『極黒の魔王JKに接待したら、エリート工作員たちの人生が狂い始めた件』
✴︎『極黒の魔王のせいでエリート工作員たちが恋したりギャル服に目覚めたり友情を結んだりした件』
極黒の魔王・恋問持子を巡る、各陣営のエリート工作員たちによる血で血を洗う接待リレー。
嵐のような土日が終わり、日曜日の深夜。
それぞれの拠点へ帰還した三人は、ベッドや布団の中で、全く異なる感情を抱きながら今日という一日を振り返っていた。
***
【土御門 朔夜の独白:初恋(?)と架空のメスゴリラ】
バフッ……。
「……はぁ。もう、何もかも面倒くさい……」
薄暗い自室。陰陽庁執行部「六壬」のエリート工作員である土御門朔夜は、ベッドにうつ伏せにダイブしたまま、枕に顔を押し付けて深く重いため息をついていた。
ダボダボのカーディガンは床に脱ぎ捨てられ、銀髪のショートボブはぐしゃぐしゃだ。
脳裏にフラッシュバックするのは、すき焼き店での致命的なすれ違い。
『僕さ。こういう、ガサツで、頭悪くて、胃袋が底なしのメスゴリラみたいな女……嫌いじゃないかも』
『なるほどな、朔夜! 貴様、そんなワイルドな女に惚れておったのか! わしが恋のキューピッドになってやろう!』
「……バカ。君のことだよ、この鈍感魔王……」
朔夜はクッションを抱きしめ、ゴロゴロとベッドの上を転がり回った。
「なんで僕、架空のワイルド女子に恋してることになってるの? しかも、その架空の女を『ラーメン二郎』に連れて行く作戦を、本命の女の子(魔王)にプロデュースされてるって……どんな罰ゲーム?」
陰陽庁のトップである土御門泰臣に、今日の任務報告をどうすればいいのか。
『ターゲットの懐柔は放棄しました。代わりにインドア同盟を組み、格闘ゲームでボコボコにして、架空のメスゴリラとの恋愛相談に乗ってもらいました』などと報告すれば、間違いなく呪殺されるだろう。
「……でも」
朔夜は転がるのをやめ、天井を見上げた。
思い出すのは、ゲーセンでクレーンゲームの景品を抱えて無邪気に笑う持子の顔や、すき焼きを口いっぱいに頬張る飾らない姿。
陰陽庁のドロドロした裏社会では絶対に出会えない、裏表のない純粋な光(※中身は董卓だが)。
「……任務とか、どうでもいいや。陰陽庁には適当に『継続調査中』って報告しとこ」
朔夜はクスッと笑い、布団を頭まですっぽりと被った。
「とりあえず、明日の学校で『架空の女との二郎デート』の進捗を聞かれたら……面倒くさいけど、適当に話を合わせるしかないか。……あーあ、僕の初恋、前途多難すぎ」
***
【葉室 鶴子の独白:お嬢様の秘密と、初めての『友達』】
「……オーッホッホッホ! 素晴らしい……なんて素晴らしいデザインですの!」
ガサガサッ。
一方その頃。古神道結社・八咫烏の広大な屋敷の一室。
最高級の畳が敷かれた純和風の自室で、葉室鶴子は、紙袋から『ある物』を取り出して頬擦りしていた。
それは、持子によって無理やり買わされた(着せられた)金髪のツインテールウィッグと、オフショルのギャル服一式であった。
「お父様や桐子お姉様が見たら、間違いなく卒倒してわたくしを破門するでしょうね……! ああっ、いけない娘ですわ、わたくしは!」
鶴子は顔を真っ赤にして身悶えしながらも、鏡の前でギャル服を自身の身体に当てて、ウキウキとポーズをとってみた。
「でも……楽しかったですわ! 渋谷の街を歩いて、タピオカを飲んで、クレープを半分こして……!」
工作員としての任務。八咫烏の威信。由緒正しき令嬢としてのプライド。
そんな重苦しい枷を、あの規格外の魔王は「ギャルになれ!」という理不尽なイタズラ心一つで、綺麗さっぱり粉砕してくれたのだ。
『また、一緒に遊ぶか? 鶴子』
『はい! 友達ですわ!』
別れ際の、あのハイタッチ。
鶴子は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じ、ウィッグをそっと宝箱(桐箱)の奥底に隠した。
「ふふっ……恋問様。いいえ、『持子ちゃん』……! 八咫烏への懐柔は失敗してしまいましたが、わたくしは『真の友』を得ましたわ!」
鶴子は扇子をパチンッと開き、誰もいない和室で堂々と宣言した。
「由緒正しき淑女たるもの、時には渋谷のB級グルメも嗜むのが現代の教養というものですわ! 次の休日は、わたくしの方から持子ちゃんを原宿へ誘って差し上げますわよ! オーッホッホッホ!!」
お嬢様の仮面の下に「セクシーギャルの魂」を宿した鶴子は、かつてないほどの充実感とともに、優雅な眠りにつくのであった。
***
【恋問 持子の独白:悪くない週末、そして学園の覇者へ】
パリパリパリ……。ゴキュッ!
「ぷはぁ〜っ! やはり風呂上がりのコーラとポテチは最高だな!」
帝都を見下ろす最高級マンションの最上階。
恋問持子は、ふかふかの特大ベッドの上で胡座をかき、深夜のジャンクフードを満喫していた。
「……ふむ」
持子はポテチを齧りながら、この怒涛の土日を思い返した。
風間楓の「おねだり(物理的脅威を伴う)」から始まった、スパイ四人衆による懐柔デートリレー。最初は面倒で仕方なかったが、終わってみれば存外に悪くない週末だった。
「クソ真面目な堅物メガネの『霞』! あやつのハンバーガーの食い方は何度思い出しても腹がよじれるわ! またズレたプレゼンで笑わせてもらおう!」
持子は指を折りながら、ニヤリと笑う。
「そして、陰陽庁の『朔夜』! 男のくせに可憐な顔をしおってからに、ゲームの腕はピカイチであった! しかも、あんな大食いのメスゴリラ(架空)に惚れるとは、なかなか見どころのあるヤツだ! わしが責任を持って、あやつの恋を成就させてやらねばな! ふはははっ!」
続いて、今日の午後に遊んだ鶴子の顔が浮かぶ。
「八咫烏の『鶴子』! 最初はガチガチのお嬢様でつまらん奴かと思ったが、ギャル服を着せたら一気に化けたな! 飲み込みも早いし、買い食いの楽しさも分かっておった! あれは良い遊び仲間(雑兵)になるぞ!」
持子は満足げに頷き、そして最後に、金髪のハーフ騎士の顔を思い浮かべて……「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「『流星』とかいう狂信者! あやつだけはダメだ、顔が良いだけで中身が面倒くさすぎる! 明日学校で会っても絶対に無視してやるわ!」
(※現在も教会の地下で懺悔し続けている流星に、一筋の慈悲もなかった)
「……総じて」
持子はコーラを一気に飲み干し、ベッドの上に大の字に寝転がった。
「なかなか有意義な週末であったわ! 政府、陰陽庁、八咫烏……どこの組織の傘下にも入るつもりはないが、あやつら『個人』となら、この学園生活もさらに面白くなりそうだぞ!」
前世では天下を恐怖で支配した暴君。
しかし今世では、敵対するはずの各陣営のエリート工作員たちを、その規格外の「人間臭さ」と「胃袋」で、いつの間にかただの『愉快なクラスメイト』へと変えてしまっていた。
「ふはははっ! さて、明日からの学校が楽しみになってきたぞ! 楓や鮎、美羽たちも交えて、大いに騒いでやろうではないか!」
極黒の魔王は、明日から始まる新たなカオスな学園生活に胸を躍らせながら、満足げな寝息を立て始めた。
――こうして、各陣営の威信を懸けた『魔王懐柔作戦』は、見事なまでに全員が本来の目的を見失うという形で終結。




