第一章 1
本編の始まりです。
これは夢だ。
夢を見るのは久しぶりだが、夢を夢と自覚できる夢を見るのは、さらに久しぶりだった。
いわゆる明晰夢というやつだろうか。
身体が軽い。いや、身体が軽いのは当たり前だ。だってこれは、夢なのだから。
改めて辺りを見渡す。どうやらここは駅の中。割と真っ暗なはずの駅の中が見えるのも、夢補正がかかっているからだろう。
見ると、目の前に改札があった。ので、なんとなく飛び越えて中に入ってみる。やけに軽々と身体が動く。なるほど、今回の夢は身体能力に補正がかかっているらしい。
そのままの勢いで、止まったままのエスカレーターを駆け上がる。
そして――
「――当選、おめでとうございまーすっ!!」
ぱんぱかぱーん! という間抜けなBGMとともに、あちこちから照らされるスポットライト。
その光の中に立つのは、クマのぬいぐるみだった。
「あなたはこのゲームの参加資格を得た百人目の当選者となりました!」
なるほど、ぬいぐるみが喋る姿は想像以上にシュールだ。声もシュールだし、布製の口がパクパク動く姿は妙なツボにはまってしまいそうだった。
「……で、当選者って?」
取り敢えずノリでぬいぐるみに絡んでみる。何せこれは夢なのだ。好き放題するのが勝ちということである。
「先ほど申し上げた通り、ゲームの参加資格を得たということです。では、ゲームの説明をいたし……、と、その前に――」
ぬいぐるみの正面がキラキラと光りだし、何かが現れる。
「これは、ワタクシからのプレゼントです」
それは、鏡だった。よく百貨店なんかにおいている全身が見える姿見だ。……あれ、この展開どこかのアニメで見たような…………
案の条、そこに映っていたのは……
「誰? この人?」
……案の条ではなかった。
映っていたのは、小さな女の子だった。
外見年齢は12歳程度だろうか。それなりに整った顔立ちと長い黒髪が印象的だった。服装は、桃色の簡素なワンピース。鏡の中の彼女は、怪訝そうな目でこちらを見ている。
なんだろうか、この鏡は。某ゲームのチュートリアルのように自分の姿を見せるアイテムではないのか。ありふれた魔法物語にあるような遠くのどこかを映す鏡なのだろうか。
などと思ったわけだが、
「あなたの姿自身ですよ」
「は――?」
本当に、は? だったが、鏡の中の女の子もは? と言ったようだった。少なくともそういう口の形をした。
「信じられないなら単純に自分の身体を見下ろしてみればどうでしょう。それが一番てっとり早いと思いますが」
言われてみて、確かにそれが最善だと気づく。(なぜか)恐る恐る、視線を下ろすと……
「どうしたんですか。そんなガックリとうな垂れて」
「いや……女の子なのに胸が無いってさあ……なんだか残念だなあって…………」
別にそういう趣味があるわけではないが。ただ胸の無い女の子を見るのは状況如何にかかわらず一抹の寂しさを感じてしまうものだ。まあ外見年齢がそもそも幼いわけだし、仕方ないが。
「……でさ、何でか知らないけど女の子の姿になってるのはわかったけど。……それってゲームと何の関係が?」
というか自覚してみれば、そもそも自分の声も女の子のものだし、視点だっていつもより低い。何で今まで気づかなかったのだろうか。まあ夢なんてそんなものか。
「その姿こそ、このゲームで使用するあなたのアバターです。我々は夢人形と呼んでいますが」
「夢人形……? なんでまた、そんな名前に?」
「夢を見ている間にあなたの意識によって操作される人形のようなもの、だからです」
「何て安直なネーミング……」
だいたい『夢人形』なんて言ったらもう少しロマンのありそうなものを想起してしまうじゃないか。
「名前のセンスに拘るのは厨二病だけですから。重要なのは分かりやすさですよ」
「まあそれはわかるけど……」
自分もそろそろ厨二病を卒業したはずの年頃だ。もっとも、この夢自体が少々厨二的だが、まあ夢の中だし別にいいか。
「それでゲームの内容は?」
雑談もいいけどそろそろ本題にしたいものだ。今現在、現実での時刻が何時かは知らないが、夢というのは割と睡眠の浅くなる朝方に見るものだ。ということは、いつ起床時間が来るがわかったものではない。そうなる前に面白い展開になって欲しい。
「ゲームの内容は至極単純」
シュールなクマのぬいぐるみは口を上下させながら甲高い声で喋る。……やばい、ツボにはまりそうだよこれ。
「あなたと似た条件の参加者が一定のエリア内に複数存在します。そしてゲームの参加者は――」
そこでぬいぐるみは一拍おいて、
「――互いに殺しあっていただきます」
……一拍おくほどのこともないくらい、ありふれた内容だった。
すまんね、オチとしては弱いけどここで区切るしかないようだ。
一応バトルもの、というつもりで作っています。夢人形のシステムはある意味魔法少女ものといえるかもしれません。やや変則的な設定の部分もありますが基本やっていることはありきたりのものです。
この小説はサイトの使いかたを覚える練習という意味合いも強く、クオリティはいまいちかもしれません。が、そこはご容赦ください。一応、最低限の質は保つつもりです。