『群れを知った王』
北の獣たちと、魔王の雪中行軍
ニンニクと背脂のエネルギーを充填したバスは、一路、道北の中心都市・旭川へ。
札幌から高速道路で約2時間。
窓の外の景色は、都市のビル群から、見渡す限りの真っ白な雪原へと変わっていた。
「着いたぞ、者ども! ここが北の果て、獣たちの楽園・旭山動物園だ!」
バスを降りた瞬間、空気が変わった。
痛い。
札幌や小樽の寒さとは次元が違う。内陸特有の、突き刺さるような冷気。
だが、恋問持子のテンションは最高潮だった。
「聞くところによると、ここの獣たちはただ檻に入っているのではない。**『行動展示』**といって、野生の本能を剥き出しにして動くらしい。……ふふ、わしの覇気が通じるか、見ものだな」
「いや、動物と戦おうとしないでよ……」
獅子戸レオが苦笑しつつ、GoProをセットする。
如月沙夜と花園美羽も、防寒着のフードを被り、「寒いけど楽しみ!」と目を輝かせている。
【Scene 1:空飛ぶペンギンと、雪上の大行進】
まずは**「ぺんぎん館」**。
360度見渡せる水中トンネルに入ると、頭上を高速で泳ぎ回るペンギンたちの姿があった。
「うわっ、速っ!」
「まるで……空を飛んでいるみたいね」
青い水中を、矢のように突き進むペンギンたち。陸上でのヨチヨチ歩きとは別人のような(別鳥のような)機動力だ。
「ほう……。水中ではこれほどの速度が出るのか。……これは侮れん戦力だ」
持子が感心していると、館内放送が響いた。
『これより、ペンギンの散歩を行います』
冬の旭山動物園の名物、**「ペンギンの散歩」**だ。
運動不足解消のために、雪の上をペンギンたちが大行進する。
「行くぞ! 最前列を確保せよ!」
雪道の沿道には、すでに多くの観光客が並んでいた。
その中には、吉田をはじめとするクラスメイトたちの姿もあった。
「あ、恋問! お前らも来たのか」
「おう、吉田。貴様も獣の見学か?」
「言い方! ……でも、すげぇ人だな」
ザッ、ザッ、ザッ……。
雪を踏みしめる音と共に、キングペンギンの集団が現れた。
首を伸ばし、堂々と、しかし可愛らしく行進してくる。
「か、可愛いぃぃ~!!」
美羽が黄色い声を上げる。
「あ、転んだ! 見て、あの子転んだ!」
レオがシャッターチャンスを逃さず連写する。
持子は、その行進を腕組みして見つめていた。
「うむ。……見事な統率だ。誰に命令されるわけでもなく、自らの意志で歩を進める。……あれこそが、誇り高き雪中行軍よ」
「いや、ただの散歩だってば」
吉田がツッコミを入れるが、その顔は笑っていた。
以前のようなトゲトゲしい空気はない。同じ景色を見て、同じように笑う。
修学旅行という魔法が、クラスの空気を柔らかく変えていた。
【Scene 2:円柱の海豹と、白き魔獣】
続いて**「あざらし館」**。
ここでの目玉は、巨大な円柱水槽「マリンウェイ」だ。
「来るか……? 来るか……?」
みんなが固唾を飲んで見守る中、円柱の中をゴマフアザラシが垂直に通り抜けた。
「来たーっ!!」
「目が合った! 今、絶対目が合った!」
好奇心旺盛なアザラシは、時折立ち止まっては人間の方を観察してくる。
持子とアザラシの視線が交錯した。
(……ほう。良い目をしている。わしを恐れぬか)
アザラシはクルリと回転し、優雅に泳ぎ去っていった。
「ふっ。……また会おう、友よ」
そして、北極の王者**「ほっきょくぐま館」**。
ガラス一枚隔てた向こう側で、巨大なホッキョクグマが水に飛び込み、豪快に泳いでいる。
「デカッ!! 迫力ヤバすぎ!」
「あの爪……一撃でやられるわね」
沙夜が女優としての想像力を働かせ、身震いする。
持子は、ガラス越しに巨獣と対峙した。
(白い魔獣よ。貴様もまた、孤独な王者か)
かつて「魔王」と呼ばれ、恐れられた自分と、ガラスの向こうの最強の捕食者。
どこか通じ合うものを感じ、持子は静かに拳をガラスに当てた。
ホッキョクグマもまた、持子の方をじっと見つめ、そしてゆっくりと鼻を近づけてきた。
ガラス越しの、無言の対話。
「……すげぇ。恋問、クマと会話してんのか?」
吉田たち男子グループが、遠巻きに見て驚愕している。
「さすが魔王……。レベルが違うわ」
【Scene 3:アートホテル旭川 ~夜景とビュッフェの晩餐会~】
閉園時間までたっぷりと遊び尽くし、身体は冷え切っていたが、心はホットだった。
バスで市内へ移動し、今夜の宿**「アートホテル旭川」**に到着。
旭川市内でも屈指の規模を誇るこのホテル。
チェックインを済ませ、部屋で少し休憩した後、お待ちかねの夕食タイムとなった。
会場は、最上階にあるレストラン**「MINORE(ミノ―レ)」**。
大きな窓からは、雪に覆われた旭川の夜景が一望できる。
そして何より――。
「ビュッフェだ!! 戦の始まりだ!!」
持子の目が、本日一番の輝きを見せた。
和洋中、北海道の食材をふんだんに使った豪華な料理が、所狭しと並んでいる。
ジンギスカン、旭川ラーメン、新鮮な海鮮、色とりどりのスイーツ。
「ちょ、持子! お皿の盛り方! タワーになってるって!」
レオが呆れるが、持子は止まらない。
「昼のラーメンはすでに消化された! 夜は夜で、別腹なのだ!」
「いただきまーす!」
4人はもちろん、クラスメイト全員が入り混じっての賑やかな晩餐会。
窓の外の夜景をバックに、あちこちで笑い声が上がる。
「おい恋問、そっちのローストビーフ美味いか?」
吉田が皿を持って近づいてきた。
「うむ、絶品だぞ。……ほら、貴様も食え」
持子は自分の皿から、一切れ吉田の皿に乗せてやった。
「お、おう……サンキュ」
吉田は少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに肉を頬張った。
「ふふ、持子さん。すっかりクラスの中心ですね」
美羽がデザートのケーキを食べながら微笑む。
「中心などではない。……ただ、同じ飯を食う仲間が増えただけだ」
持子は窓の外を見た。
眼下に広がる旭川の街の灯り。
遠くには、大雪山の山並みが夜の闇に白く浮かんでいる。
(……悪くない)
かつては孤独だった。
だが今は、隣に沙夜がいて、美羽がいて、レオがいる。
そして、吉田たちクラスメイトとも、こうして笑い合えている。
師匠が残した「種」は、武術だけでなく、こうした「人の輪」としても芽吹き始めているのかもしれない。
「さあ、ラストスパートだ! デザート全種類制覇するぞ!」
「えぇ~!? 持子、まだ食べるの!?」
「当たり前だ! 魔王の胃袋は宇宙なのだ!」
旭川の夜。
美味しい料理と、温かい仲間たちに囲まれて、修学旅行最後の夜は更けていった。
持子の青春でもあります。
クラスメイト達と仲良くなる!




