帝都零時、将門顕現
東京の地下深くに張り巡らされたオカルト的なエネルギーの巨大なパイプライン、『霊脈』。
芝公園・増上寺における怨霊との死闘は、江戸時代から続く『将軍守護結界』に修復不可能なヒビを入れ、その余波は確実に次なる絶望を呼び覚まそうとしていた。
古びた雑居ビルの奥に隠された、民間霊的組織【TIA】のサイバーパンクな地下指令室。
そこでは今、戦前の【八雷神】の研究成果から実用化された遺産『九式・霊的探知レーダー』が、けたたましいアラートを鳴らし続けていた。
モニターに映し出される帝都の霊脈図は、一箇所に向かって異常な熱を持った赤色に染まっている。
「……大手町、『平将門の首塚』。増上寺の決壊に伴う連鎖的な封印崩壊を予測。誤差はセンチメートル単位でゼロです」
事態は、一刻の猶予も許さない段階へと突入していた。
***
時刻は深夜に差し掛かろうとしている。
霞が関の内閣府庁舎。第七神祇課『彼岸花』の室長である赤城太郎は、冷徹な実務家としての表情を崩さず、重々しい決断を下した。
「直ちに『対テロ特別措置法』および『大規模地下インフラ点検』を発令しろ。警視庁に現場の封鎖を急がせ、事態を一般社会から完全に隔離するのだ」
表向きの強権的な理由を盾に、日本経済の中心地である大手町から徹底的に民間人を排除する。
その最前線で指揮を執るのは、警視庁・公安部『特殊呪歌対策課』の葛西研二課長であった。非能力者でありながら長年の修羅場で培った「勘」を武器にする彼は、特製電磁警棒を手に、緊迫した声で部下たちに指示を飛ばしていた。
「急げ! 結界の展開を急がせろ! 一般人を絶対に巻き込むな。物理的にも霊的にも、大手町を完全に孤立遮断しろ!」
葛西の迅速かつ的確な指揮により、深夜の大手町からは人っ子一人が消え去り、静まり返ったゴーストタウンと化した。被害を最小限に抑え込むための事前避難は、完璧に完了したのである。
そして――深夜零時。
巨大な霊脈の奔流が、ついに絶対の臨界点を突破した。
バキィィィィィンッ……!!
ガラスが砕け散るような、この世のものとは思えない絶望の音が東京の夜空に響き渡る。
「平将門の首塚」の封印が、完全に決壊した瞬間だった。
直後、大手町の景色が歪む。天を突く現代のビル群、無機質な鋼鉄とガラスの森が、地の底から溢れ出したドロドロとした怨念の瘴気に飲み込まれていく。アスファルトは無惨にひび割れ、そこから朱塗りの柱や平安の京を思わせる古風な建造物が、不気味な脈動と共に生え出してきた。
現代の鋼鉄の森と、千年の怨念が融合した『巨大な異界』。
理不尽なる武神が座す絶望の領域が、防衛線の敷かれた帝都の中心に、ついにそのおぞましい姿を現した。




