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閑話 その弐


ゼフス=ミラside



俺は、戦争孤児だった。



長く続くネリグラード国との戦争は、悲惨な結果しか招かなかった。俺のような親を亡くした子どもが町や村に大量に溢れ、スラムが出来上がり、子どもや女性を狙った人売りや窃盗、魔物の出現、国の治安は悪くなる一方だった。残った人間は自分たちの生活を守るのに精一杯で、身寄りのない子どもを助ける奇特な人間なぞおらず、少年少女らのギャング集団が出来上がるのも無理のないことだった。神を奉る教会だって、所詮何も手を差し伸べてくれなかった。祈りを捧げてもパンの一つもくれなかった。大怪我を負った仲間や死んでいく仲間を助けてくれず、非道な行いをする大人達から守ってもくれず、それでどう神を信じられるっていうんだ。



俺の転機は突然やってきた。



魔物に襲われ、死を覚悟した間際に、俺に多少の魔力があることがわかった。魔力がある人間は、国の財産になる。強制的に騎士学校に入学させられ、体を鍛える日々が続いた。騎士といえば、国の英雄だ。羨望の眼差しを受ける。それだけ花形の職業だった。戦死をしない限り、身を保証され、優雅な生活を送れる。町を放浪し、ゴミを漁り、盗みをして生活していた以前の俺とは真逆な存在だ。人から羨まれる生活。それなのに、なぜだか俺の心は一向に晴れなかった。



元々、人との付き合いが苦手だった俺は、騎士学校でも上手く人間関係を築けなかった。口下手なせいで誤解を受け、その出自から蔑まれ、喧嘩沙汰を起こす毎日だった。そんな中で自問自答する日々。俺がなんで国のために自らの命をかけなければならない? 国のお偉方は何をしてくれたというんだ。威張り散らしているだけの奴らの言いなりになる必要があるというのか? 脱走を企てようとしていた矢先、神官長であるシルビアーノ様に出会った。



「貴方の目は、真っ直ぐに前を見据えています。良い目です。貴方のような人が私には必要です。色々、大変かと思いますが、今は我慢なさい。貴方の力が必要な時がきます。待っていてください。」



脱走は、他国に戦力や情報が流れることを防ぐため反逆罪で即効、死罪になる。思い直し、俺の力を頼りにしてくれる人間がいること。半信半疑ながら、彼の言葉を信じ、なんとか騎士学校を卒業した。そして直ぐに、シルビアーノ様直轄の部下の一員となった。そこで初めて、シルビアーノ様の考えを聞くこととなった。



「ミラ。この国は腐っています。戦争で死んでいった者は、皆、崇高な心の持ち主ばかりでした。国の将来を憂いて、その身を投げ出した者たちです。今、残っている人間達はどうですか? 彼らの志を汲み取ることも奮起することもなく、彼らの犠牲の上に胡座をかき、権力、利権にしがみついている者ばかりです。そんな馬鹿達をいつまでものさばらしておいていいわけありません。いつかきっと彼らに煮え湯を飲ませてやります。」



神官長である、シルビアーノ様は神に仕える人間らしく、平和を願い、穏やかで別け隔てなく誰にでも優しい人間だと思っていた。が心の内に秘めた想いを聞いて、彼がなぜ、俺のような人間を必要としているのか理解した。どこにも属さない国王派や穏健派を追いやる手駒が欲しかったのだ。シルビアーノ様も結局は、人を歯車の一部のように人間を扱う人種だったのだ。落胆し、冷めたような感覚が身を襲ったものの、神のためだとか言うよりはマシだと思い、シルビアーノ様に従うことにした。確かに、毎日、食っちゃ寝をする王とデップリとしたお腹を揺らす大臣らの顔を恐怖で歪ませることを見れるのは楽しみだった。それをスラム出身のこの俺の手でできるのは愉快だった。



数年後、運命といえる出会いをした。

「なずは」という不思議な名前の少女に出会った。



「なずは」のその歯に物を着せぬ物言い、堂々とした態度。体から発せられる波動は、他人をねじ伏せ、従わせる何かがあった。シルビアーノ様が彼女を手の内に取り込もうとしている意図を賢い彼女が気づかない訳がない。



面白い。



彼女の存在自体が面白すぎる。

全てに囚われない彼女の生き方に魅了された。「なずは」について行けば、きっと退屈しない毎日が待っている。



「ほう、それで私に付いていくことで、退屈を紛らわせるとでもいうのか?」



「そうだ。」



「迷惑だな。まだアノ生真面目青年の方がマシだ。私を哀れみ、守りたいという純粋さ加減が信用できる。私はお前の暇つぶしに付き合うつもりもないし、雇ういわれもない。邪魔だ、去れ。」



「国などいらん。名誉も地位も金もいらん。お前だけに従うと俺自身に誓う。」



「誓ってもらわんでもいい。そんなもんはいらん。はあ、お前は何を考えているのか、さっぱりわからん。まあいい。お前の身の保証なぞ一切しないぞ。くっついてきて、野垂れ死んでも放置だ。それでも良ければ付いてくるんだな。」



心底迷惑そうなする「なずは」を見て、ほくそ笑む。

彼女は優しい。シルビアーノを退けられなかったように、邪心さえなければ、彼女の側にいることを許してくれる。俺は、彼女が世界征服するとか大きなことを成し遂げるとか、それを支えたいとか、彼女自身を守りたいとか、そんな崇高な心を持っているわけではない。ただ自由に生きていく彼女が何をしでかすのか、間近で見ていたいだけ。お偉方の狸の化かし合いより、よっぽど楽しいはずだ。



さあ、「なずは」命令してくれ。



俺は何をすればいい?

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