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『東京霊脈大封鎖』

第二幕:神話級の剣と、チート巫女の乱入


(……ここまでか。わしとしたことが、ただの鬱憤晴らしで死ぬとはな)


冷たい石畳に膝をつき、持子は静かに目を閉じた。

体内の『極黒の魔力』は完全に底を尽き、指一本動かすことすらできない。周囲には鮎、美羽、ルージュが力なく倒れ伏している。

黄金の瞳に最後に映ったのは、無慈悲に振り上げられた義経の薄緑の太刀と、弁慶の巨大な岩融だった。

死の恐怖はない。ただ、己の不覚への苛立ちと、王として無様に命乞いだけはすまいという絶対的な矜持だけが胸にあった。

一方、刃を振り下ろす源義経の心内もまた、深い闇と絶望に覆われていた。


(これで終わる。穢れた都も、無駄に抗う者たちも……我が心に渦巻く、この底なしの怨嗟も)


黒幕の呪詛に縛られた天才剣士は、悲痛な叫びを魂の奥底で上げながら、持子たちを両断すべく渾身の力を込めて太刀を振り下ろした。


――すべてを無に還す、死の斬撃。

誰もが、その直後に訪れる『全滅』を確信した。

キンッ……!!

澄み切った、けれど背筋が凍るような甲高い金属音が、怨念渦巻く増上寺の境内に響き渡った。

義経は目を見開いた。持子の脳天を唐竹割りにするはずだった己の太刀が、見えない『壁』に弾かれたようにピタリと空中で停止しているのだ。弁慶の長刀も同じく、空を斬る手前で凍りついている。


(なんだ、この気は……!? この世の怨念をすべて洗い流すような、あまりにも清浄で、暴力的なまでの神気は!)


「……遅くなりました、先輩」


空気を揺らす気配すらなく、持子たちと義経の間に、一人の黒髪の少女が立っていた。


(……は? なんで持子先輩たちが、あんな所に!? しかも死にかけてるじゃないですかあの人たちッ!!)


その数分前。氷川神社で就寝しようとしていた巫女の風間楓は、芝公園の方角から弾け飛んだ「異常な霊的崩壊の気配」を察知し、『無足の歩法』で急遽現場へと駆けつけていた。

東京の霊脈を守る重要な結界が破られようとしている。一体どんな大化け物が出たのかと単騎で突入した楓だったが、境内に到着した彼女の目に飛び込んできたのは、あまりにも予想外すぎる光景だった。

自分の学校の先輩であり魔王である持子と、その愉快な下僕たちが、見知らぬ怨霊の刃の下で今まさに全滅しようとしていたのだ。

内心で激しくツッコミを入れながらも、楓は一切の迷いなく絶対の死地へと割り込んだ。


「楓……! 貴様……!」


「細かいお説教は後です!」


驚愕する持子をよそに、楓は眼前の歴史的英雄たちを冷徹な瞳で睨み据えた。

敵の異常な霊的質量を瞬時に測りきった彼女は、腰に差していた普段の護身刀には見向きもせず、虚空に向かってスッと右手を差し出す。出し惜しみをしている余裕など、一秒たりともない。


「顕現せよ――『生太刀いくたち』」


空間が割れ、彼女の細い腕の中に、まばゆい神気を放つ一振りの直刀が握られた。

日本神話において大国主命が振るったとされる神宝。この世のあらゆる邪気を祓い、生命を現世に繋ぎ止める神話級の剣である。

楓は生太刀を上段に構えるや否や、初手から一切の容赦のない全開モードで一閃した。

ドォォォォォォォォンッ!!

爆発的な神話の光が、漆黒の夜を真昼のように照らし出す。

ただの一振り。それだけで義経と弁慶の巨体が暴風に煽られたように同時に後方へと弾き飛ばされ、周囲を取り囲んでいた無数の怨霊軍団が、光の波動に触れた瞬間に一瞬にして光の塵となって蒸発した。


「くっ……!」


楓は弾き飛ばした敵を追うことはせず、手にした生太刀を、そのまま足元の石畳に深々と突き立てた。

ガァァァァンッ!!

生太刀を起点として、黄金の波紋がドーム状に広がっていく。

神々しい光の波動を浴びた持子たちの身体から痛みが引き、枯渇していた魔力が強制的に再起動し、熱い力が全身を満たし始めた。全回復とまではいかないが、戦闘を続行するには十分なレベルだ。


「持子先輩! いいですか、よく聞いてください!」


生太刀の柄を両手で握りしめ、強烈な負荷に耐えながら、楓は早口で叫んだ。


「ここは徳川の霊廟を守る『将軍守護結界』の要所です! 東京の地下を流れる巨大な霊脈の暴走を抑え込むための、最強の『蓋』なんですよ! 奴らはここを壊して、東京中を地獄に変える気なんです!」


楓の言葉と同時に、彼女が展開した生太刀の光が、増上寺全体を覆う巨大な光のドーム――『絶対隔離結界』へと姿を変えた。

地底から無限に湧き出していた怨霊の追加スポーンが完全に遮断され、外部への被害も封殺する最強の隔離空間の完成である。


「ポタタタッ……」


だが、楓の青白い頬から、滝のような汗が流れ落ちていた。

黒幕が義経たちに注ぎ込んでいる怨念の奔流が、信じられないほどの圧力で結界を押し潰そうと軋みを上げているのだ。敵の呪力が強大すぎるため、このチート級の隔離結界と回復フィールドを維持するだけで、楓の規格外の力をもってしてもすべてのリソースを割かれてしまっていた。


「……ハァ、ハァ……っ」


荒い息を吐きながら、楓は生太刀の柄にすがりつくようにして、持子を振り返った。その瞳には、すべてを託すという絶対の信頼と、凄みが宿っている。


「……詳しい説明は後でします。とにかく、舞台(結界)は作りました。手出し無用の、サシの勝負です。……あとは頼みますよ、先輩」


「ふははっ! 上等だ! 最高の舞台ステージをよく用意した、楓!」


力強く立ち上がった持子の背後に、再び極黒のオーラが、先程よりもさらに巨大で凶悪な形となって立ち昇る。

ルージュも構える、鮎は魔力の大剣を握り直し、美羽は暗殺者の短刀を構えて不敵に笑った。


「さあ、反撃の時間だ! 鮎、美羽! あのデカブツを粉砕しろ!」


「「はいぃっ!!」」


黒髪の修羅が命懸けで繋いだ希望の光を背に受け、魔王と愉快な下僕たちの、逆襲の幕が上がる。


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