表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

戒め

「ご機嫌いかがですか?」




三人の筋肉男を連れ立ってやってきたのは、人を拘束することに喜びを見出している変態眼鏡男だ。人に許しもなく向かいのソファに座った。その軽やかな足取りと綺麗な所作に腹が立つ。大体、人の食事中にやってくること自体がマナーが、なっていない。せっかくの食事がまずくなるったらありゃしない。




「最悪だ。」




顔も上げずに言い放ち、食事を続ける。




「女! シルビアーノ様になんと無礼な態度をとるのだ! その場に跪き礼をとらんか!」




おおっ。狐目の男ではないか。二度目の再会だな。そして再び剣に手をかけているな。お前、本当に神聖騎士なのか? 騎士ってのは沈着冷静、義を重んじ、神に仕える騎士として弱者を助ける者じゃないのか? そんな喧嘩早くてどうするんだ?




「ノイラーズ。良いのです。」




眼鏡男が諌めるものの、狐目の男の怒りは、収まりそうもない。




「何をおっしゃっているのです。この女の態度は許せません。大体、シルビアーノ様がお優し過ぎるのです。この女は、直ぐに審問官に引渡し、牢に繋ぐべきなのです!」




男の癖にゴチャゴチャうるさい奴だな。さっきのキンキン声の女といい勝負だぞ。




「そこの男。うるさい。」




男に目を合わせることなく、ナフキンで口を拭き拭きしながら言うと、




「お主! 女だと思っておれば!」




怒った。また怒った。

お前の怒りは、本当にしつこいな。始終怒っていて、疲れないのか?

お前実は嫌われ者だろ? それにしても女じゃなきゃなんなんだ? 男だったら不敬罪とかで即刻斬首の形か? この国は馬鹿だな。こんな肝っ玉の小さな奴がのさばっているのか? 同情するぞ。




「ノイラーズ。落ち着きなさい。それでも神聖なる騎士に名を連ねるものですか?」




やーい。

怒られた。

フッと口端で軽く笑ってやると、狐目の男は怒りを必死におさえようと、小刻みに体を震わせ、こぶしをギュット握り、口を真一文字に結んだ。




「なずはさん。貴方に多少なりとも我慢を強いていることと思います。ですが私に協力をしていただければ、できる限りの要望を聞き入れるつもりでいます。何かありますか?」




「ここから出せ。」




「私に協力をしていただけることを承知くだされば、その身を自由にして差し上げます。」




「戒めを解け。」




「先ほどと同じ理由となりますね。」




「協力はできん。」




「時間はいくらでもあります。お考えください。」




「お前の存在自体が不愉快だ。」




「それは我慢していただけますか?」




ヒュッンッ



カッシャーーーンッ




変態男の左の頬から一筋の赤い線が走り、血が滴り落ちる。

私の投げたナイフが奴の頬をかすったらしい。

おかしいな。確か頚動脈を狙ったはずなんだが。さては避けたな。




「女! シルビアーノ様のお命を狙ったな!」




狐目の男が、なんの躊躇もなく剣を振り下ろしてきた。私はその場から軽く跳躍をして相手の背後に回りこみ、男の横腹に蹴りを加えて、狐目の男を壁にたたき付けた。剣を抜いて向かってきた男を持っていたナフキンで剣を包み込んで剣を横に倒して、空いた懐に入り込んで、肘打ちをし、痛みで屈み込んだので、側頭部に蹴りを加えて床に沈ませる。さて、三人いたよな。最後の一人は?と周りを見回すとガタガタ震えている生真面目青年を発見する。どうするかな? と一寸悩みつつも、まあこれも試練だと思い直し、奇声を上げて向かってくる青年の剣を叩き落し、つんのめって床に転びそになった奴の後頭部に蹴りを加えて床に落としておいた。




ふぅー。

運動はいいな。スッキリとした気分だ。





一息ついているところに、




パチパチパチッ




乾いた音が響き渡った。

変態眼鏡男め。優雅に鑑賞会していたな。ついでにお前も巻き込めば良かった。

男は、この場に似つかわしくないほどニコヤカに笑い、私に惜しみない拍手を送っていた。




「素晴らしい。さすが「バリア」でファーストの称号をお持ちなだけはありますね。」




「お前、その情報をどこで手に入れたんだ?」




「おや? アレだけ各国を渡り歩いて、大捕り物をした人物のお話とは思えませんね。なずはさん。あなたは、その筋では有名でしたよ?」




その筋ってなんなんだ。まるで人が裏社会で暗躍しているような言い方は止めてもらいたい。人に会うとか交渉面は、アルなんとかに任せておいたものを。どこから私の情報が流れたんだ? 後でイサドに文句を言ってやる。




「ファーストだと?」




「嘘だろ?」




「この少女が・・・。」




目を覚まし、起き上がってきた狐目の男や生真面目青年と名無し男が、驚いた顔でこちらを見ている。人の顔をジロジロみて失礼な奴だな。こういう好奇な眼差しが嫌だから、人前に出なかったというのに、この変態眼鏡男はペラペラとしゃべりおって。




「私は貴方と静かにお話がしたかったのですが、少々オイタが過ぎたようですね。仕方がありません。<戒めの輪 音となり 戒めの言葉 かの前に 戒めの鎖 かの者を 戒めよ> 」



神聖語が奴の口から放たれた瞬間、手首のイレズミが締まっていき、強烈な痛みを教える。そしてそのイレズミが全身を這うように移動し、まるで蛇に巻きつかれたように身動きが取れなくなった。




「グッ・・・・。」




締め付けで息が苦しくなり、その場に崩れ落ちるしかなかった。




「ノイラーズ、ミラ、ユニ。部屋から下がりなさい。そして私が良いというまでこの部屋に入ってはなりません。」




「シルビアーノ様。しかし、この女何をしでかすかわかりません。」




「誰にも私と彼女の時間を邪魔することは許しません。ノイラーズ大丈夫です。私を信じなさい。」




うさんくさいドラマを見ている気分だぞ。大体、何をしでかすって言うんだ。お前の上司は、幼いいたいけな少女を拉致監禁して戒めの魔法で拘束し、自由を奪っている鬼畜変態野郎だ。お前らの頭の中、一度洗浄してこい。どちらが悪いのかよく検証してみろ。明白だぞ。




狐目の男は部屋を出る際に、私をジロリと睨んで「女、この人に何かしたら、この剣で首をちょん切ってくれるわ!」なんて丁寧なジェスチャーを交え、呆然としている生真面目青年と無表情な男を引き連れて渋々部屋から出て行った。変態男はそれを見届けると、私を横抱きにしたまま、ソファに座った。



なんなんだ。この体勢は?

公園のベンチに座るバカップルか?

密接する体から、奴の匂いと体温が生々しく感じられて寒気がする。

冗談じゃない。鳥肌ものだ。拘束の所為で息苦しくても。キッ奴を睨みつける。




「ああ、そんなに私を誘惑しないでください。これでも理性を総動員して貴方に接しているのですよ。」




引いた。

完全にドン引きだ。

こいつ嫌だ。真面目に気持悪い。




「貴方の声が聞こえないのは残念ですが、仕方ありませんね。落ち着いてお話ができないのであれば、こういう手段を取らざる得ないのですよ。」




人の片腕を上げて、手首に巻きついているタトゥーをベロリと舐め上げてくる。



うっわっ。

こいつ本物だ。変な性癖があるぞ。こいつこそ牢にぶち込まなきゃ社会のためにならん。




「ああ。やはり貴方の声が聞こえないのは寂しいですね。私は貴方と話がしたいのですよ。何を考え、何を思っているのかを知りたいのです。暴れないと約束していただけますか? もし出来なければ、当分、拘束したままで生活していただきます。その間の貴方のお世話は、私が責任を持ってします。貴方は世話係である女性をお気に召さなかったようなので、私がするしかないでしょう? 食事にお風呂に隅々までして差し上げますよ。」




朗らかに話す内容なのか?

どこをどうしたら、こんなおかしな人間が育つんだ。

しかも神に仕える神官の長だろ? 誰だ! こんな変態を選んだ奴は! この国の奴ら、騙されているぞ! 直ぐにクビにしたほうが、世のため人のためだ。性癖はなかなか直るものではない。いたいけな少年少女に魔の手が伸びる前に、変態は撲滅せねばならん!



まあ、でもこいつの話も一理ある。

このままでは、話が全く進まない。私に何を望み、何をさせようとしているのか。

私は必死に顔を上げて、瞼を軽く閉じて、了承の合図を送った。




「ああ、ご理解いただけましたね。よいでしょう。決して約束を違えないで下さい。私、案外短気なんです。怒ったら愛おしい貴方でも何をしてしまうか、わかりませんから。」







何をする気なんだ! な・に・を!







変態王子続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ