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「聖夜、涙は凍らず」

うーん

もう少し、

でもダラダラはだめか〜

『聖夜の告白と、氷の女王の涙』


✴︎聖夜の決戦と、かりそめの恋人


「……わかった。行く。行けばいいのだろう! 借金を返し、金を稼ぐのは王の務めだ!」


数分後、復活した持子は、涙目で条件を飲んだ。

その悲壮な決意を聞き届け、社長の立花雪は手元のタブレットを操作し、冷徹にスケジュールを決定した。


「よろしい。……出発は12月31日よ。大晦日のフライトで現地入りして、元旦から極寒地獄へダイブしてもらうわ」


「げぇっ!? おおみそか……!? 除夜の鐘も聞けぬのか!?」


持子が絶望の悲鳴を上げるが、雪は聞く耳を持たない。


「文句ある? 自然現象フロストフラワー相手なんだから、人間の都合なんて通用しないのよ」


「ぐぬぬ……! わかった、従おう! だが雪よ、一つだけ条件がある!」


持子は食い下がった。


「明日の25日……クリスマス当日だけは、わしに完全な休息を与えよ! それくらいは労働者の権利であろう!」


「……まあ、いいわ。許可する。最後の晩餐くらい楽しみなさい」


「よし! ならば……」


持子はニヤリと不敵に笑い、先ほど自ら発行した**『魔王一日自由券』**を高々と掲げた。


「明日25日、わしはこの券を持った者の所有物となる。……さあ、欲しい者は名乗り出よ!」


その瞬間、場に戦慄が走った。

鮎は強制労働(冬期講習&仕事)のため、血の涙を流しながら雪に引きずられて退場済み。ポイィット!!

残った三人による、血みどろのジャンケン大会が開催された。


「「「ジャン・ケン・ポン!!!」」」


一瞬の静寂。

レオ:チョキ。

美羽:チョキ。

そして、沙夜:グー。


「……勝った」


如月沙夜が、震える手で握りしめた拳を胸に当てた。

それは単なるゲームの勝利ではない。彼女にとって、運命を賭けた勝利だった。

その潤んだ瞳には、レオや美羽が気圧されるほどの、並々ならぬ**「決意の炎」**が宿っていた。


「持子……。明日は、私だけのモノになってもらうわよ」



✴︎表参道のデートと、解けた魔法


翌日。12月25日。

表参道のケヤキ並木は、シャンパンゴールドのイルミネーションに彩られ、幻想的な光の回廊となっていた。

その下を、恋問持子は歩いていた。

首元には、沙夜からプレゼントされた黒い手編みのマフラー。顔を半分埋めるようにして、その温もりを堪能している。


「……似合ってるわよ、そのマフラー」


隣を歩く沙夜が、満足げに微笑む。

今日の彼女は、純白のコートに身を包んでいる。雪の妖精のような、あるいは触れれば消えてしまいそうな儚さを纏っていた。


「うむ。温かい。……まるで貴様の体温のようだ」


「……バカ」


沙夜は顔を赤らめると、持子の腕にギュッと抱きついた。

友人同士の腕組みではない。恋人繋ぎのように指を絡ませ、身体を密着させる。

二人は人気のパンケーキ店でクリームを口につけて笑い合い、煌びやかなショーウィンドウを眺め、ただの「女子高生」として、そして「普通の恋人」のように過ごした。

魔王と下僕ではない。

女優とモデルでもない。

ただ、好きな人と聖夜を過ごす、二人の少女として。

だが、魔法の時間は永遠ではない。

日が暮れ、冷たい風が吹き始めた公園のベンチ。

喧騒から離れた静寂の中で、沙夜が持子の肩に頭を預けたまま、震える声で切り出した。


「……ねえ、持子。私……年明けに、アメリカへ行くの」


「……は?」


持子の思考が止まる。

パンケーキの甘い余韻が、急速に冷えていく。


「ハリウッドよ。向こうの映画の、オーディションに受かったの」


「……ハリウッドだと?」


「ちょい役だけど……これが評価されれば、向こうで女優として生きていくチャンスなの。……だから、しばらく会えない」


沙夜の声は、微かに震えていた。

日本での「如月沙夜」は、いつまで経っても「元・天才子役」だ。

世間が貼ったレッテル。過去の栄光と比較される屈辱。

「劣化」と嘲笑うネットの声。

ここは、彼女にとって息をするのも苦しい場所だった。


「この国じゃ、私はいつまで経っても『過去の遺物』なの。……誰も、今の私を見てくれない」


沙夜が、持子の腕を握りしめる力が強くなる。


「でも、向こうなら……実力だけで勝負できる。氷の女王なんて仮面はいらない。ただの役者として生きられるの」


それは、あまりにも正当で、そして切実な理由だった。

持子は、星の見えない東京の夜空を見上げた。

白い息が、イルミネーションの光に溶けて消えていく。


「……そうか」


短い返事。

沙夜が、すがるような瞳で持子を見上げた。

その瞳は揺れていた。不安と、希望と、そして――**「行くなと言ってほしい」**という、矛盾した乙女心が渦巻いていた。


「持子は……引き止めないんだね」


ポツリと、沙夜が呟く。


「『行くな』って。『私のそばにいろ』って……魔王の命令なら、私、全部捨てて残るのに」


それが本音だった。

夢も、プライドも、どうでもよくなるほど、目の前の「魔王」が愛おしい。

この温もりに甘えて、一生飼い慣らされていたい。

そんな甘い誘惑が、沙夜の心を締め付けていた。



✴︎別れの口づけ


持子は、フッと鼻で笑った。

そして、冷え切った沙夜のあごを、大きくて温かい手で強引に掴み、上を向かせた。


「馬鹿者。誰に物を言っている」


持子の黄金の瞳が、至近距離で沙夜を射抜く。

そこには、寂しさも、未練も微塵もなかった。あるのは、絶対的な「信頼」と「傲慢」だけ。


「貴様は、この魔王・恋問持子が見出した逸材おもちゃだぞ? わしが愛し、わしが認めた女だ」


「……っ!」


「日本ごとき狭い水槽で、貴様という大魚が飼えるものか。……世界征服など、通過点に過ぎん! ハリウッドごとき、貴様の美貌と演技で蹂躙してこい!」


持子は力強く頷いた。

「行くな」とは言わない。

「行って、征服してこい」と言う。

それが、魔王なりの最大の愛であり、沙夜への敬意だった。

貴様は、わしの隣に立つに相応しい女になれ、と。


「……あぁ……やっぱり、アンタは魔王ね」


沙夜の目から、堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちた。

嬉しかった。

引き止められなかったことが寂しくて、でも、信じて背中を押してくれたことが、たまらなく嬉しかった。


「悔しいけど……大好きよ、持子」


「知っている」


「でも……この思い出だけは、誰にも上書きさせない」


沙夜は背伸びをすると、持子の首に腕を回し、その唇を塞いだ。


「んっ……」


触れるだけのキスではない。

あふれる涙の味がする、しょっぱくて、甘いキス。

持子のマフラーに顔を埋め、むさぼるように唇を重ねる。

深く、熱く、互いの魂を刻み込むような口づけ。


挿絵(By みてみん)


(忘れないで。私の熱を。私の匂いを)


(アンタが私を忘れないように、深い深い呪いをかけてやる)


数秒、あるいは永遠のような口づけの後。

沙夜はゆっくりと唇を離した。

涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いもせず、彼女は夜空の下で、最高に美しく微笑んだ。


「……行ってきます、私の魔王様」


その笑顔は、かつての「天才子役」の作り笑顔ではない。

一人の恋する少女が、愛する王のために強くなろうとする、覚悟の輝きだった。


「うむ。……土産話を楽しみにしているぞ、沙夜」


聖夜の鐘が、遠くで鳴り響いていた。

それは二人にとっての別れの合図であり、それぞれの戦場へ向かう、始まりのゴングでもあった。

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