『道場でベッドの相談をするな』
放課後の熱気あふれる合気武道部。その道場の端っこで、恋問持子は腕を組み、貧乏ゆすりをするのを必死に堪えていた。
(……ええい、早く稽古を終わらせて帰りたいのだ! なぜなら今日は月に一度、あの泥棒猫(美羽)を自室でたっぷりと『可愛がる』日……っ!)
最近の激務で強大な「極黒の魔力」を持て余していた持子は、かつてないほど激しい『欲求不満』を抱えていた。一刻も早くマンションへ帰り、自身のベッドで美羽を蹂躙し、その甘ったるい声を引き出したいと、前世の魔王の魂がガンガンと疼いているのだ。
しかし――いつもは騒がしい合気武道部の主将・千手と、その彼氏である森が、かつてないほど悲壮な決意を秘めた顔で持子の前に正座し、行く手を阻んでいた。
「持子……頼む。どうか、私たちを助けてほしいの」
「俺たちの力だけじゃ、もうどうにもならないんだ……っ!」
二人の思い詰めたような深刻な表情に、持子は黄金の瞳をスッと細めた。
「ふん! 貴様らの頼みとあらば無下にはできん! 言ってみろ、いかなる強敵だ? わしが物理で粉砕してやろう!」
「ち、違うの持子! 喧嘩とかじゃないの!」
千手は顔を真っ赤にしてモジモジと身をよじり、やがて消え入るような声で、その『深刻な悩み』を打ち明けた。
「……その、森くんの男が……私のあそこに、入らないの……っ。いざってなると、痛くて……弾かれちゃうっていうか……」
「俺の不甲斐なさのせいだ……っ! 頼む持子、お前のあの神秘の技『房中術』で、俺たちを導いてくれ!!」
道場の端っこで、二人が土下座の勢いで頭を下げる。
静まり返る持子。やがてその美しい額に、ピキキキッと青筋が浮かんだ。
「き、貴様らぁぁぁッ!! 道場でベッドの悩みをわしに相談するな!! わしだって今日は、早く帰って自分のベッドでやることがあるのだ!!」
しかし、涙目で縋り付いてくる大切な仲間を見捨てることもできない根の優しさを持つ持子は、深い溜息をついた。「ええい、口で説明するより見せた方が早い! わしの城へ来い!」と、手っ取り早く解決するために二人を引き連れてマンションへと急いだ。
***
ガチャリ、と重厚な扉が開く。
持子の住む高級マンションのリビング。そこでは、持子の帰りを待ちわびていた花園美羽が、持子の黒シャツを一枚だけ羽織ったあられもない姿でソファに横たわっていた。重度の窃盗癖を発揮し、主の匂いを物理的に『コレクション』していたのだ。
「持子さぁん♡ お帰りなさいませぇ……っ。私、もう待ちきれなくて、欲求不満でカラカラに渇いて……って、あれ?」
甘ったるい声で出迎えた美羽だったが、持子の後ろにぞろぞろと森と千手がついてきたのを見て、ぽかんと口を開けた。
「……美羽、ちょうどいい! 貴様を手本にするぞ! ソファに座れ!」
「えっ? ええっ!?」
状況も飲み込めないまま、美羽は持子に肩を抱き寄せられた。
持子は美羽の美しい顎をスッとすくい上げると、黄金の瞳で森と千手を鋭く見据えた。
「よく見ておけ、貴様ら! 房中術の基本は、合気武道と同じく『気』の交わりと循環だ! 力任せに城門をこじ開けようとするから弾かれるのだ。まずは相手の身体を物理的、そして魔力的に芯から解きほぐす手順を教える!」
持子は鬱屈していた自身の『欲求不満』の極黒の魔力を指先に込め、美羽の首筋へと這わせた。
「第一の極意、『気の同調』だ。相手の呼吸に己の呼吸を合わせ、指の腹で脈打つ場所――首筋や鎖骨の窪みを、羽で撫でるように円を描きながら触れるのだ。……こうだ」
持子の長く美しい指先が、美羽の華奢な首筋を滑り、鎖骨の窪みを優しく、しかし確かな支配欲を持ってなぞる。同時に、持子から発せられた濃厚な闇の魔力が、直接美羽の魔力神経へと甘く流し込まれた。
「ひあぁんっ♡ も、持子さぁん……っ、ダメ、いつもより魔力が濃くて、熱いですぅ……っ♡」
「そして第二の極意、『熱の誘導』! ここからが重要だ。表層の皮膚だけでなく、内側の筋肉、そして子宮の奥底にまで己の気を浸透させるようイメージしろ。愛おしい花を咲かせるように、ゆっくりと、執拗にな!」
持子の手が黒シャツの隙間から滑り込み、美羽の柔らかな胸の谷間から、極限までくびれた腹部へと這う。持子自身も欲求不満であるため、その手つきは指導の域を超えてひどくエロティックで、熱を帯びていた。
「あぁぁっ♡ 皆の前なのに、持子さんの魔力で、私、もう頭の芯がトロトロで……っ♡ 身体の奥が、勝手に熱くなって、濡れちゃいますぅっ♡ もっと、もっと私を壊して、持子さんのコレクションにしてくださいぃぃっ……♡」
持子へのドロドロとした重い執着を抱く美羽は、開始わずか数十秒で完全に骨抜きにされ、ソファの上でビクビクと跳ねながら甘い蜜を滴らせるスライムのように溶け果ててしまった。
「ふははっ、どうだ! これが極意だ! さあ森、千手も同じようにやってみろ!」
圧倒的な実演を前に、森と千手はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「わ、わかった! 千手、俺たちの番だ……!」
「う、うん……っ!」
森が震える手で千手の肩に触れる。しかし、どうしても動きが硬い。
「ええい、力みすぎだ森! 貴様の手は丸太か! 貸せ!」
持子は立ち上がり、森の背後に回ってその両手をガシッと掴んだ。
「いいか、力ではなく『気』だと言っておるだろう! 貴様は千手を愛しておるのだろう? ならばその愛しさを手のひら全体に広げ、彼女の緊張を吸い取るように優しく撫でるのだ。……そう、呼吸を合わせろ。吸って、吐く。指先だけでなく、手のひらの中心から熱を送れ!」
持子の的確で緻密な指導により、森の手つきが劇的に変化する。ただの物理的な接触から、愛情と熱を帯びた『房中術の愛撫』へと昇華されたのだ。
「あっ……森くん……なんか、さっきと全然違う……すごく……あったかい……っ♡」
「そうだ! そして千手! お前もただ待っているだけではダメだ! 相手の熱を拒絶するのではなく、水面に落ちた雫を受け入れるように、自らの身体の奥の力を抜け! 骨盤の底から息を吐き出し、森の気を迎え入れろ!」
持子の徹底的な指導に、千手の身体から一切の力みが消え、完全なる『受け入れの態勢』が完成していく。だが、魔王の指導はそこで終わらなかった。
「さらに言おう、千手! 己が開くだけで満足するな! 愛とは与え合うものだ! 貴様からも森を積極的に喜ばせ、その男としての熱を極限まで引き出してやるのだ!」
「えっ!? わ、私が、森くんを……?」
「当然だ! 房中術は一方通行ではない、互いの『気』を喰らい合い、高め合う戦いなのだ! さあ、その震える手で森の胸板を撫で、下腹部へと熱をなぞってみろ! 森の昂ぶる『剣』を、貴様の気と手で包み込み、優しく、しかし確実に悦ばせるのだ!」
持子の熱血すぎるエロ指導が飛ぶ。
「こ、こう……? 森くん……なんか、すごく……ドキドキする……っ」
千手がおずおずと、しかし持子の指導通りに手のひらに『気』を込め、森の身体を撫で下ろし、その熱の源へと手を伸ばす。
「うおっ……!? せ、千手……お前、その手つき……やばい、すげえエロい……っ! 下から熱がガンガン上がってくる……ッ!」
森がビクンと身体を震わせ、かつてない強烈な快感に荒い息を吐く。千手からの積極的な奉仕と気の交わりにより、森の男としての熱量も限界突破を果たしたのだ。
それを見ていた美羽も、ソファの上で脚をよじりながら甘く喘いだ。
「あぁんっ♡ 私も、私も持子さんをいっぱいいっぱい喜ばせますからぁっ♡ 持子さんの全部、私の手と口でドロドロに溶かしてあげますぅ……っ♡」
「貴様は黙って待っておれ泥棒猫!」
持子は美羽の頭を軽く撫でて黙らせつつ、完全に仕上がった森と千手を確認した。
「ふははっ、よし! 見事だ! 互いの気と熱が完璧に交わっておる! これなら絶対に弾かれることなどあり得ん! さあ、本番は家に帰ってから存分にやるがいい!」
持子が「一件落着」とばかりに背を向けた、その瞬間だった。
「「……無理」」
振り返ると、完全にスイッチが入ってしまった森と千手が、荒い息を吐きながら熱い視線を絡ませ合っていた。
「持子……俺たち、もう我慢できない……っ。千手がこんなにエロいなんて……っ」
「うん……森くん、もう、ここで……入れて……っ♡」
「なっ!? ちょ、待て貴様ら! ここはわしのベッドだぞ! しかも今日はわしが美羽を使う予定だったのだ!!」
持子の制止も虚しく、完全に二人の世界へと突入してしまった森と千手は、そのまま持子の極上羽毛ベッドの上で熱烈な愛の営みを始めてしまった。
「ああっ!? わしのシルクのシーツがぁぁぁッ!!」
「持子さぁん♡ もう見ていられません! 私も限界ですぅ! さあ、ここで私を抱いて、めちゃくちゃにしてください……っ!」
「ええい鬱陶しい!! 泥棒猫、ずらかるぞ!!」
***
数十分後。
マンションの近くにある、24時間営業のファミリーレストラン。
「……はぁ。なぜわしが、自分の城を追い出されてこんなところで時間を潰さねばならんのだ……」
窓際の席で、持子はげっそりとした顔で巨大なチョコレートパフェを突っついていた。その底なしの胃袋はスイーツを求めているが、心は全く満たされていない。
その向かいの席では、美羽がストローを噛みながらメロンソーダを飲んでいる。
一見すると平和なファミレスの光景だが、テーブルの下では、欲求不満が頂点に達している美羽の素足が、持子の脚にねっとりと絡みついていた。
「もぉ……持子さぁん。私、あんな濃厚な愛撫でおあずけを食らって、さっきよりずっとドロドロなんですけどぉ……っ♡ 責任、取ってくださいね?♡」
「……黙れ。わしだって、魔力が暴発しそうでギリギリなのだ」
極黒の魔王と泥棒猫は、深夜のファミレスで深い、深い溜息をついた。




