混色テディベア
僕はテディベアになりたかった。
まるでひまわりのように可愛いあの子に抱かれるテディベアに。
考える頭がなくてもいい、薄汚れた布地のままでもいい、年中寒くったっていい・・・ ・・・
幼心に辛いことを考えて考えて考え抜いて、
そんな状況でもいいからあのテディベアになりたい、と僕は願っていた。
僕の名前は田野彰。
あの時僕は、可哀相な10歳だった。
上の文章を読んで、変な子供・・・ ・・・と思った人もいるだろう。
でも僕は本当にあの子のテディベアになりたかったのだ。
まぁ、それは遠まわしな言い方であって
僕はあの子に心を寄せていたのだ。
けれど内気で自信のない、例えるならばモヤシのようだった僕、
要するに意気地なしの僕は、あの子に話掛けることすら、挨拶をすることすら
何一つできやしなかった。
ましてや心の内をストレートにぶつける、等という直向さは持ち合わせていない。
可哀相なくらい情けない少年、僕。
大好きだけど自分の存在をアピールする勇気がないのだ。
そんな僕だけど、あの子のことを好きなのは間違いがない。
けれど僕はあの子のテディベアになりたい、と願うことだけをした。
願うだけだ、夢の現実へと足を運ぶことはしない。
理由はアレだ、さっきも述べた通り、意気地なしだからだ。
例えるならば僕は日陰にしか咲けない花のような、名もない地味な花だ。
どう足掻いたって、君がいる日向へとは近づけない。
もっとも、僕の場合会うことはおろか、話すこともできるのだけれど。
心がそれを妨げているだけなのだ。
そうそう、僕が惚れこんだあの子の容姿についてそろそろ紹介しよう。
あの子の苗字は「小嶋」と言うらしい。
あの子の基本的なスタイルは、
頭には可愛らしい帽子をかぶり、手には薄汚れたテディベアを抱く、というものだった。
帽子は夏には麦藁帽子になったり、冬にはニット帽になったりコロコロと変わった。
そして、あの子の姿について1番目に焼きついているのは
折れそうな程細い手足と黄色く塗られた派手な車椅子。
その2つのアンバランスさが目に焼きついて仕方なかった。
そして心に焼きついて仕方なかった。
そして白い部屋の中、あの子の鮮やかな彩りをいつも思い出した。
そんな目立った容姿のあの子を他の男の子が放っておくわけがなかった。
庭に出ているあの子のことを、いつからだろうか、
大勢の友達が取り囲むようになった。
まるでひまわりを取り囲む賑やかな虫のように。
もちろん僕はその中から弾き出されている。
羽の捥げた虫のように恨めしそうに遠くから見つめている。
そんな友達の中で
あの子に対してみえみえの好意を示すの男子もいれば
あの子に対してちょっかいをかけて分かりにくく好意をアピールする男子もいた。
そんな時あの子は、ひまわりのような笑顔で
『もう、やめてよ』
とまるでオナリナの音色のように言うのだ。
僕も話かけてみたい、ちょっかいをかけてみたい
なんて何回思ったことだろうか。
枕を握り締める夜が何回あったことだろうか。
僕はただ、虚しすぎる白い部屋で苦い味を噛み締めていた。
さあ、もうお分かりの人もいるだろうか
僕もあの子もあの子の友達も長期入院をしているのだ。
僕の場合は白血病。
今は大分回復してきているが様子見、とのことだった。
そして僕の部屋番号は156
あの子の部屋番号は 201だった。
そう、元気になってきた僕を見て、両親の足が遠のいてきた頃だった。
僕は酷く高い熱を出したのだ。
ピッピッピとせわしない機械の音、せわしなく走り回る医師の足音が
僕の耳を何度も何度も途切れ途切れに駆け抜けて。
僕、もう死んじゃうの? なんて思ったりもした。
そして熱く鈍くなっていく頭の中。
あの子に会えなくなってもいいから 僕を助けて
と神様に向かってお願いをした。
小さな涙まで零して。
所詮僕の恋心などその程度だったのだ。
笑ってしまうよね。
結局僕が天に召されることはなかった。
また長い間辛い入院をして、
毎日毎日それこそ苦い味を噛み締めただけだった。
あの子のことも前ほど思い出すことはなかった。
そしてそれから数ヶ月、寒い風が頬を撫でるようになった頃
僕はもうすぐ退院することになった。
片付けられていく僕の身辺のもの。
何か寂しい、空洞と化してしまった心。
僕は思い出した 苦く、辛かった初恋の味を。
僕は今なら、今なら何か大丈夫な気がして
あの子の病室へと足を運んだ。
タンタンタンッ・・・ ・・・と病棟に響く僕の足音。
僕の病室のもう一つ上の階にあるあの子の病室は、
病み上がりの僕にとって少し長い距離だった。
僕の目に映りこむ 201 の文字。
僕は一旦息を落ち着かせ、そして行きたくて仕方のなかった病室を覗きこんだ。
僕の頬に触れる、寂しい空気。
僕の耳に届いたのは悲しい機械音だけだった。
そして僕の目に映ったのは優しいあの子の笑顔じゃなくて
灰色を混ぜたような女の人の後姿だった。
あの子のベッドを覗き込む、悲しそうな女の人。
きっとあの子のお母さんだろう。
あの子の顔はお母さんの背中で見えなかった。
けれど見れなくて良かった。
あの子の体に繋がるたくさんの管から、なんとなく予想はできたから。
目に水色の涙をためた僕の視界に
チラリと映ったのはあのテディベアで
暖かみなんてすっかり忘れてしまったかのように窓辺に座っていた。
そして青色の綺麗な綺麗な空に照らされて
僕のことを睨んでいた。
見苦しい文章ですが、読んでくださった方
どうもありがとうございました。




