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相方


アルカラード=エムリ=ネリッドside






俺の名前は、アルカラード=エムリ=ネリッドという。

本名は誰にも教えていないが、通称「アル」と呼ばれている。

俺は、ホバート国の第4王子だ。後押しの弱い第二妃から生まれた。がいわゆる王位継承争いで敗れ、国を追われた。わんさかいる兄弟姉妹の中の一人だった俺は、身分の低い出身だった母と暗殺に怯える毎日だった。母は気が弱い人間だったので、早々に精神をおかしくしてしまった。もともと王位に興味がなかった俺は、母の療養を理由に王位継承権を放棄し、母を伴い国を出た。ようやく掴んだ平穏な生活を満喫することなく、母はあっという間に、この世を去ってしまった。




俺はそれから財産を全て売り払い、独りで生計を立てることのできる「バリア」に入った。所詮、坊だった俺は、かなり苦労をしたものの、案外丈夫にできていたのと、剣術の才があったようで、色々なグループを渡り歩き、教えを受け、着実に力をつけていった。気が付いたら、国を出てから10年という長い年月が経ていた。




「バリア」の中でもファーストという位を持つ俺は、傭兵や「バリア」内でも尊敬と羨望の眼差しを受ける存在になっていた。その数千、数万と言われる「バリア」でわずか数人しかいない「ファースト」に新たな人間が加えられることになったらしい。





「イサド。「バリア」に入って間もない人間にファーストの位を与えてもいいのか?」




俺は「バリア」の長であるイサドに文句を言った。俺でさえ、10年という月日をかけて苦労して築き上げてきた地位だ。まあ、この仕事は実力主義だから、俺がどうのこうの言っても仕方がないのはわかっている。が、いきなり降って沸いた人物にいきなり「ファースト」の称号を与えてしまったら、下に示しがつかないし、「バリア」の信用問題にならないのか?と言いたいのだ。




イサドは三代目の「バリア」の長だ。成りは優男風で口調も穏やかだが、昔はかなり名を馳せたらしい。「零翔のイサド」と呼ばれ、天を駆けるような戦いをしたらしい。まあ、今ではいいオジサンになったが。彼の実力からして彼自身の目が狂ったとは言い難い。




「私自らが、試験を行いました。危うく死ぬところだったんですよ? まだ遺言も残していないのに焦っちゃいましたよ。」




俺は顎が抜けるほど驚いた。そしてその人物に会いたいと願った。




「いえ、会えません。それが彼女の「バリア」加入の条件なんですよ。「バリア」に入っても名前も階級も明かしてほしくないそうです。なにか訳がありそうです。アル、あなたもでしょう?」




そう、俺にも一身上の都合ってものがある。

いくら王位を返上したとはいえ、この体には王家の血が流れていることには変わりがない。その血が争いの火種になることは、身を持って知っている。そうか残念だな。力を持つものにとって、高みの者に会うこと、挑んでみたくなるのは、仕方がないことだと思うのだがな。まあ、同じ「バリア」入っているのだから、いつか会う機会が来るかもしれない。これでも「ファースト」として指名された仕事が山のようにある。日々の忙しさの中で彼女の存在は忘れてしまっていた。




それから二年ほど経ったある日、




「アル。彼女とコンビを組んでみませんか?」




そう、彼女と出会うことは偶然か必然か。いや俺にとっては運命だったに違いない。俺はイサドの提案を悩むことなく受けた。俺は彼女の働きについて多少の情報を得ていた。定期的に単独で魔物を狩ること。小さな物から何人も束になってかからないと倒せない大きな魔物まで、一人でこなすこと。美少女であるとか妖艶な女性であるとか、筋肉隆々なごつい女性だとか、容姿について様々な憶測が流れ、「バリア」内でも三大不思議の一つになっている。でもその強さだけは、本物だ。その彼女に会える。興味本位で受けてしまったことに後悔したのは、実際にこの目で彼女を見たときだった。




「イサド! 俺は子供と組むつもりはないぞ! あんな子供と一緒にどうやって魔物と戦えというんだ!」





「受けたものを取り消すんですか? 「ファースト」あろう者が。」




それを言われると辛い。が、




「集いに関しては、性格の不一致ということで解消できるはずだ。」




命を懸けた戦いにおいて、気が合わない、考え方の違いは大問題だ。なんで「ファースト」の俺が子守をしなきゃならんのだ。




「いいですか? 彼女もあなたと同じ「ファースト」なんですよ? 二年間「ファースト」の位のまま「バリア」に所属し単独で仕事をこなしているのにも関わらず、一度も負傷をしたことがないのですよ? それをどうお守をするのですか?」




怪我をしたことがない?

ウソだろ?




大きな魔物を倒す際、かなりの時間を要する。酷い時は三日三晩というときさえある。相手の体力を削り、体の動きを鈍らせる必要がある。魔物が逃走をしてしまったら、探し出すのに何日もかかることがある。飛行タイプや土中、水ならさらにやっかいなことになる。誰も自分の命を無駄にしたくなどない。体が資本であるこの仕事は、無茶なことをしない。彼女はこの二年間、独りで何百匹と対戦をしてきたはずだ。様々なタイプの魔物と相対してきたはずだ。それなのに、傷一つ負っていないだと?




俺は、半信半疑のまま彼女と行動を共にすることとなった。改めて、彼女を上から下まで見てもどこにでもいる普通の少女としか思えなかった。この国では奇異の眼差しを受けるであろう、黒髪に黒目。細い体にはちみつのような色の肌。すっきりとした顔立ち。美少女ではない、愛くるしいわけでもない。ただ印象に残るであろう顔である。後、10年したら神秘的な美しさになるかもしれない。あと10年したらの話だ。




「いくつだ?」




「22。」




「22? お前数を数えることができるのか? ウソだろ?」




「・・・・・うるさい。」





・・・・・・・。




この娘、不遜すぎる。

幼い容姿から発せられる言葉の数々は「お前は何様なんだ! どこぞの頑固一徹親父か!」と声を大にして言いたいほどだ。が、まあ性格はともかく魔法はぴか一だ。何重にも施してある魔法制御装置である耳のピアスは両耳に三つずつ施してあり、普通、魔法を使う人間であれば、魔力供給不足でぶっ倒れる数だ。それを計六つもはめているのだから、いかにこの少女の所有している魔力が膨大かがわかる。魔力の大きさが、彼女の体になんらかの異変を起こしているのかもしれない。ならば「二十代」という年齢は嘘ではないかもしれない。今まで一度も「国」からの依頼を受けていないのは、この容姿のせいだろう。俺は少女を可哀そうに思った。




行動を初めて俺が最初に思ったのは、「同情をした俺の清らかな心を返せ!」だな。

いかんせん、この娘。言葉が圧倒的に足りない。この娘、自身のことを一切話さない。いや、俺もだが。それにしても相方になったのだから、少しでも歩み寄ろうとか、仲間意識が芽生えてもおかしくないと思う。そう普通の人間ならばだ。




「邪魔だ。」




「退け。」




「動くな。」




「寝る。」




戦闘の最中に発せられる言葉は、全て単語。しかも無表情で魔物の片腕や片足を吹っ飛ばしやがる。俺の立場は? お前、本当に相方が必要だったのか? それに加え、




「暇なら、剣を教えろ。」




教え始めた剣術は、俺の今までの苦労を笑い飛ばすほどの才能を発揮し、




「お前、本当に人間か? 皮被っていないだろうな?」




「一様、人間だ。」





少女と旅をし、ようやく少女の機微を理解し、彼女が何に悩んでいるのかがわかった時に、コンビの解消を言われた。気が付けば、思ったよりも長い年月を共にしていた。




「お前といれて、まあ楽しかったな。何かあったら言ってこい。相談ぐらいは乗ってやる。」




「ああ、たまに思い出してやる。女遊びもほどほどにしておけ。病気をうつされないようにな。」




最後まで可愛くない女だな。それでも「なずは」お前と出会えて良かった。無表情で無口で横柄で変にケチくさくて、それでもお前の作る飯は旨かったな。本当に訳のわからない女だったよ。




俺とのコンビを解消した「なずは」は、「バリア」を抜けた。

王子登場! でも彼もここまでです。王道を尽く外していきます。




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