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汚辱より生まれし王

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✴︎闇が、ある。


代官山。外界の洗練された空気から完全に隔絶された、高級マンションの玄関。

そこは、むせ返るような獣の臭気と、重く湿った闇に満ちていた。

血。汗。そして、排泄物の臭い。

冷たいタイルの上に、絶世の美少女であったはずの恋問持子こいとい もちこが、ただの無力な肉塊となって転がっている。

骨は軋み、筋肉は断裂し、命の炎が風前の灯火のごとく揺らいでいた。


(……三つの岩)


意識が混濁する中、持子の脳裏に焼き付いているのは、あの格技場にそびえ立っていた三人の猛者たちの姿だった。

巨漢。細身の男。小柄な女。

あの『三つの岩』が、魔王たる己の肉体を徹底的に破壊し、限界の底の底まで叩き落としたのだ。

指一本、動かない。

枯渇した丹田。魔力はおろか、生命力すら尽きかけている。


「……持子様ッ!」


静寂を破り、転がり込むようにマンションへ駆けつけてきた影があった。

本多鮎ほんだ あゆである。

持子が格技場で無惨に敗北し、ボロ布のように崩れ落ちたという噂を聞きつけ、血相を変えて飛んできたのだ。

だが。

鮎は、玄関に倒れ伏す持子の惨状――その泥と血と排泄物にまみれ、異臭を放つ姿を見ても、一切の動揺を見せなかった。

悪臭ではない。鮎にとってそれは、持子が死地で抗い、己の限界を叩き壊した「崇高なる生命の証」であった。


「持子様……ああ、なんて酷いお怪我……」


鮎は持子の傍らにドンッと膝をつき、その酷く汚れた身体を、己の胸へと力強く抱き寄せた。


「……あ、ゆ……?」


持子の虚ろな黄金の瞳が、わずかに焦点を結ぶ。

極限の消耗。

魔王の器が、強烈な「飢え」を訴えていた。


「私の命を、使ってください」


鮎は、自らの顔を持子の血まみれの顔へと近づけた。

躊躇いなど、ない。

持子の荒い吐息が、鮎の唇を撫でる。

次の瞬間。


――チュッ。


持子の血と泥に汚れた唇が、鮎の柔らかい唇を、貪るように塞いだ。


口づけである。


それは愛の行為ではない。魔王が供物を喰らう、絶対的な捕食の儀式であった。


ズズズズズッ……!!


持子の唇から、鮎の口内へと、目に見えない強烈な「吸引」の力が働く。

それと同時に、持子の身体からドス黒い、禍々しい『黒い霧』が間欠泉のように噴き出した。

霧は瞬く間に玄関の空間を埋め尽くし、部屋全体を濃密な魔力の闇で充満させていく。


「……んっ、んんぅっ……!!」


鮎の背筋を、致死量に等しい快楽の電流が駆け抜けた。

吸い上げられている。

己の生命力が、魂の髄が、持子の舌を這い、丹田へと怒涛のごとく流れ込んでいくのが分かる。


(ああ……ああっ……吸われている……私の命が、持子様に、食べられている……ッ!)


恐怖はない。

あるのは、絶対的な存在に己のすべてを捧げ尽くすという、背筋が凍るほどの悦びであった。

命を削り取られる絶望的な喪失感が、鮎の脳髄を溶かし、強烈な性的な興奮へと変換されていく。


「はぁっ……あ、あっ……ご主人、様……ッ」


密着した唇の隙間から、鮎の甘く熱い喘ぎ声が漏れる。

下腹部が、熱い。

子宮の奥底から込み上げる甘美な疼きが、鮎の全身を震わせた。

もっと。もっと吸って。私を空っぽにして。

鮎の狂気的な献身と、持子の底なしの飢えが、黒い霧の中で凄まじいエネルギーの渦を巻き起こす。

己の命が魔王の血肉となる。その圧倒的な「充実感」に、鮎は涙を流しながら絶頂を迎えていた。

みるみるうちに、持子の青白かった頬に桜色の血色が戻っていく。

反比例するように、鮎の身体から力が抜け、白磁のように透き通っていく。


ミチリ、ミチリッ!


バキィッ!


持子の体内で、断裂した筋肉が恐るべき速度で修復され、砕けた骨がより太く強靭に繋がり、焼き切れた神経が再構築されていく。


「……ウウウウウウウゥゥゥゥッ!!!」


持子が、鮎の唇を離し、天を仰いで咆哮した。

地獄の底から這い上がってきた魔王・董卓の、完全なる復活を告げる獣の雄叫び。

充満していた黒い霧が、一気に持子の体内へと吸い込まれ、収束していく。

咆哮が止み、再び静寂が戻る。

持子の腕の中で、鮎は完全に消耗しきって気を失っていた。

だが、その濡れた顔には、至上の悦びに満たされたような、だらしなくも美しい笑みが浮かんでいる。

持子が、立ち上がる。


ズカッ。


踏みしめた足の裏から伝わる、タイルの感触。

以前の彼女ではない。

極限の破壊と、鮎の命という極上の贄を経て、魔王の器はさらに凶悪で強靭なものへと進化を遂げていた。

持子は浴室へ向かい、こびりついた血と泥を洗い流すと、玄関へ戻って鮎を軽々と抱き上げた。


「……大儀であった。貴様の忠義、そして極上の魔力……しかと味わったぞ」


丁寧にベッドへ寝かせ、そっと布団をかける。

全身の細胞が、爆発しそうなほどの力を湛え、うねっているのが分かる。


(待っておれ、『三つの岩』よ)


黄金の瞳を爛々と輝かせ、持子は玄関のドアを開け放った。


「……この魔王・董卓の、いや、恋問持子の真の力……たっぷりと味わわせてやるわ!」


夜の代官山へ、魔王が再び解き放たれる。

血塗られた儀式を経て、すべてを喰らい尽くした美少女の、修羅への再挑戦が今ここから始まるのであった。

合気武道編は、ほぼ書き直し無し改行が楽!!

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