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『ドS後輩巫女に永遠ループさせられて暗殺者に進化しました

絶望の二刀流 ~無限地獄と凄惨なる産声~


「いいですか、美羽先輩。あなたが口走った『二刀流』ですが、ただ両手に刃を持てばいいというものではありません。私が教えるのは、**『風魔流忍び系統の二刀流』**です」


氷川神社の境内裏手。結界が張られた夜の廃棄倉庫の冷たい空気の中、かえでの涼やかな声が響いた。

数時間前、本多鮎が愛しの洋助のジープで甘美な期待に胸を膨らませて夜の森へ消えていったのとは対照的に、花園美羽はなぞの・みうの目の前にあるのは、情緒の欠片もない暗殺術の指南であった。

チャキッ、シュルルッ……!

楓は手にした二振りの模擬短刀を、指先で軽やかに、そして恐ろしい速度で回転させてみせる。


「風魔流の基本は『非対称』。右の手には順手で持ち、攻撃と牽制を。左の手には逆手さかてで持ち、防御と暗殺を担わせます。右の刃で敵の視界と武器を奪い、死角から左の逆手刃で頸動脈を掻き切る。二つの異なる動きを同時に脳で処理し、完全に独立させて動かすのです」


ピタリ、と楓の動きが止まる。一切の無駄がない、洗練された殺しの構え。


「……ふふんっ! なるほど、完全に理解しましたにゃ!」


その凄みを見せつけられてなお、美羽の瞳はキラキラと無邪気な光を放っていた。

持子や鮎のような規格外の魔力を持たない美羽は、乏しい魔力を「身体能力の極限強化」に全振りしている。だからこそ、手数が増える二刀流は自分にピッタリだと思い込んでいたのだ。


「右で防いで、左でズバッ! ですね! アイドルは歌いながら踊って、さらにファンにウインクまで同時にこなす究極のマルチタスク職業! 左右で違う動きをするなんて、お茶の子さいさいですにゃあ! 持子様みたいに、華麗に無双してみせます!」


自信満々に胸を反らせ、フンスッと鼻息を鳴らす美羽。

その能天気な姿を見下ろしながら、楓は氷のように冷たい瞳の奥で、ほんのわずかに嗜虐しぎゃくの光を灯した。


「……そうですか。頭では理解できたのですね。では、**『実践』**と行きましょう」


パチンッ。

楓が指を鳴らした瞬間、倉庫の奥の影がドロリと歪んだ。


グルルルルルッ……!! ギャアアアアッ!!

湧き出たのは、血に飢えた無数の下級妖あやかしの群れ。


「さあ、風魔のことわりをその身体に刻み込みなさい。一匹残らず殺すまで、外には出しません」


「えっ、ちょ、ええええええっ!? 待っ、まだ素振りもしてな――」


ドガァァァァァッ!!

美羽の悲鳴をかき消すように、妖の群れが一斉に襲いかかった。


「……美羽先輩。その程度ですか。完全に手が止まっていますよ」


指導開始からわずか数分後。倉庫に響き渡ったのは、楓の冷徹な声と、美羽の痛ましい絶叫だった。


「ひぐっ、あ、あぁぁぁ……っ!」


ガキンッ! ギギギギギッ!!

風魔流の二刀流。言うは易く、行うは地獄。

右手の順手で妖の爪を弾こうとすれば、逆手に持った左手の動きが完全にフリーズする。意識を左に向けた瞬間、今度は右のガードがガラ空きになる。脳が引き裂かれそうな情報量に、美羽のキャパシティはとうにパンクしていた。


「……っ、ぎ、ぎにゃぁぁぁぁっ!!」


ズバァァァッ!!

意識の隙間を縫うように、妖の爪が美羽の細い太ももと脇腹に深々と食い込んだ。

真紅の血がドロリと溢れ出し、美羽はたまらず冷たいコンクリートの床へと這いつくばる。


「はぁっ、はぁっ、ごほっ……! か、楓ちゃん、無理、無理ですぅ……! 死ぬ、死んじゃうですにゃあぁっ!!」


涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、よだれを垂らしながら助けを求める美羽。

しかし、血の匂いに興奮した妖たちは容赦しない。三匹の妖が、無防備な美羽の喉笛へ向けて一斉に飛びかかった。


(あ、終わった……死ぬぅぅぅっ!)


美羽がギュッと目を瞑った、その瞬間。


「――【金縛り】」


ピタァァァァッ……!!!

空気が凍りついた。

飛びかかっていた妖たちが、美羽の顔面までわずか数センチの空中で、まるで一時停止ボタンを押されたかのように完全に静止したのだ。


「え……?」


「……【神術・小治癒ヒール】」


カァァァァァッ!!

続けて楓が指を弾くと、眩い光が美羽を包み込んだ。

えぐられていた太ももと脇腹の肉が、強引に細胞を結合させるような荒療治で塞がれていく。傷は治るが、細胞が強制再生する激痛が美羽の脳を焼く。


「あ、あぐぅぅっ!? い、痛い、痛いですぅ! ……で、でも、助かったぁ……」


ゼエゼエと荒い息を吐きながら、涙目で楓を見上げる美羽。なんだかんだ言って、やっぱり後輩は私を見捨てなかった。そう安堵の笑みを浮かべかけた、次の瞬間。


「傷は塞ぎましたね。では――金縛り、解除」


パチンッ。


「えっ」


グガァァァァァッ!!!

ズバァァァァァァッ!!!


「ぎにゃあああああああああっ!?」


空中で静止していた妖たちが、そのままの勢いで美羽に襲いかかった。

先ほど治ったばかりの肩口を、真新しい爪が深々と抉り取る。鮮血が宙を舞い、美羽は再び床に叩きつけられた。


「な、なにするですかぁぁっ!? なんで止めたのを動かすですかぁっ!?」


「実践と言ったでしょう。一刀に逃げるなら、このまま喰わせますよ。――【金縛り】」


ピタァッ。(妖が静止)


「ひぐっ、ぐすっ……も、もう嫌だぁ……!」


「――【神術・小治癒ヒール】」


カァァァッ。(傷が強制再生)


「あぎぃぃぃっ!!」


「立ちなさい。構えなさい。右で受け、左で殺すのです。――金縛り、解除」


グシャァァァッ!!!


「あびゃあああああっ!! 痛い! 痛い痛い痛い痛いぃぃぃっ!!」


――絶望だった。


負傷すれば、死ぬ直前で妖が停止させられ、傷を治される。そして治った瞬間に、再び妖が解放され、戦闘が強制再開される。

死ぬことすら許されない。気絶することすら許されない。永遠に続く、痛みと死線の無限ループ。


「――金縛り。――ヒール。――解除」


「ぎにゃぁぁぁぁっ!!」


「――金縛り。――ヒール。――解除」


「あばぁぁぁぁっ!!」


何度、その地獄を繰り返しただろうか。

鉄錆の匂いが充満する倉庫の中で、美羽の心の中で、何かが『ブチィッ』と音を立てて千切れた。


「…………」


「どうしました? 次が来ますよ。――解除」


うつむいたまま、肩を震わせる美羽へ、妖が牙を剥いて迫る。

次の瞬間、彼女は血と汗にまみれた髪を振り乱しながら、獣のような咆哮を上げた。


「――……んだよ、これぇ……ッ!! なんなんだよぉぉぉ、これぇぇぇぇッ!!」


ゴウッ!!!


美羽の体内を巡る魔力が、生存本能という名の純粋な怒りによって爆発的に膨れ上がった。


「クソッ、クソがぁぁッ! この下等なゴミ虫どもが!! 私を誰だと思ってるんですかぁっ! 持子様の、最高に可愛い下僕様ですよぉぉっ! 汚い手で、何度も何度も私の肌を切り刻むんじゃねぇぇぇッ!!」


かつての甘ったるいアイドル声は微塵もない。

美羽は地を這うような怒声とともに、二振りの短刀を狂ったように構えた。

頭で考えるのをやめた瞬間、極限状態の生存本能が『死にたくなければ刃を回せ』と、風魔流の理を強制的に肉体へと直結させたのだ。


ギャリィィィンッ!!

右手の順手刃が、飛びかかってきた妖の牙を完璧なタイミングで弾き飛ばし、そのまま敵の顔面を切り裂いて視界を奪う。


(右で受け――)


「死ね! 死ね死ね死ねぇッ!!」


(左で殺す!)


ズバァァァァァッ!!! グチャァッ!!


死角に沈み込んだ左の逆手刃が、妖の頸動脈から脳天にかけて、容赦なく深々と突き刺さった。


「細切れになって土に還れ、この腐れ外道どもがぁぁッ!!」


返り血を全身に浴びながら、美羽の口からは妖への罵倒、そして淡々と「無限コンティニュー」を強要し続ける楓への猛毒が止まらない。


「楓ぇぇぇっ! 貴様、このドSの性格破綻巫女ぉぉっ! 呪ってやるですぅ! いつか絶対寝首を掻いて、その綺麗な顔をメチャクチャにしてやるですからねぇぇぇっ!! 右で受けて左で殺す!? 上等じゃねえか、やってやるですよぉぉっ! あぁぁぁ、理不尽、理不尽すぎて吐き気がするですにゃぁぁぁっ!!」


嗚咽おえつを漏らし、血を吐きながらも、美羽の動きは驚異的な速度で洗練されていく。

それは冷静な技術の習得などではない。「痛いのはもう嫌だ」という強烈な生存本能が脳を焼き切った果ての、強引なアップデートであった。


「……ふむ。いいですよ、その調子です」


その血まみれの狂乱の舞を見つめながら、楓は心底満足そうに、冷たい唇の端を吊り上げた。


「文句を言う肺活量が残っているなら問題ありませんね。……さあ、次の群れ(ウェーブ)が来ます。手が止まれば、また最初からループのやり直しですよ?」


「まだやるのかよ、この悪魔女ぁぁぁぁッ!!」


夜の闇の中、アイドルの仮面を完全に脱ぎ捨て、魂から「呪い」と「刃」を吐き散らす美羽。彼女は今、永遠の地獄の中で、最強の暗殺者へと変貌を遂げるための凄惨な産声を上げていた。


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