眼鏡変態男の独白
サルディア=ヒュナ=シルビアーノ
漆黒の魔女「なずは」は、ロナーテ国に報復行動をしました。
こっそりと忍び込んで国の王宮をほぼ半壊して、晴れ晴れとした顔で帰ってきました。ついで王の寝首を掻いてくてくれれば助かったのですがね。まあ「なずは」は根が優しいので、王宮を吹っ飛ばす程度で許して差し上げたのでしょう。これで彼女はロナーテ国に反旗を翻したも同然です。堂々と私たちの力になってくれるというものです。奴らも馬鹿ですね。彼女は可愛らしいほど、裏で画策することなどしません。なずはの申し出を素直に受け入れてさえいれば、王宮を吹っ飛ばされることや、国の権威をガタ落ちさせ、戦意を低下させることなく済んだものを。何年も彼女を追いかけていたのなら、彼女の人となりを掴んでおかなかったのでしょうか? 馬鹿ですね。いえ、私の「なずは」への愛に勝るものはありませんが。私としては「なずは」が私の下に戻ってきてくれることがうれしくてなりません。奴らに感謝しときますかね。
開戦後、ロナーテ国と我が国トルバル国との戦いは、三年ほどで終わりを迎えました。我が国は、他国を侵略することを目的としているわけではありません。ですから敗戦国を属国にするつもりもありません。ただ弱体化するために、幾つかの国をロナーテ国から復活させ、其々に王を建て、我が国と不可侵条約を結びました。勿論、ロナーテ国には新王を立て、賠償金をいただきました。そりゃもう、たっぷりと。
「なずは」は、言葉通り戦争時、加護と治癒、魔法の補助をしていただきました。ロナーテ国の魔法から身を守っていただきました。これで戦闘がかなり有利になったのは確かです。ついで北部の移民を力技で脅し、退けてくださいました。ああ、これでもう彼女との接点はなくなってしまいました。どうすれば彼女を引き留めておけるのでしょうか?
「なずは。こちらの住み心地はいかがですか?」
今、彼女は元王の持ち物の一部であった避暑地を譲渡し、そこに住んでいます。王はどこに行ったとかいう無粋な質問は止めてくださいね。フフッ。
「ああ快適だ。ようやく静かに暮らせる。お前さえ姿を現さなければね。」
相変わらず、憎らしいことを言われます。
「私の想いは今でも変わりません。貴方は私の全てなのです。」
「手を握るな。暑っ苦しい目で見るな。そして二度と来るな。」
その真っ直ぐな目で見られると、ゾクゾクしてしまいます。どうしてあなたは私を高揚させてくれる存在なのでしょう。でもその姿はいただけませんね。今すぐ、私自らの手で着替えさせて差し上げたいのですが、
「で、何をなされているのですか?」
彼女の恰好は、町娘が着るような質素なワンピースに麦わら帽子を被り、クワを持ち、畑を耕しています。
「見て分からんのか?」
「畑仕事なのでしょうね。」
不思議な人だ。国を揺るがすほどの力を持つ彼女は、名誉も権力も富も望まず、一般市民の生活を送ることに幸せを見出している。彼女の素朴さに、恐れおののいていた護衛の兵士ですら、彼女の虜となり、私から離れ彼女の元に身を寄せています。
「やりたいことが出来たのだ。薬草園を作ろうと思ってな。」
どうやら彼女の次の目的は、すでに実行に移されているようです。屋敷の一室には、魔法を研究する部屋もあるようです。「なずは」は、私の思考を超えた場所にいるのですね。どこまでも私の腕の中に留まってくれないのですね。悲しいです。ですがなんて素晴らしい女性なのでしょう。誰にも従うことなく、自信を貫くあなた。誰でもできることではないのですよ。わかっているのでしょうか。貴方の強さ、気高さ。身震いがします。
それに私は追われるより、追うほうが燃えるのですよ。貴方が逃げるほど、私の熱が燃え上がります。どんな手を使ってあなたを絡め取っていきましょうか? ああ、考えるだけで楽しくて仕方がありません。覚悟してくださいね。私はロナーテ国より、しつこいですよ。貴方に蹴られようが、殴られようが罵られようが、冷めた目で見られようが、何度でも足を運び、貴方に愛を囁くと誓いましょう。
それに貴方が成長していないことを私が気が付いていないとでも思っているのでしょうか。貴方と出会って、6年の月日が経ちます。大人になる貴方を待って結婚を申し込もうと思っていましたが、いつまでも少女のままの貴方を見て、貴方が何に不安を抱いているのかわかりました。問い詰めれば、貴方は私の下から去ってしまいます。ならばあえて聞くことはしませんし、暴こうと思いません。ですからどうか、私の前から姿を消すことだけは止めてくださいね。
今度こそ何をしてしまうか、わかりませんから。
本格的な変態に出来上がってしまいました。こんなはずではなかったのですが。後、独白2名出てきて、第二部に突入します。よろしくお願いいたします。




