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変態との会話

 


戒めが解かれ、体のこわばりが取れると一気に脱力感が襲った。何度も深呼吸をして息を整える。よくもこんな魔法を顔色を変えずに女性にかけられるもんだな。銀髪男は人間の皮を被った悪魔だな。何が神に仕える神官だ。大学の先生の方が、よっぽど紳士的で優しかったぞ。恨みのこもった目線を送ると、




「体の小さな貴方には、この魔法はきついかとおもいます。大丈夫ですか?」




わかっていて、白々しく聞くな。そう思うなら、今すぐ戒めを解きやがれ。




「離れろ変態。」




致し方なく奴の膝の上にいるが、拘束を解かれた以上、一秒たりとも奴の側にいたくなどない。




「嫌われてしまいましたか? 少々強引な手を使ってしまったことは理解しています。許してくださいね。」




頬に手を当てられ、ビックッと体が飛び跳ねてしまった。




「これ以上、私に触れるな変態。」




なにやら微笑ましく眺められている中、震える足を叱咤し、なんとか向かいのソファへ座る。私は生まれたばかりの子馬か? 私をこんな状態にした奴がその見守るような眼差しを止めてくれ。腹が立って仕方がない。イライラを沈めるために、冷めてしまったお茶をひとくち口に含む。それから一呼吸した。




「お前は何がしたいんだ変態。」




「ああ、嫌われてしまいましたね。でもかまいませんよ。貴方と私との時間はこれからいくらでもあるのです。じっくりゆっくり愛を育んでいきましょうね。」




お前、人の話を聞いているようで聞いていないと人から言われないか? 私がお前に愛の話をいつしたんだ? それにうっとりとした目線をこっちに送ってくるな。気色悪いし、私のどこかが腐りそうだ。




「話を聞いているのか変態。」




「変態、変態とおっしゃいますが私の名前は、サルディア=ヒュナ=シルビアーノと言います。あなたにはディアと呼んでいただけるとうれしいのですが。」




誰が呼ぶか。

横文字は嫌いだと言っているだろう。呼ばれたければ「太郎」とかに改名しろ。それに男が頬を染めて自身の呼称を言うなど恥ずかしい奴だな。




「稚児趣味なら、近所のガキ、マレーを紹介してやる。そっちにしとけ。」




大きなため息をついて、変態は憂いを帯びた表情をした。




「私は子供を愛でるような趣味はありませんよ。貴方だからいいのです。一目見た時から、惹かれていました。その小さな体に宿る神秘な力。その意志の強さ。誰にも靡かない態度。人を糾弾するような目。全てが私をひきつけてやまないのです。」




そうか。妄想癖があるんだな。一度、カウンセラーの下に尋ねることをお勧めしよう。お前のその真っ黒い精神を全て聞いてもらい、真っ白に塗り替えてもらえ。そうだなできれば、振り子時計でも使ってだな、一時的な記憶喪失でもしてだな、私のことを綺麗サッパリ忘れてしまうことを所望する。ついで病院で精密検査を受けて来い。眼科に脳神経外科で徹底的に調べてもらえ。




「何のかんのと先ほどから、私のことが好きだとぬかしておいて、私の力を利用することしか考えていない奴の言葉など真に受けることができると思っているのか?」




「ああ素晴らしい。貴方の賢さ、固くなさ、そんな所に惹かれるのです。誰もが私の前に跪き、私を妄信し、自分の許しを請い、媚を売ってくるのに、貴方は違う。」




お前はマゾなのか。道具を持って来い。いくらでもブチノメシテやる。それとも罵られるのが好きなのか? そうか世の中には変わった奴もいるものなんだな。一つ勉強になったぞ。




「なずはさん。貴方、口に出していませんが、考えていることが目と態度に出ていますよ。」




そうなのか!




目を見開いて変態を見ると、目が合った。




「フフッ。可愛らしい方ですね。そんなところも好きですよ。」




話にならんな。

いつになったら本題に入るんだ。変態と何時までも化かしあいのような会話を続けるつもりはない。




「こんな馬鹿げた話をいつまでするつもりなんだ。私は、もうこの国を出て行く。何時までもこんな辛気臭い地下に長居するつもりなどない。」




男は私の言葉に顔つきを変えた。ようやく真面目な話ができるようだ。が、まあ、内容は碌でもないことに変わりはしないがな。




「それはいけません。貴方は私の物だといったでしょう? なずはさん。この国は一見、平和に見えますが、様々な脅威に晒されています。国内の情勢、各国の思惑。特に貴方を付回しているロナーテ国とは今の所、休戦をしていますが、いつ再び戦争が再開されるか油断を許さない状況です。それに山岳地方に移民が移り住み、北部から南下し始めています。この国では長い戦争の末、生き残っている者は、ノイラーズや私のような若輩者又は戦争に行くこともできない頭の固い年寄りばかりです。このままでは、この国は内からも外からも潰れてしまいます。私は、卑怯者と罵られてもかまいません。貴方に好意を抱き、告白をしておきながら、貴方のその力を国のために使うことを望んでいるのですよ。」




ほほう。一様、変態でも考えていることは考えているんだな。




「それがお前の本音だな。」




「ええ。」




「前にも言ったが、私は戦争の道具になるつもりはない。それは師匠を見ていればわかる。師匠は祖国で戦争の前線に立っていたのだろう。それに嫌気が差して国を出て、あんな山奥に篭ったのだ。私に同じような過ちを犯してほしくない、私に人を殺す手段に魔法を使って欲しくないのだ。私は師匠に何も残してもらわなかったが、少しの恩はある。意志だけはついでやろうと思う。それが弟子である私の務めだ。」




うむ。良いことを言ったな。師匠、天で耳をかっぽじってよく聞いていたか? が、銀髪男は顔を覆って沈黙していた。奴の申し出を拒否したのだ。うなだれているのだろう。




「私はこの国の人間ではない。悪いが所詮他人事だ。この国の行く末を決めるのは、この国の人間がすべきだ。」




久しぶりに長々と話をした。自分の意見を口に出すのは苦手なんだ。すごく疲れた。グッタリとしていると、




「わかりました。なずはさん。貴方の考えは最もです。でも「はいそうですか。」と納得できる状況にないのです。貴方は今、私の下にいます。貴方の命を握っているのは私なのです。」




いや変態に私の命を握られることは、有り得ないな。私は不老不死だしな。いや、それをコイツに知られたほうがよっぽど不味い状況に陥るのではないか? ここは酷く怯えた態度でも取っておくべきか? 一様一言言っておくか。




「お前、卑怯者だな。」




これぐらいでいいか?




「なんと言われようとかまいません。私は私の祖国を守りたいのですよ。」




「私のような少女に人殺しをさせても、国を守りたいのか?」




「小さな子供でも自分の身を守るために剣を持ちます。生きるために罪だと判っていても過ちを犯す者はいるのです。それが戦争です。何も貴方だけが清廉潔白に生きていくことはないのです。」





詭弁だな。




「私はこの国の人間ではないと言っているだろう。この国のために私の手を汚すつもりなどサラサラない。」




「では協力をしてください。貴方もロナーテ国とは縁を切りたいでしょう? 貴方のお師匠様は、ロナーテ国で最強と言われた魔導師でした。そんな魔導師の弟子である貴方をアノ国が手放すとお思いですか? 地の果てまでも追ってきますよ。きっと私より貴方を道具として扱いますよ。」




お前とロナと何が違うと言うのだ。




「そんなこと私の問題だ。私自身がなんとかする。それこそ他人に手を出される筋合いなどない。いいか、これ以上話し合いなど無意味だ。お前と私の話は平行線のままで一ミリたりとも埋められない。私を解放するんだ。今ならば許してやる。そうでなければ、後々後悔することになるぞ。」




変態は、フゥーと息を吐いた。

そんな悩ましげな態度をしても私は騙されんぞ。




「そうですね。全く話が進みません。では方法を変えます。貴方とは話し合いで解決したかったのですがね。」




「戒めの輪。かの者を戒め その枷を戒め 其の体を戒めよ」





「ああっ!!」




不意打ちの縛りに、足元からズルズルとソファから滑り落ちてしまった。奴が立ち上がり、近づいてくる足元だけが視界に映った。




「この状態のまま、ロナーテ国に送りつけてやりましょうか。いえ、四肢を切断してからでないとおもしろくないですかね。貴方が使い物にならないとわかったら、奴らも少しは懲りるでしょうか?ああ、そちらの国に行ったあなたはどんな扱いを受けるのでしょうか? 鞭打ちですか? まあ拷問は免れないでしょうねえ。良くて兵士の慰め者になるかもしれません。さあ、貴方はどんな未来をお望みですか?」




勧誘の次は脅しか。お前はベタなセールスマンだな。私は奴を蔑んだ目で睨みつけた。





「いいですよ。時間はたっぷりとあります。協力の了承を得るまで、このままの状態でいただきます。心配なさらずとも私自身の手でお世話しますね。」




お前、うれしそうに言うな。本当の目的はソッチじゃないのか?




待て。

待てよ。


このままの状態で奴の世話になる?




い・や・だー!!

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