らされる。

 こいつに徒手で対抗?

 ――できるわけないだろ。

 拳を構えたところで……刀は防げない。これだけのリーチ差を埋める戦闘技術なんて、自分にはない。いくら素手で足掻いたところで――ハナっから、勝負になんてなるわけないのだ。

 ……だから。

 武器だ。

 武器が必要だ。

 武器が無ければやられる。

 武器を出すんだ。

 ……自分の、武器を――!!

「来い……!!」

 握り締めていた拳を開き、右手を前に突き出す。そして、

 チャキ、というかすかな金属音とともに、――それが右手に握りこまれる。

「これが、自分の……」

 それは、拳銃。優美な外見をした、リボルバー式の拳銃だった。

 なんとなく、わかった。夢人形の持つ、武器というものが。

 武器はイメージの具現なのだ。敵を倒すモノのイメージ。この少女の場合は日本刀で――自分は銃だった。

「形成、逆転だ」

 銃を、ピタリと少女に突きつける。

「この距離なら、外さない」

 いくら素人でも、この距離なら絶対に当てられる。なぜだか、その確信がある。そして――敵は、一歩ではこの間合いを詰められない。

「いくら刀を振り回したって、銃には敵わない。……終わりだよ」

 真っ直ぐに心臓を狙い、引き金を引く。


 ――パァン! と。

 破裂音が響き、そして――


「なーに寝ぼけたこと言ってやがるんだっつーの!」


 キンッ! と。

 呆気なく――銃弾は弾かれる。

 少女の日本刀で、当たり前のように弾かれる。

「な――?!」

「刀は銃には敵わない? それは人間の常識だろーが間抜け! 夢人形(ドリームドール)の身体能力と反応速度を持ってすれば躱すのも弾くのも簡単なんだよ!」

「そんな馬鹿な……」

 刃物で弾を弾くなんてメチャクチャだ。この戦いでは、常識なんて通用しないってことか。

 だが……

「これでどうだ!」

 立て続けに五発、残りの弾を全弾撃ち込む。しかも、それぞれ微妙に狙いをずらして。一発だけなら弾くなり躱すなりできたかもしれないが、一気に五発なら――

「シロートの拳銃なんざ恐くねーよ」

 ……全部躱された。

 一発目は首を振って避けることで、二発目は刀で弾いて。

 ……三発目以降は地面に転がって。

「さて、もう終わりか?」

 立ち上がった彼女は、余裕しゃくしゃく、といった顔でくいくいと指を動かす。

「まだまだ!」

 当たらないなら当たるまで連射してやる、と再び引き金をを立て続けに弾くが、

「え? ……弾切れ?!」

 ガチッ! という不吉な音とともに、弾は二発で終わる。

「当たり前だっつーの。銃弾が無制限で無限に撃てるわきゃねーだろ」

「……いやいやいや! 普通こういうのって無限だよ! 弾切れとか現実的すぎるから!」

「何言ってんだ。無限に撃てたらマシンガンと一緒じゃねえか」

 少女は日本刀を肩に担ぎ直し

「まあいい、再装填するまで待ってやるぜ」

 ……ホント余裕だなおい。ナメられてるのか? ……ナメられてんでしょうね。奴が本気だしゃ自分なんて一瞬でやられるっての。

「ていうかどうなってんのこのシステム……」

「教えてやろうか?」

 独り言のつもりだったが耳ざとく聞きつけた少女はそんなことを言ってきた。まったく……モノ好きなやつだ。

夢人形ドリームドールの銃ってのは、再装填(リロード)にかかる時間が決まってんだ。リロードの方式は大きく分けて二つ。常時リロードと打ち切りリロード。常時リロードは弾丸一発が消費されるごとにリロードを開始しする。それに対して打ち切りリロードは弾丸を全て消費してか一気にリロード。お前のヤツは常時リロードで一発につき十秒ってとこか。……ははっ! 普通の拳銃のほうがよっぽど早いじゃねえか!」

 まったくだ。他はご都合主義設定のくせに、どうしてこんなことだけ妙に拘ってるんだ。

「ゲーセンのゲームかよ、っての。これじゃあジムのス○レーガンAとスプ○ーガンBみたいじゃんか。ホントどうなってんのこれ……」

 しかしこれでだいたいわかった。一発につき十秒。撃ち切ればフル装填まで一分。

 ……長すぎる。戦闘においてその遅さは致命的だ。

「せめて一発一発が必殺レベルの威力なら……」

 だが悲しいかな。所詮は日本刀で軽く弾かれる威力でしかないのだ。

「しっかし所詮それだけってのも興醒めだな……。手間掛けたにしちゃああまりにお粗末な結果だぜ……」

 すう、と。

 少女の眼が細まる。

「まったく、アテが外れたぜ。そろそろ……ヤるか」

 少女は再び日本刀を構える。青眼というのだろうか、中段に構え、その切っ先の延長はちょうど喉を指している。

 おそらくこれは――攻防どちらもできる構え、例えこの状況で銃を撃ったとしても、一発目は刀で弾かれ――二発目を打つ前に叩き切られる。

 ――どうする。

 猶予の時間は終わったらしい。彼女は――ここで仕留める気だ。

 ――どうする……!?

 どう考えても、勝算はない。そして、この場を凌ぐ方法も思いつかない。

 一か八か交渉してみるか? ……いや、無駄だ。リスクを犯すならまず殺す方を選ぶだろう。そんな不確かな方法のために武器を放棄するなんて論外すぎる。

 だとして、武器を持っていて何になる? 勝てないにしても、何とか逃げる間くらい稼げないか?

 躊躇。この後に及んでの――土壇場での、優柔不断。

 こんな時でさえ、自分の悪癖は健在で。

 愕然としたまま動けない自分。

 ――少女の重心が前に傾ぐ。

 無駄と知りつつ、銃の引き金に指をかけ、やけにゆっくりと流れる時間の中で――……


 ――それは、ほとんど本能的な判断だった。少女が――唐突に地面に身を投げ出すのを見て、咄嗟に、自分もそれに習う。尋常ではない危機感が自分の身体を突き動かす。


 直後――周りに、一斉に弾ける銃弾。線路の砂利が弾け飛び、あるいは線路の金属部分に当たり不協和音を奏でる。

「チッ!」

 少女は舌打ちし――次の瞬間、彼女に襟首を引っ掴まれる。

「ちょ――!?」

 首の閉まった状態で抗議の声を上げるも、完全スルー。恐ろしい力で線路の、高架の端へと引き摺られ、


 ――お空へダイブ。


「ぇええええ――っ!?」

 上げた悲鳴は夜空に吸い込まれて。

 地面に激突――する前に態勢を立て直し、足から着地。

 ……したはいいものの、自由落下の運動エネルギーをその程度で殺しきれるわけもなく。

 咄嗟にとった素人の前方回転受身も不完全で。

「痛っ……ッ!?」

 結果、無様に転がった末、足首と腰を思いっきり痛め、頭まで打つ始末。……そしてとどめはゴミ箱に頭からダイブ。痛みに悪臭という踏んだり蹴ったりのオプションだ。

 ……でもあれだな。意外とこの高さからでも飛び降りれるんだな。最初からこうして逃げりゃ良かった。

「情けねえ。ぼさっとしてねえでさっさと逃げんぞ」

 ゴミ箱を放り投げ起き上がった所で、少女に腕を掴まれ、高架の真下に引き込まれる。――直後、足元に弾ける銃弾。

 そのまま二人で、高架下の奥へと退避する。

「おい」

 銃弾の届かない所まで来た所で、少女は唐突に肩を掴んできた。

 そして、とんでもないことを言う。

「単刀直入に言うぞ。……あたしと組め」

いつになったら夢パートが終わるんだ! とお思いの方もいるかもしれませんが、……夢パートだけで一章が潰れます。具体的にはこれを除いてあと二回。二章からは日常シーン突入なので、バトルはうんざりだぜ、という人はご安心ください。ではまた、次の月曜に。

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