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『零時の帝都、最強集結』

✴︎結集:異界の境界線と、次なるフェーズへの移行


「……な、なんです、あれ……」


助手席に乗っていた花園美羽が、フロントガラス越しに広がる絶望的な光景に息を呑んだ。

日本経済の心臓部であり、無機質な高層ビルが立ち並ぶはずの帝都・大手町。

しかし今、彼女たちの目の前に広がっていたのは、現代の鋼鉄の森と、平安時代の朱塗りの建築物が、まるで内臓を裏返したようにグロテスクに融合した『巨大な異界』だった。

空間全体が不気味な青白い結界に覆われ、ドクン、ドクンと、まるで巨大な生物の心臓のように脈打っている。

周辺の道路には、警視庁・公安部『特殊呪歌対策課』の葛西研二課長が率いる捜査員たちが展開していた。非能力者でありながら長年の勘で現場を支える葛西の指揮のもと、彼らは「特製電磁警棒」が放つ妨害電波で霊的シールドを中和し、物理的・霊的に大手町を完全に孤立遮断すべく血を吐くような奮闘を見せている。

ギィィィィッ! と鋭いスキール音を鳴らし、真紅のCX-5が前線本部へ滑り込む。

そこには、所々が破れ、煤で汚れ、血のにじんだ巫女服を翻す風間楓の姿があった。


「楓! 無事か!」


持子が車から飛び降り、駆け寄る。楓は少しだけ安堵したように眉を下げたが、その瞳に宿る冷徹な光は微塵も失われていなかった。


「先輩……来てくれたんですね。……状況は最悪です」


楓は、黒い瘴気が渦巻く異界の最深部を指し示しながら、迅速かつ的確に現状を報告した。


「増上寺での決戦の余波により、大手町『平将門の首塚』の封印が連鎖的に決壊しました。……TIAの地下指令室が誇る『九式・霊的探知レーダー』の解析によれば、この異界は東京の霊脈を直接食らい、物理法則をねじ曲げながら拡大を続けています」


「すでに一度、突入はしたようだな」


持子が、楓のボロボロになった巫女服を一瞥して言った。楓は悔しげに唇を噛み、コクリと頷く。


「はい。……私を含めたTIAの主力部隊、そして『八咫烏』や『鳳翼山伏衆』といった主要クランの精鋭たちで、第一波の合同突入作戦を決行しました。ですが……完全に失敗に終わりました」


楓の脳裏に、先ほどの地獄が蘇る。

千年の時を超えて現世に解き放たれた、怨霊の軍勢。そして何より、最深部に座す将門公を覆う絶対的な『空間断絶の呪詛』。


「どれほど強力な神術も、洗練されたクランの合同術式も、空間そのものを断絶する防御の前には文字通り『届き』ませんでした。第一波は壊滅的打撃を受け、現在、クランの生存者たちは外縁部への撤退と防衛線の再構築を余儀なくされています」


ズガァァァァァァァァンッ!!


楓が言葉を紡ぐ最中、背後で鼓膜を破るような爆音が轟き、大地が激しく揺れた。

持子たちが驚いて視線を向けると、封鎖線の向こう側で、漆黒の巨砲が一斉に火を噴いているのが見えた。


「……事態を重く見た国家の調整官、内閣府・第七神祇課の赤城太郎室長が、作戦のフェーズを移行させました」


楓の冷徹な声が、爆音の中でもはっきりと響く。


「これより、警察機構による封鎖とクランの呪術防衛に加え、自衛隊・特殊作戦群『対特殊武器衛生隊』――通称『極暑ごくしょ』の重装甲部隊が攻撃に加わります」


ドゴォォォォンッ!


徹底した火力至上主義者である山本貞二郎一佐の号令のもと、最新鋭の『10式戦車改(魂喰らい)』が、霊素を極限まで圧縮した「霊素圧縮徹甲弾」を連射する。物理装甲と霊体構造を同時に粉砕する凶悪な砲弾が、異界から溢れ出ようとする怨霊の群れを次々と虚空へ消し飛ばしていく。

上空からは『AH-64D(アパッチ・ロングボウ改)』が飛来し、「聖水気化爆薬」を充填したミサイルで一帯の霊障を洗浄している。


「警察、クラン、そして自衛隊……国家権力と裏社会の総力戦というわけか」


持子が黄金の瞳を細め、燃え盛る戦場を見据える。

「はい。広域の面制圧と、無限に湧き出る怨霊の足止めは、彼ら政府機関とクランの連合軍が担います」

楓はそこまで言うと、持子の黄金の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「……ですが、このままでは夜明けを待たずに東京の霊脈そのものが食い尽くされ、帝都は消滅します。軍隊規模の広域制圧火力では、あの『空間断絶の呪詛』を突破して、将門公の核をピンポイントで叩き潰すことはできません。下手に火力を集中させれば、東京のビル街ごと焼き払う最悪の結末になります」


冷徹な頭脳で全てのシミュレーションを重ねた結果。

伝統ある儀式も、国家の武力も、この絶望的な盤面を覆す決定打にはならない。

今必要なのは、理不尽なまでの『個の暴力』と『規格外の突破力』のみ。

だからこそ楓の脳裏に真っ先に浮かんだのは、深夜のマンションでだらしなく眠りこけているであろう、三人のバケモノたちの顔だったのだ。


「……先輩たちの、規格外の力が必要なんです」


楓の切実な声。須勢理毘売命の転生体という神話級の魂を持つ彼女に、ここまで言わせるほどの絶望。


「ふははははっ! 水臭いことを言うな、楓。可愛い後輩の頼みだ、わしらが断るはずがなかろう!」


持子は豪快に笑い、楓の華奢な肩をバンッと叩いた。かつて長安を恐怖で支配した暴君・董卓の魂を持つ彼女のその手は、王としての絶対的な自信と覇気に満ちていた。


「そうですよぉ! 楓ちゃんを傷つける悪い怨霊は、私がこの大剣でミンチにしてあげますからっ!」


本多鮎の瞳に、狂戦士特有の好戦的な光が宿り、身の丈を越える大剣がギチリと鳴る。


「楓ちゃんに『助けて』なんて言われたら、地の果てまでついていくに決まってるですにゃぁっ!」


美羽が獣のような笑みを浮かべ、腰の属性短刀をチャキッと鳴らした。

三人の力強い快諾に、張り詰めていた楓の口元に、微かな、しかし確かな笑みが浮かんだ。


「……ありがとうございます。……行きましょう。帝都を、取り戻すために」


背後では自衛隊の砲撃が轟き、クランの術式が夜空を焦がす。

極黒の魔王、狂戦士、七牙の暗殺者、そして修羅の巫女。

帝都防衛の最終防波堤――最強の『将門公討伐隊』が、結成された瞬間だった。

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