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何度目かになりそうな人生最大の汚点

人生最大の汚点ってあるだろう? これから何度もこの言葉を使うことがないように祈りたい。今がその時。使い時だ。落書きを消しゴムで消すように、修正テープで何度も引くように、いやこのさい目の細かいヤスリでもかまわない。全て無かったことにしたい。まあ根性で忘れてやることにしよう。これでも嫌なことは、すぐに忘れることにしている。いつまでもグチグチと引きずっているのは、精神衛生上良くない。でもなあ、現在進行形である汚点の数々に、どちらが早く根を上げるかが問題なのだが、どうみても私の方が先に折れそうだ。いくら私が我慢強いからと言いつつも、相手は嬉々として、この状況を楽しんでいる訳なのだから、最初から私が負けているのかもしれない。




そうさ。

奴は実行しやがった。端から端まで世話をされたぞ。端から端までって? そりゃ端までだ。




それに何が稚児趣味はないだ。しっかりと手も口も出してきたじゃないか。ああ、いわゆる喪失したさ。年齢的には、まあ経験してもおかしく年齢だったな。今後このような状況があるかわからないが、経験しといてよかったかもしれないな。この体で「子供」ができるとは思えないしな。なんたって、この世界にきてから「月のもの」が止まっている。ってことは「子供」ができない。非常に良かった。変態の血を引く子供ができないことこれが幸いだ。




神官長ってのは、忙しくないのか?

まあ、始終一緒にいるわけでもないしな。陽の光が入らないので、あれからどれぐらいの時間が経過しているのかわからない。物音一つしない部屋。暗く濁った空間。よどんだ空気。鍵の開ける音がやけに耳障りで奴の声が耳元に残る。




奴がベッタリと私に張り付いていたのは、最初の三日間ぐらいだ。それでも奴の申し出を受け入れなかった私を見て、長期戦となることを踏んだ銀髪変態は、本物の手錠を用意してきた。それに足にも鎖つきだ。手錠と鎖を手に持ってきたとき、あの時の変態の嬉しそうな顔。今思い出しても全力で踏みつぶしてやりたくなるな。まあそれは置いといて、私は部屋の中だけ歩き回ることを許可されたわけだ。手錠と鎖には、ご丁寧に魔法がかけられていて魔法や力技では外れないようにされていた。その状態になってから、来なくてもいいのに、二日に一回ほど顔を見せにくるようになった。この部屋に来れば、着替え、食事、お風呂、全て彼自身の手で行われる。有無を言わさずだ。




で、私はその間何をしていたのかと言えば、もちろん逃げる算段をしていたさ。ついで黙々と本を読んでいたな。それに考えてもいた。自分がこの世界とどう向き合っていけばいいのか。知らぬ存ぜぬで通って行けるのか。彼らの流れる時間と私の流れる時間は、確実に変化していく。後々考えれば、私にとってほんのわずかな欠片の一つである思い出も、彼らにとってどれほどの価値があるものか。私の判断一つで、国が亡び、栄える。何千、何万という人間の命運を握る。傍観者であるこの私がだ。やはり人前に出てはいけなかったのだ。こうして誰かに利用されてしまう危険が付きまとう。しかし私にはまだ知識が足りない。学ぶべきことがある。師匠の魔法だけでは、人に恐怖だけを植え付けてしまう。この巨大な力を上手く利用するための知識が必要だ。そうしてから、この世界には編み出されていない魔法を使い、人から隔絶した生活を送るための準備に入ろうと思っている。そう、師匠が山奥に隠れ住んでいたように。




色々と静かに考えるには、必要な時間だったかもしれないな。多少なりとも奴には感謝をしておくか。でも何時までもこの状態はいただけない。仕方が無い。折れてやるか。




「なずは。おいしいですか?」




モグモグ。




「今日のデザートは、なずはの好きなブドウですよ。皮を剥いて差し上げますね。」




奴の膝の上で食事をするのも慣れたな。ちょいと硬いソファとでも思っておけばいい。ついで自動食事介助マシーン付きだとな。




「いつでもいい。何タラ国の奴と会えるよう算段しとけ。」




食べ終わって風呂に入れられベッドで一仕事終えた後、奴にそう言ってやった。すると変態は私の寝着のリボンを結ぶ手が止まり、驚いて私の顔を覗き込む。




「なずは。それは私の力になってくれると考えてもいいのですか?」




寝着のリボンを綺麗に結び、私を膝の上に抱き上げ、顎に手をかけ顔をしっかりと上げさせられる。どうも真意を問うときは、目線を合わせさせる癖がついたようだ。私は嘘などついたことがないのだが、まあ、言葉が多少足りないらしく、それを補うように目や行動にでるらしい。




「戦争の道具にはならん。魔法で人を殺めるのは勘弁願いたい。だが協力してやろう。この国の神聖魔法でな。だから「戒めの鎖」を解け。力が使えん。」




変態の目が揺れている。悩んでいるのだろうな。まあ解呪をした瞬間、逆に殺される可能性があるからな。なんだお前、私に対して非情な行いをしている自覚があるのか。変態にも多少の良心があるようだな。さて、変態どう出る?




「信じても?」




「さてな。」




これぐらいの意地悪は許されるだろう?




「ではなぜ、ロナーテ国の人間と会いたいと言うのですか?」




「いずれ奴らとは話をしなければならないからな。いつまでも追いかけられるのは迷惑だ。話し合いで済めば、それに越したことはない。もし、お互いの意見が合わず、私の意図に反する行いをしたら、それなりの対応をさせてもらう。まあ、お前としては、ナンタラ国と私の意見が合わない方がいいのだろうがな。」




「もし、貴方とロナーテ国で和解が成立したとしたら? それでも貴方は私の味方になってくれるのですか?」




「その場合、北部の移民の討伐に力を貸そう。しかし決して彼らを殺める行いはしない。彼ら自身で、この国から撤退するよう仕向ける。内政のことは関知せんぞ。恐怖政治なぞ長くは続かん。それぐらいお前でしろ。もし、ナンタラ国と戦争をおっぱじめた場合、その際は、加護ぐらいしてやろう。その方がこの国らしいやり方だろう。ただし、私の存在を出すな。全て終結したら、私自身の解放を望む。二度と私に干渉をするな。」




「貴方を手放せと?」




私を抱え込む腕に力が入る。お前は私を圧死させたいのか?




「あれもこれも望むのは間違いだな。お前の目的は、国を守ることなのだろう。私のことなどタダのオマケだ。なんだ? 私自身が欲しいというならば、お前は全てを捨てろ。この国もこの国の地位も名誉も全てだ。それができなければ、あきらめるんだな。」




二兎を追うものは一兎も得ずだったな。




「酷いことを言うのですね。私の想いを知っていてハッキリとおっしゃるのですね。」




奴は私の肩に顔を強く押し付けてきた。苦しーっつうの。




「いいか。私の方がかなり折れてやっていることを忘れるなよ。温情をかけてやっているんだ。いままで全ての行為を私の同意の下、行われていると勘違いするんじゃない。」



私はなんて懐の深い人間なんだ。奴の非道な行いを全て忘れてやろうというのだ。この地下で行われたことを私自身何一つ望んでいないのだから。




「やはり貴方は酷い人だ。」




いくら悲しげな態度をとっても同情できんな。報復されてもおかしくない行動をしたことを忘れてないか? ではなぜ私が奴に倍返しを考えていなかったかと言えば、まあ奴は、真に私を好いていたのだろう。節々に奴の行為が表れていた。奴は私に暴力を決して振るわなかった。優しく丁寧に扱った。何度も真摯に好意を伝えてきた。それが演技だったのかもしれない。私はそれを見抜けるほど人生経験がない。でもまあ、そんな相手を叩きのめすことができなかったわけだ。案外、私はお人好しだったんだな。












それから一週間後、ナンタラ国との話し合いをすることになった。そう、私の両腕に黒の鎖は綺麗になくなったことを報告しておこう。ああ、奴に平手の一発や二発いや三発は、お見舞いしたことも報告しておくかな。









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