『魔王、両翼に抱かれる夜』
代官山にある高級マンションの一室。は間接照明の柔らかな光が満ちる、恋問持子の広大な寝室。
分厚く寝心地の良いキングサイズのベッドの上には、過酷な修行を終えて帰還したばかりの鮎と美羽、そして彼女たちを我が子のように愛おしむ『極黒の魔王』の姿があった。
これまで、鮎と美羽は持子の寵愛を巡って火花を散らす犬猿の仲であり、こうして三人で肌を寄せ合うことなどあり得なかった。しかし、互いの弱さを知り、地獄のような死線を越えて真の強さを手にした今、二人の間には確かな「戦友としての絆」が結ばれていた。
「ふははっ。よいぞ、よいぞ二人とも。わしの愛する可愛い下僕たちよ。今日は存分に、この魔王が甘やかしてやろう」
持子は上機嫌で二人の頭を撫で回し、自身の内に渦巻く芳醇な『極黒の魔力』を分け与えようと、妖艶な笑みを浮かべた。
いつもなら、ここから持子が圧倒的なカリスマと魔力で二人を文字通り「支配」し、甘く蕩けるような快感の渦へと沈めていくのが常である。
だが――今夜は違った。
鮎と美羽はふと顔を見合わせると、示し合わせたように小さく、悪戯っぽく微笑んだ。
「……持子様。いつも私たちが与えられるばかりでは、不公平ですぅ」
「ええ。持子様には、私たちが強くなるために、数え切れないほどの愛情と魔力をいただきました。だから今夜は……私たちが、持子様を溺れさせます」
「……は?」
持子が黄金の瞳を丸くした瞬間、両サイドから二人の手が伸び、持子の華奢な肩をふわりとベッドへ押し倒した。
「ちょ、ちょっと待てお前たち!? わしは魔王で……んんっ!?」
抗議の言葉は、鮎の艶やかな唇によって塞がれた。
「ん……っ、ちゅ……」
鮎の少し強引で、けれどどこまでも熱く甘い舌が、持子の口内へと侵入する。同時に、持子の背後に回った美羽が、その白磁のような美しい首筋に、チュッ、と熱い吐息とともに吸い付いた。
「あっ……ん、ぁ……っ! あ、鮎、美羽……っ」
二人の舌が持子の肌を這い、口内で舌と舌が濃密に絡み合う。
ただの口付けではない。三人の間で、ドロリとした濃密な『闇の魔力』が、唾液とともに直接的なパスを通じて流れ込んでいく。
神楽舞の修行で確立された完璧な循環。持子の溢れる闇を受け止め流す『調律者』としての鮎と、光を掠め取り闇を逃がす『錨』としての美羽。
その完璧な魔力の回路が、今はただ、持子に極上の「快感」を与えるためだけにフル稼働していた。
「んちゅ……持子様、すごく甘いです……。もっと、私の舌、絡めて……」
「持子さん……ここ、すごく熱くなってますぅ。気持ちいいですか……?」
「ひゃあっ! そ、そこは……っ、んぁっ、だめ、魔力が……っ!」
鮎の逞しくも優しい手が持子の豊かな胸元や太ももを撫で上げ、美羽の繊細な指先が、耳の裏や腰の敏感なラインを的確になぞり、甘噛みする。
互いがお互いを慈しむように舐め合い、触り合い、肌と肌を擦り合わせる。その度に、魔力の摩擦が熱を生み、脳髄を焼くような強烈な快感が持子の全身を駆け巡った。
普段は傲岸不遜に攻め立てる魔王が、愛する二人の下僕の連携攻撃を前に、完全に主導権を奪われ、甘い嬌声を上げて身悶えしている。
(な、なんだこの感覚は……っ! 二人の愛情が、魔力に乗って直接流れ込んでくる……! 頭が、真っ白に……っ!)
「持子様、好きです……愛しています、持子様ぁ……っ」
「持子さん、大好き……ずっと、ずっと離さないですぅ……っ」
二人の魂からの愛の囁きと、絶え間なく続く舌の絡み合い。
持子の中に蓄積された魔力と快感は、もはや彼女一人の器では抑えきれない臨界点へと達しようとしていた。
「あ……っ、だめ、もう、わし……限界……っ! いく、魔力が、弾けるぅぅぅっ!!」
持子が弓なりに背を反らせ、黄金の瞳からポロポロと歓喜の涙を溢れさせた、その瞬間。
ビクゥンッ!! と。
持子の奥底から、星が爆発するような強烈な快感と極黒の魔力が弾け飛んだ。
「――ッ!!?」
「あぁぁぁんっ!!?」
そして、それは持子一人の絶頂では終わらなかった。
魂の深い部分で「魔力のパス」が完全に繋がっている三人。持子が感じた宇宙が白く染まるほどの圧倒的な快感は、パスを逆流し、繋がっている鮎と美羽の脳内へと、タイムラグ・ゼロでダイレクトに直撃したのだ。
「あ、あぁぁぁ……っ! 持子様の、持子様の凄いの、入ってきますぅぅぅっ!!」
「んぎゃぁぁぁっ! 頭が、溶けちゃうですにゃぁぁぁっ!!」
持子の絶頂に強制的に同調させられ、鮎と美羽も同時に限界を迎え、三人の身体が甘い痙攣を繰り返す。
それはまさに、互いの魂と快感を分かち合う、究極の魔法的同調であった。
「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」
やがて、光の波が収まるように魔力の嵐が落ち着くと、大きなベッドの上には、汗ばんだ肌を寄せ合い、幸せそうに荒い息を吐く三人の少女が折り重なっていた。
「……ははっ。お前たち、本当に……とんでもない下僕に育ちおって……」
持子は力が抜けた身体で、それでも愛おしそうに両腕を回し、鮎と美羽の肩をギュッと抱き寄せた。
「えへへ……。でも、持子様、すごく可愛かったです」
「ですぅ。たまには、私たちが攻めるのも悪くないですね……♪」
持子の腕の中で、鮎と美羽が子猫のように頬をすり寄せる。
もう、かつてのようないがみ合いはない。絶対的な魔王と、それを支え、時にこうして深い愛情で包み込んでくれる最強の配下たち。
「……ふん。今日だけは、特別に許してやる」
持子は真っ赤になった顔を誤魔化すようにそっぽを向きながらも、二人の頭に優しく、愛に満ちたキスを落とした。
夜の帳の中、三人の分け合った魔力の残り香が、甘く、いつまでも部屋の中を漂っていた。




