『魔王と地中海の黒い聖油(オイル) ~「爽やか」が無理なら「支配」すればいいじゃない~』
『魔王と地中海の聖油』
~「爽やか」が無理なら「支配」すればいいじゃない~
✴︎アマルフィの太陽、魔王の不機嫌
イタリア、アマルフィ海岸。
断崖絶壁にへばりつくように建つ白亜の街並みと、眼下に広がるティレニア海の紺碧。世界中のセレブが愛するこの地中海のリゾート地は今、眩いばかりの陽光に包まれていた。
「……眩しい。不愉快だ」
特設されたオープンセットのパラソルの下、**恋問持子**はサングラス越しに太陽を睨みつけた。
その隣では、**本多鮎**がぐったりと項垂れている。
「カ、カットォォォッ!!」
イタリア人の監督が、メガホンを地面に叩きつけた。
「違う! 全然違う! 君たち、コンセプトを理解しているのか!? 『ルミナス・ドロップ』が求めているのは、『太陽に愛された純真無垢な天使』だ! なぜ君たちの目はそんなに……『世界を征服しそう』なんだ!?」
現場の空気が凍りつく。
そう、これが今の『スノー』が直面している最大の危機だった。
「も、申し訳ありません! すぐに修正させますから!」
社長の**立花雪**が、監督とクライアントの宣伝部長に何度も頭を下げる。胃がキリキリと痛む。借金二億円の返済がかかったこの大型案件、失敗すれば事務所は終わる。
雪は二人の元へ駆け寄った。
「ちょっと持子! お願いだから『へらっ』と笑って! 威圧感を消して! 鮎も、そんな『ご主人様を守る番犬』みたいな目つきをしない!」
「むぅ……。雪よ、無理を言うな。わしは魔王ぞ? なぜ、たかが化粧水ごときに媚びて、下賤な愛想笑いを浮かべねばならんのだ」
「それが仕事なの! 二億円のためなの!」
持子は不満げに鼻を鳴らす。
そして鮎はといえば――。
「はぁ、はぁ……。すみません、雪さん……。笑おうとすると、頬が引きつって……」
鮎の顔色は悪い。
日本での「魔力充填」から数日が経過し、さらに地中海の強烈な「陽の気(太陽)」に当てられたことで、彼女の体内の「陰の気(持子の魔力)」が急速に蒸発しつつあるのだ。魔力切れの禁断症状だ。
「今日はもう無理だ! 明日の朝、一番良い光で撮り直す! それまでに『天使』になっておけ!」
監督の怒号で、初日の撮影は最悪の雰囲気のまま終了した。
✴︎夜のヴィラ、震える忠犬
その夜。
撮影隊が宿泊する崖の上の豪華ヴィラは、波音と月明かりに包まれていた。
雪は監督への接待と謝罪で外出しており、広いスイートルームには持子と鮎の二人だけが残されていた。
「……ぅ、……ぅぅ……」
キングサイズのベッドの上で、鮎が小さく震えている。
シーツを握りしめる指先は白く、脂汗が頬を伝う。
「持子さま……。手が、震えて……。身体の中が、空っぽで……寒いです……」
太陽に焼かれ、魔力が枯渇した鮎は、まるで水から上げられた魚のようだった。
このままでは、明日の撮影どころか、立っていることすらままならない。
「ええい、手のかかる犬め」
持子はワイングラスを置くと、ベッドサイドにあった小瓶を手に取った。
明日の撮影で使うはずの最高級美容オイル『ルミナス・ドロップ』の商品サンプルだ。
「……鮎。治療だ。服を脱げ」
「は、はい……っ」
鮎は震える手でネグリジェを脱ぎ捨て、月明かりの下にその肢体を晒した。美しいが、生気がない。
持子は小瓶の蓋を開けると、自身の下腹部――**丹田**に意識を集中させた。
「よいか。今からこの聖油に、わしの『源』を限界まで混ぜ合わせる。……貴様の細胞を、強制的にわし色に染め直すぞ」
ドクンッ。
持子の指先から、粘り気のある**『漆黒の魔力』**が溢れ出し、透明な黄金色のオイルと混ざり合う。
とろり、と。
オイルは、闇夜よりも深い、艶めかしい黒色へと変質した。
✴︎浴室の儀式
「うつ伏せになれ」
持子の命令に、鮎は従順にベッドに身を伏せる。
持子は、その黒く染まったオイルをたっぷりと自身の手に馴染ませると、鮎の背中に押し当てた。
「ひ、ぎぃッ……♡!?」
鮎の喉から、悲鳴とも喘ぎともつかぬ声が漏れる。
冷たいはずのオイルが、肌に触れた瞬間、焼け付くような熱を持って侵入してきたからだ。
「暴れるな。……これはマッサージではない。魂の『矯正』だ」
持子の指が、鮎の背筋を這う。
リンパを流すなどという生易しいものではない。骨の隙間、筋肉の繊維、その奥にある魔力の回路に、強引に漆黒の泥をねじ込んでいくような、重く、支配的な圧。
「あぁ……っ! 熱い、熱いですぅ……! 黒いのが、入ってくる……っ! 私の中が、持子さまでいっぱいに……ッ!」
鮎はシーツを掻きむしり、快楽と苦痛の狭間で身をよじる。
枯渇していた器に、主の強大な力が注ぎ込まれる。それは「天使」のような爽やかさなど微塵もない、濃厚で背徳的なエネルギーだ。
「そうだ、その声を上げろ。太陽になど媚びるな。貴様は夜に咲く花、わしの影であればよい」
持子はさらにオイルを追加し、鮎の腰、太腿、そしてもっと際どいラインへと指を滑らせる。
ヌチュ、と卑猥な水音が響く。
黒いオイルは肌に吸収され、鮎の白い肌を内側から発光させるような、妖しい艶を与えていく。
「も、もう無理ですぅ……! 許容、量を超えちゃいます……ッ!」
「黙れ。溢れるなら溢れさせろ。貴様の全てを、この黒で塗り潰すまで終わらせん」
持子は容赦しない。
鮎は涙を流しながら、それでも恍惚とした表情で、主の足に頬を擦り寄せた。
「はい……っ! 塗り潰してください……っ! 私を、持子さまだけのモノに作り変えてぇ……ッ!!」
月が雲に隠れるまで、その背徳の儀式は続いた。
部屋には、甘いオイルの香りと、雌犬の甘い鳴き声だけが充満していた。
✴︎「爽やか」の終焉、「支配」の始まり
翌朝。
撮影現場には、重苦しい空気が漂っていた。
監督は不機嫌に腕を組み、雪は胃薬を飲みながら祈っている。
「……来ました」
スタッフのざわめきと共に、ヴィラの方角から二人が現れた。
「おはようございます、皆様」
その瞬間、アマルフィの風が止まった。
そこにいたのは「天使」ではなかった。
圧倒的な、美の暴力。
持子は、黒いドレスを纏い、太陽すら見下すような傲岸不遜な笑みを浮かべている。
そして、その傍らに控える鮎。昨日の憔悴はどこへやら、その肌は濡れたような光沢を放ち、瞳には狂気的なまでの潤みと忠誠が宿っている。
爽やかさなど、欠片もない。
あるのは、見る者すべてを跪かせるような**「支配的な色気」**だけだ。
「な、なんだこれは……」
監督が呆気にとられる中、持子はカメラの前まで歩み出ると、小道具の『ルミナス・ドロップ』の瓶を手に取った。
本来なら、頬に当ててニッコリ笑うシーンだ。
だが、持子は違った。
彼女は瓶を、まるで下僕に与える「聖杯」のように掲げ、カメラ(視聴者)を冷徹に見下ろしたのだ。
「――美しくなりたいか?」
台本にはないセリフ。しかし、その声には抗えない魔力が宿っていた。
そして鮎が、持子の足元に跪き、恍惚とした表情でその瓶を受け取る。
「はい……。貴女様の輝きを、私に……」
それは、化粧品のCMというよりは、**「女王とその愛人による、美の契約」**の儀式だった。
背徳的で、危険で、どうしようもなく美しい。
「カ、カァットォォォッ!!」
監督が叫んだ。雪が「終わった……」と頭を抱えた、その時だった。
「ブラビッシモォォォォッ!!」
監督が、震える手で親指を立てていた。目には涙が浮かんでいる。
「これだ……! 私が撮りたかったのは、嘘くさい天使じゃない! この『魂を震わせる美』だ! 素晴らしい! これぞ女神だ!」
さらに、視察に来ていた『ルミナス・ドロップ』の女性社長も、興奮のあまり立ち上がっていた。
「すごいわ……! 今の時代、媚びるだけの可愛さなんて古い! 欲しかったのは、この『世界をひれ伏させる力強い美』よ!!」
現場は一転して大喝采に包まれた。
雪だけが、ポカーンと口を開けて取り残されている。
✴︎黒いオーラと借金返済
――数ヶ月後。
完成したCMは、世界中で爆発的なヒットを記録した。
キャッチコピーは**『Beauty is Dominance(美は支配)』**。
商品は「魔性のオイル」としてバカ売れし、事務所に入った莫大なロイヤリティによって、二億円の借金は完済の目処が立った。
東京の事務所で、雪は完成映像を見ながら首を傾げていた。
「ねえ……。この映像の鮎の肌、なんか黒いオーラみたいなのが滲み出てない? CG処理なんて発注してないわよね?」
モニターの中の鮎は、人間離れした艶めかしさで輝いている。
その問いに、ソファでくつろぐ持子と、その足元でマッサージをする鮎は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「さあな。地中海の月夜の魔法……とでも言っておこうか」
「はい。とっても……『濃密な』魔法でしたから♡」
二人の秘密の共犯関係は、今日も桃色の湯気(あるいは黒いオイル)の中で続いていく。
借金は消えたが、二人の主従契約は、永遠に解けることはないのだ。
やっとここまで来た。
まだ主要キャラがまだ3人しか出てないよ。
先が長すぎる〜
改行改行改行




