彼女と親友が浮気しているかもしれない ~誕生日が近いってのにふざけるな~
最近、彼女の様子がおかしい。
俺には親友がいるのだけれど、その親友と彼女の距離が近いような気がするし、俺のいない時もかなり親しくしているような気がする。
部活でもないのに彼女の放課後の予定が増えたような気がするし、それと被るように親友の予定も入っていた。
彼女や親友を疑うようなことはしたくないのだけれど、彼女は俺の親友と浮気している──親友が、俺の彼女を取ったのではないかと考えてしまう。
でも、まさか真正面から「浮気してる?」だなんて訊く勇気は俺にないから、真偽を確かめるために少し尾行をさせてもらうことにした。
心象は悪くなってしまうかもしれないが、ずっと怪しんでいるまんまなのも問題だと自分に言い聞かせて彼女の放課後に秘密裏に密着することにした。
「──起立。気を付け、礼」
「「「さよならー」」」
授業後のホームルームが終わり、各自解散になる。今日は俺も彼女もバイトがないし、理由がなければ一緒に帰っていた日だ。
俺は同じ教室にいる彼女の方へと歩みを進め、「一緒に帰らない?」と誘ってみる。
「あー、ごめん。今日も用事があってさ」
彼女は顔の前で両手を合わせて申し訳なさそうな顔をして謝る。
「わかった。じゃあ、先帰ってるね」
「うん、ホントごめんね」
俺は彼女に手を振って、教室を出る。やはり彼女には何か予定があるようだった。
同じように親友に帰る誘いをしてみるけれど、やはり同様に断られてしまう。
──そういうわけで、尾行開始だ。
俺は、昇降口の柱の陰に隠れて彼女と親友が来るのを待つ。
十数分待っていると、2人は一緒に出てきた。部活のない人が下校するピークが過ぎてから2人は出て来たから、すぐに見つけることができた。
人と下校時間をズラしているので俺の中の疑念は更に大きくなるけれど、今声をかけても「たまたま下駄箱で会ったんだ」などと言い訳されてしまいそうだから、まだ声はかけない。
俺は、バレないようにコッソリと2人の後ろをつけて行くことにした。
楽しそうに談笑しながら歩いている2人を見ていると、親友に嫉妬してくる。最近俺は一緒に帰れていないし、なんなら夜中に通話しようと声をかけても断られるのに。このままでは、もうすぐに控えている誕生日も一人になってしまうかもしれないのに。
そんなやっかみをブツブツと頭の中で繰り返しながら歩いていると、2人は駅に到着する。
そこで、俺は更に2人に対して疑念を持つことになる。
俺達は全員電車で登下校をしているので変なことではないが、2人が乗ったのは急行なのだ。
2人共最寄り駅は急行が止まらないから乗らないはずなのに、わざわざ急行に乗る。俺は、2人にバレないように隣の号車に体を押し込んで2人がどこで降りるのかを観察することにした。
「──あ、悠翔。今帰り?」
俺が急行に乗り込むと、クラスメイトの青山に出会う。
俺が小さく頷くと、青山は続けて
「悠翔って急行乗ってたっけ?」と問う。
「いや、普段は乗らないんだけどね」
「塾?」
「まぁ、うん」
まさか、彼女と親友が浮気してるかもしれない──だなんて話せるわけがないから、適当に話を誤魔化しておく。青山と話していながらも、俺は隣の号車の方に何度も視線を送る。
そこには、見られているとは知らない彼女と親友の2人が隣同士に座りながら仲良さそうに談笑している姿が見える。きっと、傍から見ればカップルに見えるだろう。
俺は、青山にバレないようにそっと下唇を噛む。急行電車に揺られながら、俺は青山と当たり障りない会話を交わすことさえできなかったように思う。
俺は、2人が降りる仕草を確認すると、青山に「じゃ、俺ここだから」と挨拶をして電車を降りる。
ホームに出た時にバレるかもしれない──とも思ったが、ここは乗換も多く人の列ができていたのでその心配は杞憂に終わりそうだった。
青山の「塾、頑張れよ」という応援を背に、俺は2人の尾行を再開する。
人混みの中を歩いて行く2人は、どうやら街に出るようだった。
この駅に降り立つのは俺も初めてだから、ここに何があるのかとかは把握していない。
色々な想像が過る中で駅の改札を抜け、出口を抜けると曇天が俺にのしかかる。
灰色の空の下に広がっていた背の高い建物群──要するに、駅ビルというやつだ。
無数の駅ビルには、ハンバーガーチェーン店やカラオケ、塾の看板が無数に掲げられており、俺のことを囲んでいる。
そんな中で、行き先が決まっていると言わんばかりに2人は歩いて行く。
その20m程後ろをバレないように歩くと、数分もせずに2人は一つの建物に入っていった。
そこは、日本有数のディスカウントストア。食料品でも衣料品でもニッチな趣味のスターターキットでもなんでも売っていると銘打っているその全国チェーンのお店の中に入っていった。
きっと、こういうタイプの店の内装は商品が山積みになっており、また迷路のように入り組んでいるだろう。一度見失ったら見つけるのは困難だ、そんなことを勘が絵ながら俺は小走りになって店の中に入っていく。すると──
「あ、あれ、ハル君。ど、どうしてここに?」
「あ──」
勢い余って、俺は尾行相手である2人と鉢合わせてしまう。店の奥に入ったと思っていたから、しくじった。
彼女も親友も、驚いたような顔をしてこっちを見ている。俺も、対面しただけで冷や汗をかきそうだった。
一瞬の沈黙が生まれる。
俺が返答に困っているからだ。
どうしてここに──という質問に、「2人が浮気してるかもしれないって疑ってるから、尾行していた」だなんて馬鹿正直に答えても笑い話にされてまともに取り合ってもらえないだろう。
俺が思考を逡巡させて、何と返すべきか考えてみる。そして、沈黙を破るに相応しいと選んだ言葉は──
「──そっちこそ。忙しいんじゃなかったの?2人で何してるの?」
質問返し。
俺がここにいる理由を有耶無耶にすると同時に、2人がどうしてここにいるのかを自然な流れで追究できるほぼ唯一と言っていい方法だった。
2人は、ぎこちない笑みを浮かべながら視線を交わす。そして、親友が一つ大きなため息をつき、こんなことを口にした。
「バレちゃったならしょうがないか……」
やれやれ、と言わんばかりに首を横に振る親友を見て、俺は拳を握りしめる。開き直ってるんじゃない──そう怒鳴りそうになったその時、彼女が口を開く。
「ハル君、もう少しで誕生日でしょ?だから、サプライズで何かプレゼントできたらよかったんだけど……」
両手の指の腹を重ねながらそう口にする彼女を見て、俺は言葉を失う。
「さぷ……らいず?」
一瞬、その単語が理解できなかった。
浮気ばかりを疑っており、サプライズプレゼントを用意してくれているなんて考えもしなかったからだ。
このままでは、もうすぐに控えている誕生日も一人になってしまうかもしれない──だなんて考えては疑っていた自分が嫌になる。
2人は、誕生日を盛大に祝うために秘密裏に用意をしてくれていたのだ。
「今この時点でサプライズじゃなくなったけどな」
親友が困ったように笑いながら、そんなことを口にする。
彼女と親友を信じていればよかったのに、俺の心が弱いから2人を疑ってしまった。
「──ごめん」
俺は素直に謝る。それしか言葉が出てこなかった。
2人に対しての申し訳なさだけが、俺の体を突き動かしていた。
「ぶっちゃけると、2人が異常なまでに仲良くしてるから浮気を疑ってた。本当ごめん」
俺がそう頭を下げると、2人は顔をキョトンとしたような顔を見合わせる。そして、2人は爆笑した。
「浮気?俺が?ないない!流石に親友の彼女を奪うような男じゃねぇよ!」
「そうだよ。コイツと付き合うとかありえない」
2人が笑いながらそう否定をする。
俺も、自分の愚かさに笑えて来た。高校生3人が店前で爆笑している光景は、道行く人にどう見えただろうか。世間の目を気にしない程に、俺達は笑った。
「──じゃあ、俺は帰るよ。サプライズプレゼント、いいの用意してくれ」
俺はそう口にして、背にあるリュックを背負い直す。サプライズで何か買おうとしてくれていたのだから、それを邪魔するのも野暮だろう。これ以上2人の計画を壊したくない、という気持ちがあった。
「うん。任せて、プレゼント」
「もうサプライズじゃないけどな」
俺は2人にプレゼントのことを任せると、店を後にする。
曇天の空を背負い、俺は一人駅へと向かった。
──悠翔は一人、帰宅する。
サプライズプレゼントの話は浮気している彼女の手によって、その場で作り出された嘘であることも知らずに。




