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8.奴隷契約と嫉妬、そして地下決闘場へ。

 拓真のギラついた即答を聞き届け、星宮かりんはニィッと小悪魔のような笑みを浮かべた。

 

 そして、獲物を狩るような視線を、Aランク探索者の煉へと向ける。


「Aランクの煉さんでしたっけ?そういうわけで、私、彼と専属契約を結んでますので。……悪いけど、Aランク程度の貴方じゃ私のボディーガードには『傷一つ』つけられないでしょうから、さっさと失せてもらえます?」


 ふふっ、と鼻で笑いながらの、明確な挑発。あからさまに見下した態度で、シッシッと犬でも追い払うような仕草まで見せる。


 コケにされた煉はピクッと眉を吊り上げ、ギリッと歯を食いしばった。


「はっ、大きく出たな。FランクのモブがAランクの俺より上だって?舐めやがって……いいぜ、そこまで言うなら『決闘デュエル』だ。俺がそのゴミを完膚なきまでに叩きのめして、どっちが格上か教えてやるよ」


 煉は怒りを孕んだ声で怒鳴った後、すぐに下卑た笑みを浮かべて舐め回すようにかりんの全身を見つめた。


「だが、ただボコボコにするだけじゃつまらねぇ」


 煉はニヤニヤと笑いながら、かりんを指差した。


「俺が勝ったら……星宮かりん、お前は俺の『奴隷』になれ。配信でもプライベートでも、俺の言うことを絶対聞くパートナーになるんだ」


「ちょっと煉!?」


 その要求に、誰よりも早くヒステリックな声を上げたのは結衣だった。


 彼女は煉の腕にしがみつき、かりんを親の仇のように睨みつける。


「私がいるのにどういうこと!?第一、こんなポッと出の一発屋みたいな配信者なんかに構う必要ないじゃない!」


「落ち着けよ結衣。なにも懸けないんじゃ、周りで見てる連中もつまらねーだろ?これはただのエンタメだ」


 煉は表向きこそ結衣を宥めつつ、内心では狂喜乱舞していた。


(ラッキー!この貧弱な志倉を軽くボコすだけで、あの超人気配信者を俺の自由にできるなんて、めちゃくちゃついてるぜ!こいつのチャンネルを使えば俺の知名度も爆上がりするし、結衣の薄っぺらい体にも正直飽きてきたところだったんだよな!めちゃくちゃにしてやるぜぇ)


 頭の中はすでに、かりんを我が物にした後のゲスな妄想で埋め尽くされている。


「……いいですよ。私が負けたら、貴方の言うことを何でも聞いてあげます」


 かりんは余裕の笑みを崩さず、あっさりとその奴隷契約を承諾した。


 その態度がさらに結衣のカンに障り、「絶対ボコボコにしてやってよね!」と金切り声を上げている。


「騒ぎはそこまでにしていただこう」


 ロビーの熱気がピークに達したその時、よく通る低い声が響いた。


 人混みをかき分けて現れたのは、蒲田ギルドのロビーを統括するギルド主任だった。騒動を聞きつけ、職員を連れてやってきたのだ。


「ギルド内での私闘はご法度だ。……だが、双方合意の『決闘』であれば話は別。星宮かりん氏と、Aランクの煉氏。そしてそちらの……ええと、スウェットの彼。決闘の意思に間違いはないな?」


「はい、問題ありません」


「俺もオッケーだ。このモブにAランクと底辺の『格の違い』を教えてやらなきゃならないんでね」


「早くしろ。日替わりピックアップガチャの更新まで時間がねえんだよ」


 三者三様の返答を受け、主任は重々しく頷いた。


「よろしい。ギルドの権限において、この決闘を受諾する。……案内しよう。戦いの舞台は、ギルド地下に切り出して造られた『地下決闘場ダンジョン・アリーナ』だ」


 主任の先導で、一行はギルドの奥にある厳重なゲートへと向かう。


「地下決闘場……?」


 かりんが小声で首を傾げた。


 だが、彼女はそんなこたぁもちろん知っている。知っているが知らないふりをして相手の油断を誘う。やれることは全部やる。それが星宮かりんという女だ。


「ああ。高ランク探索者同士の決闘に耐えられるよう、このギルドの真下にあるダンジョンの一部を隔離し、闘技場として改装した場所だ。つまり、あそこはロビーとは違い、魔素が充満する『本物のダンジョン内』ということになる」


 煉が自慢げに解説する。


 かりんの口角がこれ以上ないほど邪悪に吊り上がった。


(いい感じに油断してるわね...初めからこれを知っていないと決闘なんて仕向けませんよ……くくっ)


 自分の事前の調査が完璧だったことを確認し、かりんは内心で歓喜する。


(ダンジョン内なら、このカバン男さんは無敵の『バケモノ』になるのよ)


 かりんはこっそりと鞄からドローンカメラを取り出し、電源を入れた。


 タイトルは『【神回確定】タイトルは始まってのお楽しみ!』。配信枠を立ち上げた瞬間、すでに数万人の待機が押し寄せている。


(Aランク探索者vsボディーガード(カバン男)!敗者は奴隷のデスゲーム!ってタイトルにするつもりだけど、まだ駄目よ)


 このまま主任たちギルド幹部に決闘を見られるのはまずいのだ。現在、ギルド側も『カバン男』の行方を血眼で探っている。彼のデタラメな力がここで露見すれば、組織に彼を奪われてしまうからだ。動画も同様。公開する際には全てが揃い、全てを終わらせ、カバン男を自分のモノにする時だ。


「あ、主任!皆さんも!」


かりんはわざとらしく声を張り上げ、ぞろぞろとついてこようとする主任たちを振り返った。


「こんな個人的な揉め事にいつまでも付き合っていては、ギルドの通常業務が滞ってしまいますよ!ほら、ロビーにはまだ探索者さんがたくさんいたじゃないですか。ここはお仕事にお戻りください!」


「いや、しかしだな。正式な立ち合い人がいないと……」


「それなら心配いりません!立ち合いなら――そこの、結衣さんにお願いするのが適任です!」


 かりんはビシッと、煉の腕にすり寄る結衣を指差した。


「彼女も立派なギルド職員ですし、立ち合い人として規則上の問題はないはずです!さあさあ、お忙しい主任たちは早く戻って戻って!」

 

 かりんの有無を言わさぬ正論と勢いに押され、主任たちは「ま、まあ彼女が立ち会うなら……」と渋々ロビーへと引き返していった。


 見事に邪魔者を払い、地下へと続く階段を下りながら、結衣が最後の情けとばかりに見下した声をかけてくる。


「拓真……今のうちに謝った方がいいわよ。煉が本気を出したら、貴方なんて一瞬で消し炭になるんだから。あの可愛げのない配信者と一緒に土下座でもすれば奴隷の件も私から煉に言って無かったコトにしてあげる」


「……あ?なんか言ったか?」


 だが、拓真はスマホの『10連!最低保証1,000円』というガチャ画面を血走った目で見つめており、結衣の言葉など1ミリも耳に入っていなかった。


「……っ、強がっちゃって!」


 顔を真っ赤にして煉の腕にすり寄る結衣。


 ニヤニヤと下劣な妄想を膨らませる煉。


 同接のバズりに脳汁を垂れ流す腹黒配信者かりん。


 そして、ただ「ガチャ代の魔石」を強奪することしか頭にない最強のガチャ廃人である拓真。


 全員の思惑と欲望がドロドロに交差する中。


 重厚な扉が開き、魔素が濃密に渦巻く『地下決闘場』へと、四人は足を踏み入れた。

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