『理不尽なる一騎』
✴︎軍事・クラン連合の総力戦と、蹂躙される誇り
「ズォォォォォォォォォォッ……!!」
異界の奥底から、地鳴りのような咆哮が響き渡る。
それは、千年の時を超えて現世に解き放たれた首なし騎馬隊――将門の怨念から無限に派生する怨霊の軍勢による、生者への蹂躙の合図だった。
だが、迎え撃つ帝都の防衛線は決して脆弱ではない。
「撃てェッ! 一匹たりともこの防衛線を越えさせるな!」
自衛隊・特殊作戦群『対特殊武器衛生隊』――通称「極暑」を率いる山本貞二郎一佐の怒号が、硝煙と血の匂いが立ち込める大手町に轟く。
彼らが運用するのは、TIAが秘匿提供した戦前の極秘機関【八雷神】の遺産と現代兵器を融合させた「対・魔神用重装備」である。
アスファルトをキャタピラで砕きながら陣取る『10式戦車改(魂喰らい)』の主砲が一斉に火を噴いた。
放たれたのは、霊素を極限まで圧縮した『霊素圧縮徹甲弾』。物理的な装甲を貫くだけでなく、着弾と同時に標的の霊体構造そのものを粉砕する凶悪な一撃が、迫り来る首なし騎馬隊を次々と虚空へ消し飛ばしていく。
さらに上空からは『AH-64D(アパッチ・ロングボウ改)』が飛来し、ヘルファイアミサイルに充填された「聖水気化爆薬」を容赦なく投下。一帯の霊障を文字通り「洗浄」し、怨霊の群れを蒸発させていった。
その圧倒的な火力の脇を固め、死線を支えているのは、東京霊脈防衛戦線を担う主要クランの精鋭たちだ。
「押し返せェッ! 帝都の土をこれ以上踏ませるな!」
鳳翼山伏衆の代表・蔵王権蔵が吼える。屈強な山伏たちが厳しい修行で培った「金剛法」を発動し、肉体に高密度の霊気を纏って怨霊の突撃を正面から受け止め、剛腕で粉砕する。
その後方では、曼荼羅浄土門の代表・蓮華院慈空の指揮のもと、僧侶たちが幾重にも重なる強固な浄化結界を構築し、異界の浸食を水際で押し留めていた。
さらに、陰陽庁執行部「六壬」のトップ・土御門泰臣が冷徹に印を結べば、現代に最適化された公的な式神が宙を舞い、空から襲い来る怨霊を的確に絡め取る。
戦線の死角を埋めるのは、龍胆組・霊学会の鬼頭豪三率いるアウトローたちだ。彼らは禁忌の術式やジャンクな呪薬を躊躇いなく使用し、泥臭くもしぶとく敵の足を止める。
そして、聖三条騎士団のエドワード・聖三条率いる騎士たちが、教義の壁を越えた十字架の魔術――一撃必殺のエクソシズムを連発し、戦場を神聖な光で照らし出していた。
近代兵器による無慈悲な「殲滅」と、伝統呪術による鉄壁の「封鎖」。
かつてないほどに連携の取れたこの二段構えの防衛網は、怨霊の軍勢を完全に圧倒しているように見えた。
誰もがこのまま押し切れると信じかけた、まさにその時――。
ズォォォォォォォォォォッ……!!
異界の最深部、底無しの闇の中から、将門の配下にして最強の怨霊、**『坂東の狂鬼・重装騎馬大将(黒甲冑の怨霊)』**が姿を現した。
漆黒の甲冑を纏ったその巨躯は、周囲の空間すら歪め、光を吸い込むような濃密な怨念の塊だった。どす黒い瘴気が、呼吸をするように立ち昇っている。
「目標、特級指定怨霊! 全砲門、撃てェッ!!」
山本一佐の命令で、10式戦車改から必殺の『霊素圧縮徹甲弾』が放たれる。
だが――着弾の瞬間、狂鬼を覆う漆黒の瘴気が砲弾を泥沼のように包み込み、爆発すら許さずに瞬時に腐食、無効化してしまった。
「なっ……!?」
「グルルォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
驚愕に目を見開く暇も与えず、狂鬼が地を蹴った。
一閃された巨大な長刀のなぎ払いが、数十トンの重量を誇る10式戦車改の砲塔を、まるでブリキのおもちゃのように軽々と宙へと跳ね飛ばす。
「ぐあぁぁっ!?」
吹き荒れる呪詛の衝撃波により、最前線で盾となっていた鳳翼山伏衆の肉体が引き裂かれ、鉄壁を誇った曼荼羅浄土門の結界がガラスのように砕け散る。
たった一騎の、絶対的な「理不尽」。
その絶望の前に、帝都が誇る最強の防衛線は、今まさに崩壊の危機に直面していた。




