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魔王だけど聖夜くらい浮かれてもいいよね?

『聖夜の赤き狂宴と、凍りついた魔王』


魔王、図星を突かれて赤面する


12月24日、クリスマスイブ。

東京・代官山。

芸能事務所「スノー」のオフィスは、異様な熱気に包まれていた。


「……ふむ。これが異教の祭り、『クリスマス』か」


事務所の中央、飾り付けられたツリーの前で、**恋問持子こいとい もちこ**は腕組みをして、さも深刻そうに頷いた。


「赤い服を着た老人が、煙突から不法侵入を行い、子供たちを洗脳するための貢物プレゼントを配る……。まさに、我ら魔王軍にふさわしい、略奪と支配の祭りではないか!」


持子は「どうだ、魔王っぽいだろう?」と言わんばかりに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。

だが、デスクでタブレットを操作していた社長の**立花雪たちばな ゆき**は、顔も上げずに淡々と言い放った。


「はいはい。……持子さん、昨日の夜、ベッドの中で『クリスマスの起源』とか『サンタクロース 由来』とか、スマホで熱心に検索してたわよね? あと『パーティ 盛り上げ方』も」


「なっ……!?」


持子の表情が凍りついた。

雪は眼鏡の奥から、全てを見透かすような視線を向けた。


「本当は『みんなでパーティするの楽しみ!』って思ってるくせに。無理して『略奪』とか『支配』とか言わなくていいのよ? ……素直じゃないんだから」


「う、ぐぐ……っ!」


図星だった。

持子はカッと耳まで赤くし、視線を泳がせた。


「ち、違う! わしは魔王として、この浮かれた行事に警鐘を……!」


「はいはい、わかったわかった。……で? その『楽しみにしてたパーティ』のために用意した衣装、着ないの?」


「うぅ……雪には、なまら敵わん……」


持子は唇を尖らせ、上目遣いで雪を睨んだ(つもりだが、完全に拗ねた子犬のような顔だった)。

推しである雪に、自分の「設定ロールプレイ」の裏側にあるワクワク感を見抜かれていたことが、恥ずかしくも嬉しかったのだ。


「……着る。着替えればいいのであろう!」


持子は更衣室へと駆け込んだ。

数分後、カーテンが勢いよく開かれた。


「どうだ、雪! これぞ『サンタ・オルタ(魔王Ver)』だ!」


そこに現れたのは、深紅のベルベット生地に白のファーをあしらった、露出度高めのサンタドレスを纏った持子だった。

ミニスカートから伸びる、神が計算し尽くした黄金比ゴールデンバランスの長い脚。

豊満な胸元を強調するビスチェは、今にもはち切れんばかりの質量を支えている。

その姿は、プレゼントを配る聖人というより、視線だけで男を悩殺するサキュバスに近い。


「うむ。……悪くない」


持子がポーズを決めると、その背後から、さらにヤバい気配がズリズリと近づいてきた。


「ご主人様ぁぁぁぁ!! お似合いですぅぅ! そのヒールで踏まれたいですぅぅ!」


「ぬ?」


振り返ると、そこには**「トナカイ」のコスプレをした本多鮎ほんだ あゆ**がいた。

しかも、ただの着ぐるみではない。首輪と鎖がついたレザー仕様のボンテージ風トナカイだ。


「見てください、ご主人様! 私は貴女を乗せて夜空を駆ける『ソリ引き』です! さあ、私の背中にまたがってください!」


四つん這いで迫る彼女は、事務所の稼ぎ頭であり、私立聖ミカエル学園の3年生。学校では誰もが憧れるカリスマモデルの先輩だ。

だが、その目は完全にイッている。


「……邪魔だ、駄犬」


ドガッ。

持子は鮎の顔面を、ピンヒールの足裏で無慈悲に押し返した。


「今日は大事な客人を招いているのだ。……その変態的なツノをしまえ。後輩たちが引くであろうが」


「んぐぅぅっ♡ ご褒美ありがとうございますぅぅぅ!!(昇天)」



✴︎2年生トリオの来訪と、3年生の威圧


ピンポーン。

オフィスのチャイムが鳴り響いた。


「あ、来たみたいね。……持子さん、鮎を片付けて」


雪がドアを開けると、そこには冬休みに入ったばかりのクラスメイトたちが立っていた。


「メリークリスマース! 持子様、お疲れーっす!」


「……お邪魔します」


「わぁ~♡ ここが持子さんのおオフィスですかぁ?」


獅子戸レオ、如月沙夜、花園美羽。

私立聖ミカエル学園・芸能科の2年生であり、持子と毎日顔を合わせている同級生トリオが、それぞれの「勝負服サンタコス」で登場した。

* レオ: ギャルサンタ。お腹出し&超ミニスカ。「寒くないっす! 気合っす! 持子様とお揃いの赤っす!」

* 沙夜: エレガントサンタ。レース素材で清楚な色気が漂う。「……これ、持子のために選んだの。似合う?」

* 美羽: ブラックサンタ。小悪魔風のドレス。「闇に紛れるのに便利そうですぅ(手癖)。あと、これ安く買いました♡」


「おお! よく来たな、我が共犯者たちよ! 学校ぶりだな(数時間ぶりだが)」


持子が両手を広げて歓迎する。

だが、その瞬間、室内の空気がピリッと張り詰めた。

レオ、沙夜、美羽の三人が、足元で四つん這いになって復活しかけていたトナカイをロックオンしたのだ。


「……出たわね、変態トナカイ」


沙夜が呆れたように呟く。


「うわ、鮎先輩、今日も仕上がってるー。学校の廊下ですれ違う時とオーラ違いすぎでしょ」


レオが若干引きながらスマホのカメラを向ける。


「……あの首輪、本革ですねぇ。中古市場で3万はいきそうですぅ」


美羽が瞬時に値を踏む。

対する鮎も、むくりと起き上がり、先輩風(という名の狂犬オーラ)を吹かせた。

彼女は持子の足元という「特等席」から、余裕の笑みで後輩たちを見上げた。


「あらぁ~? いらっしゃい、2年生の子猫ちゃんたち」


鮎の目が怪しく光る。


それは、ただの変態ではない。学校のヒエラルキー上位に君臨する3年生としての絶対的な圧力プレッシャーだった。


「学校でご主人様と同じクラスだからって、少し調子に乗ってないかしら? ここでは私が『正妻(第一下僕)』であり、貴女たちの絶対的な『先輩ボス』なのよ? ……挨拶の声が小さいわね?」


「「「ッ……!」」」


レオ、沙夜、美羽の三人は、思わず直立不動になった。

学校では持子と対等なクラスメイトだが、本多鮎は芸能科の頂点に立つ直属の先輩だ。三人の序列は横並びだが、鮎だけは頭一つ抜けている。


「は、はい……鮎先輩、ちーっす……」


「……お邪魔します、本多先輩」


「……(チッ、この駄犬先輩、隙がないですぅ)」


火花散る女たちの戦い――というよりは、圧倒的な先輩によるマウント。

持子を頂点としたヒエラルキーが再確認されようとしたその時。

パン、パン!


「はい、ストップ! 今日はクリスマスパーティよ! 鮎、学校の上下関係を持ち込まない。あとアンタたちも固まらない!」


雪が手を叩き、笑顔で場を制した。



✴︎貢ぎ物と、魔王の一日券


気を取り直して、パーティが始まった。

テーブルには、雪が手配したローストチキン、オードブル、そして持子の大好物であるホールケーキ(3台)が並んでいる。


「いただきまーす!」


宴が始まると、そこは戦場だった。持子が掃除機のような吸引力で料理を吸い込み、鮎が「あーん♡」をしようとして沙夜に肘で阻止され、レオがクラッカーを乱射して美羽がその隙に銀食器をポケットに入れようとする(持子に止められる)。

そして、メインイベントの**「プレゼント交換」**。


「まずは私から! 持子様へ!」


レオが渡したのは、派手な**「ペアのイヤーカフ」**。


「これ、私とお揃いっす! 魔王っぽくてカッコいいっしょ! 鎖のデザインが『束縛』って感じでエモくない?」


「うむ、悪くない。……貴様にしてはセンスが良いな。魔王の耳に相応しい」


「次は私ですぅ」


美羽が渡したのは、重厚な**「アンティーク調の鍵」**。

「これ……どこかの倉庫の鍵に見えるが?」


「ふふふ、秘密ですぅ♡ いつか『大きな宝物』を手に入れる時に使ってください。ちなみに、合い鍵は私が持ってます(不法侵入用)」


「……(貴様、警察沙汰だけは勘弁しろよ?)」


「……持子、私からはこれ」


沙夜が恥ずかしそうに渡したのは、手編みの**「黒いマフラー」**。


「……寒そうだったから。……重いとか、言わないでね。編み目に私の『念』……じゃなくて、感謝を込めたから」


「沙夜……」


持子はマフラーを手に取り、首に巻いた。


「温かいぞ。……貴様のねつを感じる。まるで貴様に抱きしめられているようだ」


「っ……! バカ……///」


沙夜の顔がボンッと赤くなる。

それを冷ややかな目で見つめる3年生がいた。


「ふん、まだまだね、2年の小娘たち。……ご主人様への愛が物質に頼っている時点で二流よ。私なんて、私の『全て』を捧げているのだから!」


「はいはい、鮎ちゃんは静かにしててねー」


雪が鮎の口にチキンを突っ込んだ。


「さて……。皆、わしに貢物をよくぞ捧げた」


持子は満足げに頷くと、懐から一枚の紙を取り出した。


「わしからも、褒美をとらそう」


ビシッ!


『魔王・恋問持子 一日自由に使っていい券』


「なっ……!?」


全員が息を呑んだ。

それは、魔王を一日独占できるという、核兵器級のチケット。


「ほしいいいいいい!!」


「いくらですか!? 言い値で買いますぅ!!」


「私が一番乗りよ! 一日デート権を行使するわ!」


「甘いわね後輩たち! 先輩特権で私が貰うわ! 一日中お風呂で背中を流させていただく権利として……!」


血みどろの争奪戦が始まろうとした、その時。


「――はい、じゃあ私からもプレゼントね」


立花雪が、ニッコリと微笑んで、一枚の分厚い封筒を持子の前に置いた。



✴︎思考停止


「ん? 雪からか? ……なんだ、ボーナスか? それとも次期社長への任命書か?」


持子はワクワクしながら、脂でギトギトの手で封筒を開ける。

中に入っていたのは、一枚の**「請求書」**だった。


【件名:北海道修学旅行 特別経費(立替分)】

* 北一硝子 お土産代(切子グラス他):150,000円

* 小樽 高級ランチコース代(4名分):66,000円

* 小樽オルゴール堂 破損弁償代(美羽の分):3,300,000円

* その他 暴食費(市場での買い食い等):184,000円

【合計:3,700,000円】


「…………」


持子の視線が、末尾の数字に釘付けになった。


いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……。


370万。

(さんびゃく……ななじゅう……まん……?)


カラン……。

持子の手からフォークが滑り落ち、床に乾いた音を立てた。

脳内の回路が、プツン、と音を立てて焼き切れた。


「…………」


持子は石像のように固まったまま、微動だにしなくなった。



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