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自業自得

「一世一代の不覚」ってのが今、使い時だな。




ああ、見つかっちまった。

すいませんね、言葉が悪くて、少しやさぐれているんですよ。

優雅に持ち物を持ち込んだのが悪かったのか。クッキーを詰めた瓶を置いたのがわるかったのか。サンドイッチのカスでも落ちていたのか。まあ、かれこれ「立ち入り禁止区域」に三年程、入り浸っていたので気が抜けていたのかもしれない。まあ興味本位で一、二度出入りしたと誤魔化しておいたがバレたもんは仕方がない。




「小娘、何が目的だ?」




狐目の茶髪の神官騎士とかいうのに尋問されております。この国では、教会が全てを担っている。法律、軍事面、経済。が大学の横にあった教会は、神を称える場なので、国の重要機密があるわけじゃない。私が入った「立ち入り禁止区域」は「神聖魔法」と「教会の歴史」「国の歴史」が置いてあるだけ。まあそれも重要といえば重要だけどさ。スパイ容疑をかけられるもんでもないと思うんだよねー。




「人の話を聞いているのか!」




怒っちゃった。




チロリと相手を見る。私に対して怒りを露にしている男性の後ろには、オロオロしている大学長と顔見知りの先生方。その横に私を無言で観察している神官。お偉方に囲まれたっていうところだろう。





「騎士殿。このような幼い少女に、そんな声を荒げては、怯えてしまって何も話すことなどできません。もう少し穏やかに彼女の言い分を聞いてやってください。」





ふむ。一般論だな。




「こいつのこの不遜な態度で、どこがどう怯えているというのだ!」





机にバッシッと拳を一発。




ヒッ。



先生方が怯えてどうする。

で私はグラグラ揺れる机を見る。これ備品だよなー。

壊れたら、もったいないなー。




「小娘!」




チャキッ。




うわおぅー。

こいつ剣を抜いたよ?

騎士って物語によく出てくる奴だよね? もっと紳士的だと思っていたけど。女子子供に高齢者に弱いものにお優しいって聞いたよ? しかも神を奉る教会に所属しているんだよね? 弱者に剣を抜くか? まあ、いいだろう。ソロソロ次の場所に移動をしようとしていた所だ。知りたいことはもうない。やはり神話には諸説様々で一国だけでは、知り得たことが少ない。というか偏っている。まあ他国にでもお邪魔しようかなー。と考えていたところだ。大学を卒業して神官になるつもりもないしな。面倒だから、ココ吹っ飛ばすってのはどうだろう? 最近、体を動かしていないから、鈍っているんだよな。ストレス発散にもなるだろうし、一石二鳥とはこのことか?




「ノイラーズ、お止めなさい。お前が取り乱してどうするのです。」




おっと。

ボスの登場ですよ。話のわかる人間が出てきましたよ。先ほどから静かに私を見ていた人。この教会の神官長さん。名前なんていったっけ? 最初に紹介されたはずだけどな、先生方の名前さえ覚えていないんだ。この際どうでもいいだろう。茶髪のストレートな髪を肩で切りそろえ、銀縁の眼鏡をかけている優男さんですよ。若い頃は、さぞオモテニなったことでしょう。ええ、今は叔父さんですよ。多分、40代ですよ、彼。




「ここは私に任せてもらえませんか? 皆様。「なずは」さんと二人だけにしてください。」




教会の主に言われては、誰も否とは言えないでしょうね。渋々&神官長に何かしてみろ、ガタガタにしてやると言わんばかりの視線を狐目から受けた後、優男と二人だけになりました。





「なずはさん。貴方のお話は聞いています。大学内で今世紀最大の天才児であると同時に問題児であると。」




噂って怖いなー。でもそんなことどうだっていい。

何が言いたい?




「なずはさん。あなた神を信じていないでしょう?」




私は目を見開いて神官長を見た。




「おや、初めてあなたの感情を見れましたね。これはうれしい。」




面白そうに笑う男性。

こいつ嫌な奴だ。




「あなたの態度を見ていればわかります。儀式を全く無視し、魔法の術式にのめり込んでいます。そう、純粋に神聖魔法のみを知識のみを吸収しようとしていましたね。」




一言一言をゆっくり丁寧に言い聞かせるように話す。やっぱり嫌な奴だ。私の感情の揺れをかんじとろうとわざとゆっくり話しやがって。人の考えていることを決め付け、自分の立場が有利であるとでも言いたいのか? 大体、自分のことを勝手に心理分析されるのは嫌なんだ。




腕を組み、その薄い琥珀色の目で私を覗き込む。





「あなたの本当の目的は何ですか?」




「知識のみ。それ以外にない。」




「ほう、ではここで貴方の知りたかったことは見つかったのですか?」




「いやない。違う。少なかった。」




「少ない? これほどの多量な書物を前にして、そう言うのですか?」




「大したことがない書物もあった。が、神聖魔法は役に立った。」




男の目がキラリと光った。




「あなたのその耳。幾つモノ魔法抑制装置がかかっていますね。」




「じじいの遺言。つけないと祟られる。」




「あなたもしかして・・・・。」




男の目が泳ぐ。

もしかしてってなんだ?

まさか私って、各国に指名手配書でも配られているのか? それって魔物並みじゃないのか? 失礼な奴らだな。一回、脅かしておく必要があるのか?




「まさか?  漆黒の魔女?」




「なんだそりゃ?」




「ロナーテ国から手配書が回ってきています。第一級重要事項。漆黒の魔女が現れたら、至急知らせて欲しいと。黒髪、黒目、幾重にもかけた魔法制御装置。幼女と思われる風貌。」




あいつらー。

はい、報復決定!




「知らん。お前の勘違いだ。」




はいそうですよ。なんて気軽に返事するとでも思っているのか。わかっているくせに聞いてくるこの男の根性が気に食わん。




「そうですか。」




男は服の中から、手錠を取り出した。




うわっ。




人を拘束する趣味でもあるのか?

変態だな。




「そんな冷めた目で見ないで下さい。私に変な趣味などありませんよ。さあ、両手を出してください。」




「はいどうぞ。とでも言う思っているのか?」




睨み合いが続く中、




「貴方を先ほどの尋問官に渡すのは容易いのですよ。進入禁止区域に入り込んだのです。拷問にかけられて牢に繋がれる罪を犯したのです。ここでおとなしく私の言うことを聞いておいたほうが、穏便にことが運ぶと思いませんか?」




優男の微笑で誤魔化される人間が五万といるのだろうな。腹黒男の本音を聞きだすまで、言いなりになるつもりなどない。これは駆け引きだ。まだ相手はカードを握っていると思っているらしい。




「あんたの話を鵜呑みにするとでも?」




「私はね、憂いているのですよ? あなたのような優秀な人材が目の前に潰えるのは忍びないと申し上げているのです。この国の力になるというのであれば、貴方の罪を伏せようと言っているのです。ついでに他国からも覆い隠してあげましょう。」




うっわっ、出たよ本音。




「ばかかお前は。結局、私を利用することしか考えていないではないか。お前らの戦争の道具になぞなるものか。」




パキンッ。




ピアスの外れる音が鳴り響く。

私の怒りによって、魔法制御装置の一つが粉々になり、床に散らばる。膨れ上がる熱気と澱む空気。一気に室内の密度が上がる。





「素晴らしい。一つ外しただけでこの力。」





こいつ。案外、力を持っているな。

私の力を解放すると力の弱い奴は、卒倒する。

それなのに目の前の男は、顔色を変えずに佇んでいる。奴は私の顔を見て、ふいに微笑んだ。そして立ち上がり、お茶の用意をし始めた。カチャカチャと茶器の音と甘い香りだ室内に漂い始めた。




「まあ、落ち着きましょう。貴方と諍いを起こそうと思っているわけではないのですよ? さあ、どうぞ。」




テーブルの上に置かれたカップにお茶を注ぎいれる。白いカップが琥珀色になり、湯気が立ち上る。

こいつ私が飲むとでも思っているのか? 毒が入っているかもしれない代物に口をつけるはずがない。馬鹿だなコイツ。




「なずはさん。あなたと話をしたいのですよ。飲み物に毒など入れる古典的なことなどしませんよ。」




注いだカップに口をつけて、さもどうだと言わんばかりに飲み干す。そして再び、新たなカップを用意し、お茶を注ぎいれる。そして私の目の前に差し出した。





「さあどうぞ。それとも私が怖いのですか?」




その一言にカチンときて、私は手を差し出して、一口飲む。

喉を温かい飲み物が通り過ぎる。鼻に抜ける仄かな香りを楽しんだ。




が、




「すいません。少し訂正します。」




霞む目で、目の前の男を睨みつける。




「定石に乗っ取ってみました。案外有効でしたね。」




優男は、自分の目の前のお茶に口をつけ、




「そのカップの飲み口にクスリを塗っておきました。」




にこやかに話す男の顔を目一杯、殴りつけたい衝動に駆られるものの、重たい頭と体は、言うことをきいてくれなかった。最後に見えた光景は、優男がうれしそうに手錠を持っている場面だった。






変態なぞ嫌いだ。






















変態王子の登場です。

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