『クラス全員に揉まれる魔王ですが何か?』
✴︎魔王の裸身と、湯けむりの美少女博覧会
登別温泉の夜は更け、夕食の「カニ合戦」を終えた第8班の4人は、一日の疲れと汗を流すべく大浴場へと足を運んでいた。
そこは、日本でも有数の湯量を誇る登別の名湯。
脱衣所に一歩足を踏み入れると、硫黄独特の香りが鼻腔をくすぐる。
「う~ん、この匂い! 卵が腐ったような……いや、大地の香り! 効きそう~!」
獅子戸レオがジャージを豪快に脱ぎ捨て、健康的な小麦色の肢体を晒す。
陸上で鍛え上げられたしなやかな筋肉は、無駄な脂肪がなく、まるで野生動物のような機能美を誇っている。
「ちょっとレオ、服はカゴに入れなさいよ。……品がないわね」
如月沙夜が丁寧に浴衣を畳みながら、冷ややかな視線を送る。
その肌は、透き通るような白磁色。細身ながらも、女優として磨き上げられた曲線美は、硝子細工のような繊細な美しさを放っていた。
「わぁ~、広いですねぇ~♡ 泳いじゃダメかなぁ?」
花園美羽は、小柄ながらも守ってあげたくなるような華奢な肩と、意外とふっくらとした柔らかそうなラインを持つ「妹系」ボディ。あざとくタオルで前を隠しているが、その隙間からは豊満なマシュマロ肌が覗いている。
芸能科に所属する彼女たちは、普段から己の肉体磨きに余念がない。
その輝きは、一般の女子高生とは一線を画すオーラを放っていた。
だが。
それら美少女たちの輝きさえも霞ませる、**圧倒的な「暴力」**がそこにはあった。
「ふぅ……。やはり日本人は湯に浸かってこそだな」
魔王・恋問持子が、悠然と衣を脱ぎ捨てた瞬間だった。
ザワッ……。
脱衣所の空気が止まった。
ドライヤーを使っていた生徒の手が止まり、体重計に乗っていた生徒が息を呑む。
身長175センチ。
神が設計図を引いたとしか思えない、黄金比のプロポーション。
豊かな胸元は重力に逆らうように上向き、極限までくびれたウエストから、弾力のあるヒップラインへと続く曲線は、まさに「動く芸術品」。
雪のように白い肌は、湯気の中で内側から発光しているかのように艶めいている。
「……な、なによアレ……」
「同じ人間……?」
周囲の囁きなど意に介さず、持子はタオル一枚を持って堂々と浴室へ入っていく。
その歩き方一つとっても、ランウェイを歩くトップモデルの風格。
隠そうともしないその堂々たる裸身は、もはや卑猥さを通り越して神々しさすら感じさせた。
「……行くぞ。背中くらいは流してやろう」
「う、ういーっす……(マジかよ、オーナー……裸もバケモノかよ)」
レオはゴクリと唾を飲み込み、その背中を追った。
***
広大な大浴場には、白濁した硫黄泉がなみなみと湛えられている。
持子は、その豊満な肢体を惜しげもなく湯船に沈めた。
「はぁ……。極楽、極楽。この硫黄の香りが、わしの暴虐な魂を鎮めるわ……」
持子が湯船の縁に腕を預け、長い髪をかき上げる。
その仕草だけで、映画のワンシーンのようだ。
クラスメイトたちは、遠巻きにその姿を眺めていた。
憧れと、嫉妬と、畏怖。
高嶺の花すぎて、誰も近づけない。
その沈黙を破ったのは、やはりこの「狂犬」だった。
「うっひょー! 持子パイセン! お邪魔しまーす!」
バシャーン!
レオが助走をつけて湯船に飛び込み、ザブザブと波を立てて持子に接近した。
「おい獅子戸! 湯船で泳ぐな! 波が立つだろうが!」
「だってさー! 我慢できないっしょ、これ!」
レオは持子の隣に陣取ると、いきなりその二の腕にギュッと抱きついた。
「なっ!? き、貴様……!」
「すっげ! 何これ!? 肌スッベスベ! マシュマロ!? いや、高級羽毛布団!?」
レオは興奮気味に、持子の濡れた肌に頬ずりをする。
(……ヤバい。オーナーの肌、マジで気持ちいい……)
(これ、私だけの特権だよね? 契約したもんね?)
レオの瞳が、恍惚と優越感で怪しく光る。
しかし、口調はあくまで「仲の良いクラスメイト」を演じていた。
「ねえねえ、持子! 何食ったらこんな肌になんの!? カニ!? やっぱカニ!?」
「ええい、離れろ! 鬱陶しい! ただの肉だ、肉!」
持子が顔を赤らめてレオを引き剥がそうとするが、レオは「えー、減るもんじゃないじゃん!」とさらに密着する。
その様子を見ていた周囲のクラスメイトたちが、顔を見合わせた。
「……あれ? 獅子戸さん、普通に触ってる?」
「怒られてない……?」
「もしかして、恋問さんって……怖くない?」
「ねえねえ! 私も触りたい!」
「私も! 恋問さん、どこのボディクリーム使ってるんですか?」
「そのくびれ、どうやったらできるの!?」
レオが突破口を開いたことで、堰を切ったようにクラスメイトたちが殺到した。
「ちょ、待て! 貴様ら、寄るな! 狭い! 暑い!」
「キャハハ! 逃がさないよー!」
「うわっ、ほんとだ! 雪見だいふくみたい!」
四方八方から伸びる手、手、手。
ある者は背中をさすり、ある者は二の腕をプニプニと押し、ある者は大胆にも太ももの弾力を確かめる。
湯船の中は、さながら美少女たちの芋洗い状態となった。
「あ、あぅ……っ! そこは、くすぐったい……っ!」
「恋問さん、意外と声かわいい!」
「ここ気持ちいい? ここ?」
(ぬうう……! 近い! 柔らかい! いい匂いがする!)
(だが落ち着け、わしは今、女子高生なのだ! ここで鼻血など出せば社会的死だぞ! ……し、しかし……悪くない!)
持子は満更でもない表情で、されるがままになっている。
孤独な暴君だった前世では考えられない、肌と肌のぶつかり合い。
それは、彼女が求めていた「普通の青春」の形でもあった。
***
そんな喧騒から離れた湯船の端で。
二人の少女だけが、冷めた目でその光景を見ていた。
「……猿山ね。キャンキャンうるさい」
如月沙夜は、お湯につけた手ぬぐいを肩に乗せ、不機嫌そうに呟いた。
「あんな脂肪の塊に群がって、何が楽しいんだか。……品がないわ」
彼女は持子の方を見ようともせず、自分の世界に閉じこもっている。
だが、その視線が時折、持子たちの輪を寂しげに掠めていることに、本人は気づいていない。
その隣では、花園美羽が頭にタオルを乗せ、計算高い目で持子を見ていた。
(へぇ……。あのガードの堅い持子さんが、あんなに揉まれてる……)
(……有料ハグ会とか開いたら、一回5000円はいけるな。いや、あの肌なら1万か? チェキ付きなら……)
美羽は指先でお湯に文字を書きながら、持子の「商品価値」を再計算していた。
(ま、私はタダでも触りたくないけどね。……あんなに持ってたら、盗む気も失せるわ)
湯けむりの向こうで、持子の悲鳴とも歓声ともつかない声が響く。
「だーかーら! 胸を揉むなと言うておろうが!!」
「えー! 減るもんじゃないしー!」
「レオ、貴様……後で覚えておれよ……!」
「ういーっす! (ゾクッ♡)」
地獄谷の夜は、騒がしく更けていく。
魔王と狂犬、そしてまだ心を閉ざした二人の少女。
奇妙な修学旅行の一日目が、こうして幕を閉じた。




