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『暴食の魔王と、根に持つ社長の極寒ビュッフェ戦争』

『暴食の魔王と、根に持つ社長の晩餐会』


✴︎茶色は正義! 魔王のバイキング無双


ニュー阿寒ホテルのビュッフェレストラン「フェリシェ」。

そこは、北海道の海と大地の恵みが集結した、食のワンダーランドである。

オープンキッチンから漂うステーキの焼ける音、氷上に鎮座する新鮮な刺身の山、そして揚げたての天ぷら。


「ふはははは! 見よ雪! これが北海道の『本気』だ!」


恋問持子は、両手にトレイを持ち(二刀流)、高らかに笑った。

彼女のトレイの上には、物理法則を無視した**「茶色の塔」**が建設されていた。

ステーキ10枚、ザンギ(唐揚げ)の山、天ぷらタワー、そして隙間を埋めるように詰め込まれたカニ炒飯。

別皿には、もはや「親の仇」のように盛られた甘海老とサーモンの刺身。


「いただきまーす!!」


「……ちょっと待ちなさい、このバカ魔王」


対面に座った社長の立花雪が、こめかみに青筋を浮かべて静止をかけた。

雪のトレイには、上品なサラダとチーズ、そして輝く生ビールのみ。


「あんたねぇ……明日、何の撮影か分かってる? 『氷の妖精』よ? 透き通るような儚い美少女よ? そんな『わんぱく相撲』みたいな食事して、お腹が出たらどうすんのよ!」


雪の正論(お小言)に対し、持子は口いっぱいにステーキを頬張りながら、鼻で笑い飛ばした。


「ふん! 愚かな! 心配無用だ雪よ!」


「もぐもぐ……ゴックン! ぷはーっ!」


持子はジョッキの水を干し、自信満々に自らの完璧なプロポーション(黄金比)を見せつけた。

かつては魔力を脂肪として蓄え込み、測定不能の数値を叩き出していたが、今の彼女は違う。


「わしを誰だと思っている? 合気武道により魔力循環を極めし魔王・恋問持子だぞ? 今のわしの体重は、健康的な58キロ! まさになまらシンデレラ体重!」


持子はフォークを指揮棒のように振り回す。


「摂取したカロリーは、即座に**『超高密度魔力』**へと変換され、この美貌を輝かせるエネルギーとなる! つまり! 食えば食うほど、わしは美しくなるのだ! ガハハハハ!」


「……都合のいい代謝機能ね。全人類の女性を敵に回す気?」


雪は呆れ果ててビールを一口飲んだ。


「はぁ……見てるだけで胃もたれするわ。私はもう若くないんだから、そんな脂っこいもの無理よ」


その言葉に、持子の目が意地悪く光った。


「ほう? 雪よ、そうやってビールばかり飲んで……『糖質』は気にならんのか?」


「っ!?」


雪の手がピクリと止まる。


「以前、鎌倉へ温泉旅行に行った時……湯船で雪の腹を摘んだが、実に**『モチモチ』**として気持ちよかったぞ? あれは確か、内臓脂肪というやつで……」


「…………」


「油断すると、わしのような58キロのパーフェクトボディではなく、ただの『中年太り』になるぞ? ん? どうした雪、顔が怖……」


バキッ。

雪の手の中で、割り箸が見事にへし折れた。


「……持子?」


雪が、能面のような笑顔で持子を見つめる。眼鏡の奥の瞳は笑っていない。


「誰が中年太りだって? ……あの鎌倉の露天風呂で、あんたが私の脇腹を面白がってプニプニしたこと、一生忘れないからね?」


「ひぃっ! 殺気!? ステーキソースより濃い殺気が!?」

「さあ、お食べ。明日の撮影で、そのカロリー分……たっぷりと搾り取ってあげるから♡」


「わ、わかった! 食う! 食えばいいのであろう!」


持子は雪の怨念から逃げるように、カニの殻をバキバキと割り始めた。

美味しいけれど、どこか鉄の味がする晩餐となった。



✴︎猛吹雪の特攻野郎(A-Team)


夕食後。部屋に戻った二人は、窓の外を見て絶句していた。

ゴォォォォォォ……!

窓ガラスが割れんばかりの風音。視界ゼロのホワイトアウト。

阿寒湖は今、地獄の猛吹雪に見舞われていた。


「……ねえ、持子。本当にあそこ(屋上)行くの?」


雪がドン引きしながら窓を指差す。


「当然だ! ここまで来て引けるか!」


持子はすでに、露出度の高い深紅の勝負水着に着替えていた。

その上からホテルの湯着ムームーのようなものを羽織り、仁王立ちする。


「悪天候? 上等だ! 嵐の中でこそ、魔王の覇気は輝くのだ!」


「ただの露出狂にしか見えないけど……」


「雪も早く着替えろ! ほら、その黒のビキニ! なかなかセクシーではないか!」


「……はぁ。もうどうにでもなれ」


雪も諦めて水着に着替え、湯着を羽織った。


(こいつの腹の肉を摘んでやりたいけど、悔しいことに腹筋が割れてるのよね……今58キロって言ってたけど、筋肉量どうなってるのよ……)


雪は持子の引き締まったウエストラインを横目で見ながら、密かに対抗心を燃やしていた。


「行くぞ! 天空の聖域サンクチュアリへ!」


「はいはい、遭難しないようにね」


二人はエレベーターに乗り込み、最上階のさらに上、屋上への扉の前に立った。

扉の向こうからは、ヒュオオオオオ!という、この世のものとは思えない風の音が聞こえてくる。


「……開けるわよ?」


雪がドアノブに手をかける。


「うむ! 開け放て! 伝説の幕開けだ!」


ガチャリ。

その瞬間、二人はまだ知らなかった。

この扉の向こうで、魔王の威厳が風と共に去りぬ状態になることを。

そして、この極寒のプールが、まさかの「愛と涙の告白会場」に変わることを。


「突撃ぃぃぃぃぃ!!」


持子は叫び、雪は溜息をつきながら、白き闇の中へと足を踏み出した。


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