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『魔王JK接待戦争:エリート工作員たちの敗北レポート』

✴︎『魔王JK接待戦争:エリート工作員たちの敗北レポート』


3人の独白


***


【霞 涼介の独白:戦略的敗北と、奇妙な満足感】


カタカタカタカタッ……ターンッ!

都内の高級マンションの一室。

政府機関・彼岸花のエリート工作員である霞涼介は、ノートパソコンに向かい、今日の『接待』の最終報告書を打ち終えた。


「……ふぅ」


霞は銀縁メガネを外し、目頭を揉みながら深く息を吐き出した。

胃の奥底には、昼食で喰らわされた『トリプル・チーズ・デス・バーガー』の暴力的な背脂がまだ鎮座している。

だが、その表情に疲労感や悲壮感は全くなかった。むしろ、口元には自然と、どこか晴れやかな笑みが浮かんでいたのだ。


「……信じられませんね。完璧なエクセルデータとタイムスケジュールを秒で粉砕され、銀座の路地裏でジャンクフードの洗礼を受け、本来の目的である『引き抜き』には明確にノーを突きつけられたというのに」


霞は、マグカップに注いだブラックコーヒーを一口啜る。


「……これほどまでに、胸のすくような『満足感』を得られるとは」


霞の脳裏に、今日一日の持子の姿が鮮明に蘇る。

時価5万円のメロンパフェを10秒で平らげた豪快さ。

自分がハンバーガーをナイフとフォークで大真面目に解体する姿を見て、腹を抱えて大爆笑していた、あの無邪気で屈託のない笑顔。

霞は超がつくほどの真面目な堅物であり、持子は傲岸不遜で本能のままに生きる魔王だ。

性格も、立場も、価値観も、完全に真逆。水と油。

……だが、だからこそ。

(不思議なものですね。彼女のあの理不尽な振る舞いや、私の真面目さが、どういうわけかパズルのピースのようにピタリと噛み合う……。彼女と一緒にいると、予定調和の退屈な官僚生活では絶対に味わえない、強烈な『面白さ』がある)

プルルルルッ!

デスクのスマートフォンが震え、画面に『赤城室長』の文字が光る。


「はい、霞です。……ええ、報告書の通りです。結果的に彼女を彼岸花へ移籍させることはできませんでしたが……彼女は、私という人間を『合格(面白いヤツ)』だと認めてくれました。このパイプは、今後必ず国家の役に立ちます」

電話越しの赤城も、霞の報告に大いに満足しているようだった。


「……ええ。次はもっと完璧な……そうですね、彼女のカロリー消費を前提とした、全く新しいエクセルデータを作成して挑みますよ。ふふっ」


霞はスマートフォンを置き、夜景を見下ろしながら不敵に笑う。

エリート工作員としての任務は失敗した。だが、彼岸花という組織の心証を爆上げし、何より魔王という「最高の友人」を得たこの結果は、彼にとって大成功以上の価値があった。


***


【天草・クリストファー・流星の独白:懺悔と後悔、そして怒られ】


「おおおおおっ……主よォォォォッ!! この愚かなる迷える子羊(私)をお救いくださいぃぃぃっ!!」


ドンッ! ガンッ! ゴンッ!

一方その頃。聖三条騎士団の日本支部・地下礼拝堂では、天草・クリストファー・流星が、石畳の床に何度も額を打ち付け、血の涙を流して懺悔していた。


「ああっ……! なぜ、なぜ私はあんなことを……!」


彼の脳裏にフラッシュバックするのは、夕暮れの教会での出来事。

持子は言ったのだ。組織の息苦しさは嫌いだが、流星個人のことは嫌っていない、と。『ただの友として、普通に遊びに付き合ってやってもよいぞ』と……!


「あんな……あんな信じられないほどの歩み寄りを! 悪魔と恐れられる魔王が、この私に『友』という慈悲を与えてくださったのに! 私は、己のちっぽけなプライドと教義で、その手をバシッと……バシッと振り払ってしまったァァァッ!!」


ボロボロと大粒の涙をこぼし、十字架を握りしめて床を転げ回る超絶美形ハーフ。


「あああ! 大国主の気持ちが今なら痛いほど分かる! あのツンデレ気味な寛容さ! あれは絶対にオトされるやつだった! なのに私は『ふしだらな魂』だの『物理的に浄化する』だの、クソダサいテンプレ説教をカマしてしまったのだ! 私はバカだ! 騎士のクズだァァァッ!」


『――ええ、その通り。貴方は救いようのない大馬鹿者です、流星』


ビクッ!!

礼拝堂の奥から、冷ややかな女性の声が響いた。

ホログラム通信機に映し出されたのは、フランス本国にいる聖三条騎士団の上層部シスターだった。

『報告は受けています。超高級マカロンと完璧なシチュエーションで相手の警戒を完全に解き、さらに向こうから「個人的な友人になってもいい」という、我々にとってこれ以上ない最高の結果を提示されたにも関わらず……』


「ひぃっ……!」


『貴方は、ご自慢の「独善的で融通の利かないウザ絡み」を発動し、自爆した。……違いますか?』


「ぐはぁっ……!!(精神的致命傷)」


『おかげで我が騎士団の印象は最悪。今からでも菓子折りを持って謝罪に行きなさい! 次に彼女を怒らせたら、貴方を異端審問にかけますからね! 通信終わり!』


ブツッ!


無情にも切れる通信。


「あああああ……持子ォォォ! ごめんよぉぉぉ! 次会ったら絶対に土下座するからぁぁぁッ!!」


深夜の教会に、エリート騎士の情けなくも悲痛な絶叫が、虚しく木霊し続けていた。


***


【恋問 持子の独白:堅物メガネと、面倒くさい狂信者】


パリパリパリ……。サクサク……。


「……ふぅ。まったく、今日はとんでもなく疲れる一日であったわ」


最高級マンションの最上階。

持子は、気合いの入った春服から着心地の良いスウェットに着替え、最高級のふかふかベッドの上で寝転がりながら、大袋のポテトチップスを貪り食っていた。

教会の途中で帰ってきたため、夕食のカロリーが圧倒的に足りていなかったのだ。


「……それにしても」


パリッ、とチップスを齧りながら、持子は今日一日相手をした二人の男を思い浮かべる。


「あの『霞』という男。内閣府の犬だと言うからどれだけ陰湿なヤツかと思えば……ただのクソ真面目な堅物メガネであったな」


持子の口元に、自然とクスリとした笑みが漏れる。

分刻みのスケジュールを誇らしげに語る姿。巨大なジャンクバーガーを前に、対霊戦闘術を全開にしてナイフとフォークで挑む姿。

どれもこれも、魔王の感覚からすれば理解不能で、盛大にズレている。


「だが、そこが良い。あいつのあの真顔でのズレっぷり、なまら腹がよじれるわ! 組織の傘下に入る気は毛頭ないが……『霞涼介』という男は、実に面白い。気が合うぞ。また一緒に飯を食って、あのエクセルデータとやらを笑ってやりたいものだ!」


霞の評価は、持子の中で『面白くて気の合う雑兵(友人)』として、確固たるポジションを築いていた。


「……それに引き換え」


持子は眉間にシワを寄せ、ポテトチップスをボリボリと少し乱暴に噛み砕いた。


「あの金髪のハーフ野郎! 『流星』とか言ったか。あいつはダメだ。顔は良いが、中身が致命的に面倒くさい!」


夕暮れの教会での、あのウザったい説教がフラッシュバックする。


『悔い改めよ!』『洗礼を受けよ!』『ふしだらな魂め!』


「せっかくわしが『友としてなら付き合ってやる』と寛大な心で歩み寄ってやったというのに、神がどうの悪魔がどうのとうるさいのだ! 自分の価値観モノサシでしか物事を見れん狂信者など、一緒にいても肩が凝るだけだわ!」


持子は「ふんっ」と鼻を鳴らし、ベッドの上でゴロゴロと寝返りを打った。


「あー、面倒くさい面倒くさい! あんな男、もう二度と御免だぞ! 明日学校で会っても絶対に無視してやる!」


パリパリ、ムシャムシャ。

極黒の魔王は、流星への評価を『顔が良いだけのウザい狂信者』として完全にシャットダウンし、最後の一枚のポテトチップスを飲み込んだ。


「さて……」


持子は時計を見る。

明日は日曜日。そして、まだ『接待デートリレー』は半分終わっただけなのだ。

明日の午前は陰陽庁の「土御門朔夜」、午後は八咫烏の「葉室鶴子」が控えている。


「ふははっ! 明日の奴らは、わしにどんな美味い貢物を持ってくるのか。少しだけ楽しみにしておいてやろう!」


持子は毛布を被り、明日のカロリーに思いを馳せながら、深く平和な眠りにつくのだった。

――こうして、明暗がくっきりと分かれた土曜日が終了。


果たして明日の日曜日、残る二人の工作員は、この気まぐれで理不尽な魔王の胃袋と心を満足させることができるのか!?

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