食事は大切
私が一体、何をしたというのだ?
不幸の三段構えは、どうにかならないのか?
この世界で真っ当に生きてきたか? といえば首を縦に振ることなどできないが。
魔物退治と称して、悪代官のような輩の館を吹っ飛ばしてみたり、悪どい商売をしている商人やそれにつるむ役人の屋敷にワザと魔物を誘導させて、屋敷を半壊&証文吹っ飛ばしで大混乱。ああ、あれはかなり傑作だったぞ。一石二鳥の捕り物で、効率的だろう? 私を化け物扱いして、石を投げるなど行動に出た者は、倍返し。その他、数えきれないほどあるが、まあいいじゃないか。些細なことだろう。子供のかわいい悪戯だ。今は、そんな話じゃなかったな。
私は今、日の光が届かない地下にいる。
地下の割には、広く清潔な室内。寝かされているベッドは、プリンセス仕様の天蓋付き。薄いベールから見える室内は広い、30畳はある。見える範囲で言えば、二人掛けのソファーが二つにテーブル。暖炉に衣装ダンスに本棚に机。それにドアが3つ。トイレ、浴室、外へ続くドアか。そして見渡すだけで分かる人が生活できる空間。このワンフロアーで生活に必要なものがそろっている。
これは、まさか監禁ってやつか?
あの男、真正の変態だったわけだ。そうか。ガキを愛でる性癖があったのだな。しかたがない。人の好みをどうこう言っても治るものではない。クスリが効かない病気だ。それならばもう少し顔の造りが整った子供を紹介してやろう。
ベッドから降りてソファーに座る。自分の姿を見てギョッとするものの、今更もう何に驚いていいのかわからんな。私の恰好は、ホレアレだ。ナイトドレス子供版だ。昔、ヨーロッパ貴族の子女が来ているパジャマだな。ふんだんに使われたレース&ヒラヒラだ。下がスースーしてかなわんな。
それにしても誰が着替えさせたのだ。これでも列記とした20代の淑女なのだぞ。よくもタダで人の裸を見たものだ。この代償は高いぞ。他に何もしてくれなかっただろうな。服の隙間から体を観察。ふむ。何もなし。一安心だ。鬱血痕なし、縄の跡なし。いや待て。あいつ手錠を持っていなかったか? 人の目の前で威嚇にも近い行動をとっていやがったな。ふと、袖口をまくり上げて自身の手首を見ると、タトゥーのように肌にこすっても消えない黒い縄目が両手首を二周するようにグルリと描かれてあった。
これは・・・・・。
「清浄なる戒め。」
なんやら高尚な匂いが漂うが、これはタダの拘束魔法だ。が性質が悪い。これは解除魔法があるが、掛けた本人にしか解けない。精神を乗っ取るとか体の自由を奪い勝手に動かすとか悪質なものではないが、(そんな催眠術のような魔法はこの世界には存在をしていない。)この「清浄なる戒め」は、体の自由を奪い、なおかつ魔力を0にしてしまう。だから私は、今、そこら辺に転がっているガキンチョだ。待て、それならこのままの方が私の体が成長をしてくれるかもしれない? それは追々、考えるとしてだな。
罪人扱いだな。
アイツ私を何タラ国に売りつけるつもりか?
そんなにこの国は困窮しているのか? それなら少しぐらい寄付してやってもいいぞ。それにしても何タラ国の奴らもいつまでもこのまま放置しておくわけにはいかんな。いつまでも追いかけっこをしているわけにもいかない。実際に実害が出ている。黙っていれば、いい気になりやがって。ストーカー行為は犯罪なのだぞ。そういえば、奴らとまともに話をしたことなどなかったな。一度じっくり、話をしてみるのもいいかもしれん。誤解かもしれないからな。なんて素晴らしい案なんだ。
問題はアイツだ。
真正変態メガネ男だ。人を罪人扱いし、何タラ国に売りつけるか戦争の道具にしようとしている奴だ。ここから逃げ出す方法、戒めを外す方法。考えることはいくらでもあるが、まずは腹ごしらえだ。テーブルの上の呼び鈴を手に取って鳴らす。沈んだ空気の中をガラスの音が鳴り響く。すると扉らしきドアの除き窓よりも小さな穴からくぐもった声が聞こえてきた。チラリと見える格子にむかっ腹が立ってくるが、ここは我慢だ。
「なにか御用でしょうか?」
やけに丁寧な言葉使いだな。私はどういう設定になっているんだ。
「腹がすいた。」
「承知致しました。しばらくお待ちください。」
数十分後、一人の女性が男性一人を連れだって室内に入ってきた。出入り口の扉は鉄の格子ドアと木の扉の二重構造になっていた。なんでわかったのかだって? 鍵を開けるガチャガチャする音がうるさかったからな。幾つも施錠されている鍵を開ける音、扉を開ける音。判然としている。
それにしてもやけに物々しいな。
女と一緒に入ってきた男は、以前見かけたキツネ目の男ではなかったが、神聖騎士の鎧をまとい剣を腰にぶら下げていた。濃い茶色の短髪でいかにも生真面目そうな体育体系の青年だった。「青年、肩の力を抜きたまえ」と後で助言でもしておいてやろう。でこの目の前の女性。嫌な感じがビシバシするな。綺麗系のお姉さまタイプ。なんで私があなたみたいな子の面倒をみなくてはいけないの感が漂いまくっている。主人の前では優秀で陰で新人イジメをするタイプだ。
「初めまして私、メイラと申します。シルビアーノ様の命で今日から「なずは様」のお世話をいいつかりました。よろしくお願い致します。」
「・・・・・・・・・。」
私は無言で頭を下げてきた女を見る。
なんでアンタによろしくされなきゃならんのだ。私は拉致監禁されたのだ。「こちらこそよろしく。」なんて馬鹿らしく言ってられるか。私はチラリと女の後ろに立っている男に目を向けた。男は私の視線に気が付いて、ハッとしてから姿勢を正した。
「私はシルビアーノ様から命を受け、昨日から「なずは様」の護衛をしております、ユニ=ライアードと申します。後一人、扉の前で待機しているのがゼフス=ミラがおります。よろしくお願いします。」
90度ですか? と言わんばかりに高速で頭を上げ下げした青年を無言で見やる。護衛じゃなくて、監視だろ? どちらも仲良くなぞできるか。
「女、お前はいらん。食事の用意をしたら、ここから出ていけ。二度と来るな。」
その言葉に女はすぐに怒りを前面に出して、キィキィ声で、
「何をおっしゃっているのですか! 私はシルビアーノ様から直々にあなた様のお世話を言いつかっております。主人の命令に背くことなどできません!」
寝起きにその甲高い声は耳触りでしかない。
「私は自分のことぐらい自分でする。こんな陰気くさい場所で嫌々面倒を見られる立場になってみろ。気が滅入って仕方がない。お前の主人には私から話す。ってかこの後呼んで来い。奴には話がある。」
「シルビアーノ様に対して何たる態度! あなた一体何様のつもりなの!?」
目くじら立てて怒るな。こっちは腹が空いているんだ。すっき腹にその声は響く。
「女。お前と不毛な言い争いなどしたくない。嫌な仕事をしなくて済むんだ。感謝しろ。そして出ていけ。」
顔を真っ赤にさせて怒り沸騰な女性の行動を唖然として見ている騎士の前で、彼女は大きな音を立ててテーブルに食事の用意をして、何タラドウタラ捨て台詞を吐いて、荒々しく部屋から出て行った。ようやく静かになった。ここは地下だから音の反響がすごいんだ。私は衣装ダンスに行き、適当に服を引っ張り出して着替えだす。すると、
「し、失礼しました!!」
男が大慌てで部屋から出て行った。
なんだアイツまだいたのか。気が付かなかった。
まあ、これで静かな食事ができるというものだ。
ああ、あの変態男の名前なんだったかな?
まあいいか。
今は食事だ。嫌なことを考えるのはやめよう。
少しずつ出てくる登場人物。そして出番が少ない。