↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/97

その3


 衝撃のお漏らし恥辱の乱の後、軍師さんの言葉に呆然としていた私は、そのまま私を拘束していたジェラードさんに食肉牛よろしく天幕の外に連れ出され、乱雑に物が散らかり、申し訳程度に居住スペースが確保された小振りなテントに案内された。


「元は資材置きに使ってたテントだが、他に場所がない故な、悪いが我慢してくれ」


 劣勢だ何だと言っていたからには、ここは戦場における野営地なのだろう。私のような不審な人間に与えるスペースは無いのが道理だ。むしろ、個人でテントを与えられた訳だから、かなり優遇してくれているのだろう。


「あ、あり、アガリクス・・・ちがっ」


 そのような気遣いへの礼をと思ってジェラードさんに答えようとするが、この体たらく。

 目線すら合わせられず、感謝の意すら伝えられないとは。慣れた事とは言え辛い。

 特に、このジェラードさんは、どうも弟らしい赤毛の野蛮獣と違って紳士っぽいので、何とかまともにコミュニケーションを取りたいのだが。

 決して、ジェラードさんが30才位のダンディなイケメンで私のタイプだからではない。あぁ、無精ひげイイ・・・。


「まぁ、落ち着け。陛下が仰った以上、貴殿の安全は保証されておる。また午後から呼び出す事もあるかもしれんが、貴殿の身をどうこうするという事は無い筈だ。落ち着いてテントで体を休めると良い」


 あわあわ言ってるうちに、ジェラードさんは「では」と手を一振り、テントを後にした。

 

 その後ろ姿を追ううちに、周囲にちらほらいる兵士さん方からの視線に気付き、急いでテントに入る。

 いきなり降ってわいたような私が不審で仕方ないのだろう、というか、スーパー入店にすら決死の覚悟がいる私に、この男の兵士だらけの異世界野営地は難易度が高すぎる。


「そう・・・、異世界だよね、これ・・・」


 事、ここに至ってはそう認識せざるを得ない。

 細かい疑問は残るけど、どう考えても私がスーパーからの帰りに車にひかれてからの記憶の繋がりが無いし。更にはジェラードさんとかもろ北欧系の彫りの深い顔立ちなのに日本語が通じてしまっているし。あ、そう言えば、あの会議室にいた王様っぽい人の姿は見れなかったな。きっとイケメンさんだったんだろうな。あのおっかない赤毛の人も顔は整ってた気がするし。それにあの三流デリカシーナシ軍師も顔だけは良かったな。


「ふふ。良いのは顔だけじゃあ、無いんですけどねぇ」

「んがっんっん!?」


 いきなりの男の声に、私は珍妙な声をあげた。


「い、いき、イナズマイレ・・・ちがっ」

「いきなりじゃないですよ?声をかけたの気づきませんでした?」


 気づきませんでした。

 っていうか、近いぃ。

 このテント、元資材置き場だったというだけあって本当に狭い。何とか寝台を置きましたってスペースしかない。故に、いかに周りと比べると優男風だった軍師さんと言えど、成人男性が入ってくると狭くて密着せざるを得ない訳で。

 前掲姿勢で入ってきた軍師さんの顔に前髪が掛かって実にイイというか何というか。


「軍師さんではなくて、私の名前はネストールと言います。そう言えばあなたの名前をお聞きしていませんでしたね」

「わ、わた、ワターシノナマーエワ」

「急に片言になりましたね・・・。ゆっくり、心の中で思うだけで結構ですよ」

「・・・・・・」


 私の名前は佐谷茜。って、あなたやっぱり、人の心がっ・・・?


「サタニアカネ・・・アカネさんとお呼びすれば良いのでしょうかね?そして、お察しの通り私は人の心が読めます。精度なんかにかなり制約が付きますけどね」


 や、やっぱり!この精神的痴漢男!残念イケメン!スカトロマニア!

 身の危険を感じて私は思いきりテントの端まで後ずさった。とは言っても狭いので3歩分が限界だったが。


「ス、スカ・・・何ですか?心が読めると言っても、私とあなたに共通の概念上での思考しか読めませんし、それに凄く浅い部分しか読めませんよ。例えば、ある人物がいて、野菜が眼前にあった場合に、その野菜が好きか嫌いかは読めます。しかし、野菜が眼前に無ければ、野菜が好きかどうかは分かりません。表層に出ている思考しか読めないんですよ。それに、心理的な制御に長けた人間なら、逆に上辺の感情を操作されて騙されるなんて事もあります」


 うわぁ、凄い長口上。というか、それって、要約して意訳すると、私が単純て事なんじゃ?悪口なの!?この三流詐欺師!


「軍師ですらなくなりましたか。まぁ、良いですが。で、私がここに来た理由ですが、アカネさん、あなた下半身びしょ濡れのままですよね?」

「わ、わすれなぐさ・・・おしぃっ」


 忘れようとしてたのに、この人は・・・。というか、言い方がエロい。まだ20代位で若そうに見えるが、実はおっさんなのだろうか?

 で、彼のご指摘通り、私は自身のお漏らしで綿パンが変色したままだった。だって、のほほんと平和にいきる陰気系帰宅部女子がいきなり剣を首に突きつけられたのだから、仕方がない。多分全国の陰気系帰宅部女子にアンケート取っても95%は「仕方ない」「時代の必然」「大いなる運命のうねり」「君と濡らし合うRPG」って返答されると思う。


「着替え自体も無かったようですしね。それも含めてお世話する方を紹介しますので、少々お待ちください」


 先ほどの御高説通り、やはりアンケート云々は伝わらなかったのか、ツッコミ待ちだった私を残して軍師さん、もとい、ネストールさんはテントを出ていき、入れ替わりに女性の人が入ってきた。


「お初にお目もじします。私はジェナス様付きの女官でダイアーと申します。今野営地でのアカネ様の身の回り一切を取り仕切る事となりました。よろしくお願いいたします」


 ぺこりと、品のある仕草で頭を下げるダイアーさん。輝く深い色の金髪を首の後ろで一本に縛り、女官服というのだろうか、紺色の首まで覆う制服めいた服装であっても尚、ほわりと匂い立つような色香をお持ちの、実に落ち着いた印象の女性だった。


「よ、よろ、よし、吉野ヶ里遺跡、ちがっ」

「よろしくお願いします。だそうです。では、あとはお任せしましたよ、ダイアーさん。あ、それと、アカネさんは少し言葉が拙いので、留意してあげてくださいね」

「はい。委細、畏まりまして」


 立ち去るネストールさんに一礼した後、ダイアーさんは手に持っていた革製っぽい手提げ鞄を開けながら、私に向き直った。


「では、早速お着替えしましょうねぇ」

「は、はぃ」


 にこりと、とろけるような笑みで私を幼児扱いするダイアーさんに、少しだけ「ん?」と思わなくもなかったが、気にせず、とにかくゴワゴワと気持ちの悪い下半身を何とかすべく、出きるだけ友好的に見えるように笑顔を返した。悲しいかな、いつもの如く視線を合わせる事は出来なかったが。


 間もなく、次々と妙にフリフリやらフワフワといった擬音が似合う衣服を私の体に当て始めるダイアーさん。


「うん、キャンベルお嬢様の子供時分の訪問着が合いそうね。あぁ、懐かしいわ。では、アカネ様、脱ぎ脱ぎ致しましょうねぇ」

「あ、ぁい」


 きらっきらした素敵な笑顔を向けてくるダイアーさんに、私はそう答えるほかなく、かなり分かりやすい誤解があるなぁとか、日本人て本当に童顔に見えちゃうんだなぁとか色々考えているうちに、私はあれよあれよと綿パンとワイシャツを脱がされ、下着姿に剥かれてしまっていた。

 恥ずかし気に、致しちゃったせいで濡れている股間と胸元を必死で隠している私を見て、ダイアーさんは初々しいなぁというようにニコリと微笑んだ。


「さぁさぁ、アカネ様、恥ずかしい事なんて無いんですよ。お胸はすぐに膨らみますし、お漏らしもすぐに直りますからね。さ、ちゃぁんと最後まで脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」

「・・・・・・はい」


 消え入るように答えた私は、実は割とお胸の発育は良い方で。下の方も、その、何というか、割と、豊かというか、良い放牧地ですね的なアレな訳で。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 先ほどまでハイテンションだったものだから、一転、無言になったダイアーさんが居たたまれない。しかし、それでも私の着替えを幇助する動きに如才無く、さすがは戦地にまで付いてくる程の女官さんだと思った。


「失礼ですが、アカネ様はお幾つでいらっしゃるのですか?」

「じ、16、です」

「そうですか」


 そして、余計な事を言わないという美徳を知っている点でも、さすがだなと思った。

 何才だと思ってたの?と聞けなかったコミュ障の自分が、今はちょっと誇らしく思えた気がした。


 が、それ故に、誤解の元、壮大にフリフリした子供向け感バリバリのドレスを着てしまった事に対して、今さら、他の大人向けの物に着替えましょうかとはお互いに言い出せず、「そろそろ昼食をご用意致しますね」「お、おね、おね外資系ファンド、ちがっ」等々のやり取りを経て、何となく普通の空気を取り戻すまで数時間が掛かったとか何とか。

 ちなみに、出された食事は多分に乾物が多かったが、一緒に出されたシチューが思いの他美味しく、ダイアーさんとの不思議な空気を打ち消すのに多分に役だったことを付け加えておく。


 そして、丁度、食後の一服とばかりにミントっぽい後味の緑茶を飲んでいると、テントの外から声が掛かった。


「ネストールです。これから午後の軍議が始まります。アカネさん、あなたにも同席して貰います。用意はよろしいですね?」


「は、はい」




 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。