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5.ダンジョンの外ではただのモヤシ。だがカバンは語る。

 突如、無名のFランク探索者が特大の魔石を蒲田ギルドの換金所に叩きつけ、騒然とする職員たちを尻目に現金を強奪してから一夜。


 星宮かりんは、変装用の伊達メガネと帽子を深く被り、蒲田にある大型ディスカウントストアの入り口付近で張り込みを行っていた。


「……絶対にこの辺に現れるはず」


 彼女の目には、獲物を狙うハンターのような鋭い光が宿っている。無名のFランク探索者を探し出すのは、砂漠で一粒の砂金を見つけるようなものだ。しかし、かりんには一つの確信があった。


 言動を鑑みるに、あの男は『ガチャ中毒』であるのは間違いない。そして、昨日のフレアハウンドの魔石は、最低でも数百万円の現金に化けているはずだ。


 普通なら銀行口座に振り込んでもらうか、豪遊するだろう。だが、重度のガチャ狂いならどうするか。クレカは限度額がいっぱいかもしれない、いやいっぱいだろう。しかも複数枚を使い切っているはずだ。ならば手にした大金で手っ取り早く課金するには、コンビニやディスカウントストアで『大量の電子マネー(プリペイドカード)』を買うしかないのだ。


 おまけに彼は服を燃やしているため、安い代わりの服も調達しなければならないのだ。


「蒲田ダンジョンの付近で、激安の衣類が売ってて、電子マネーの取り扱いがある大型店は蒲田だと西口のここしかない……絶対に来る!」


 バズの金脈を独占したいという腹黒い執念が、彼女の推理力を名探偵レベルにまで引き上げていた。真実はいつも一つなのだ。


 張り込みを開始して数時間。レジの方から、店員の少し引いたような声が聞こえてきた。


「ええと……こちらの魔法のカード、10万円分を20枚で……合計200万円分でよろしいですか……? あと、こちらのグレーのスウェット上下セットが1着……」


「はい。早くしてください。日替わりピックアップ1/319で当たる!の更新時間が迫ってるんで」


 そのセリフに、かりんの肩がピクリと跳ねた。急いで声のしたレジの方へ向かうと、そこには両手いっぱいにプリペイドカードの束を抱えた男の姿があった。


「あ、あの!」


 かりんは意気揚々と駆け寄り、男の背中に声をかけた。


「昨日のカバン男さんですよね!?私、昨日ダンジョンで助けてもらった――」


 振り向いた男の顔を見て、かりんの言葉がピタリと止まった。


「……なんですか、宗教の勧誘?それとも新手の詐欺?悪いけど俺、今から全財産をオリパに突っ込む予定なんで、1円も寄付できませんよ?ではそういうことで」


 男は、ひどく怯えた小動物のように肩をビクッとすくませ、警戒心剥き出しでかりんを睨みつけてきた。


 目の下に濃いクマを作った、ひょろひょろの猫背。太陽の光を長年浴びていないような青白い肌。どこからどう見ても、ただの不健康な元社畜のモヤシ男である。


(えっ……?嘘でしょ……?)


 かりんは大混乱に陥った。

 

 昨日ダンジョンで見たあの男は、Cランクの凶悪な魔獣を前にしても微動だにせず、極大の炎を浴びても平然と歩みを進める『圧倒的な強者のオーラ』を放っていた。


 背中から覇気が立ち上り、まるで歴戦の鬼神のような威圧感があったのだ。


 しかし、目の前にいる男からは、そんなオーラは微塵も感じられない。すれ違ったヤンキーに肩をぶつけられたら、三秒で土下座しそうな弱々しさだ。


(そ、そうか……!)


 かりんはハッと思い出した。

 

 ダンジョン内にある『魔素』を取り込むことで、人はスキルや魔法、そして超人的なステータスを発揮できる。しかし、それはあくまでダンジョンの中に限られた話。一歩外に出れば、魔素の供給が絶たれ、どれほどレベルが高い探索者でも『ただの一般人』に戻ってしまうのだ。


 つまり、ダンジョン内であれほどの無双を誇った男も、現実世界(外)では、悲しいほど貧弱なモヤシ男に過ぎないということ。



 とはいえ



「あ、あの……人違い、だったみたいです?……ごめんなさい」


 あまりのギャップに、かりんは思わず後ずさりしてしまった。いくら声が似ていても、この覇気のない男が、流石にあの『倫理観Fランクの変態バケモノ探索者』と同一人物だとは到底思えなかったのだ。


「人違いなら話しかけないでくださいよ。ただでさえ、これから命を懸けた大勝負をするってのに、運気が下がる」


 男はチッと露骨な舌打ちをして、レジ袋をガサツに掴み上げた。


「じゃ、俺は急いでるんで」


 猫背を丸め、トボトボとした足取りで足早に立ち去ろうとするモヤシ男。

 

 かりんは「やっぱり別の人かぁ……いやでも200万分も?」とため息をつきかけた、その時。


 男が提げているレジ袋とは逆の手に、見覚えのある物体が握られていることに気づいた。


 擦り切れ、持ち手の部分がボロボロになり、さらには昨日のフレアハウンドの炎で『一部が黒焦げになっている』、頑丈そうな黒い通勤カバン。


「……っ!」


 かりんの口元が、ニィッと三日月型に吊り上がった。


(あれ!間違いないでしょ!?オーラは皆無だけど……あのカバン、絶対に昨日の男やつだわ……!)


 ダンジョンの外ではただの貧弱なモヤシだと判明したことで、かりんの中の恐怖心は完全に消え去っていた。むしろ、扱いやすそうなチョロい相手にすら見えてくる。


「ふふっ……見つけた。私のチャンネル登録者数の餌が……絶対に逃がさないんだからね!金脈ぅ!」


 小声でゲスい独り言を呟きながら、かりんは伊達メガネの位置を直し、足早に去っていく拓真の背中を、抜き足差し足で尾行し始めた。


 こうして、現実世界ではただの虚弱なガチャ中毒者である志倉拓真は、気づかぬうちに腹黒VTuberに完全ロックオンされることとなった。


 自宅のアパートに帰り着き、200万円分のプリペイドカードを全て『爆死』という形で失い、再び絶望の底で「……くぅ...1000連で1/319を外すかぁ?...絶対運営やってるだろ......はぁ、またダンジョン、行こ」と呟く未来が、すぐそこまで迫っているとも知らずに。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 200万ぶっ込んで爆死…!? 実は運のステータス、マイナスになってたりしませんかね?金の亡者に依然ロックオンされてるしww
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