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『魔王モデルは止まらない~合気武道部、爆誕~』

翌日。全校生徒が集まる体育館での「新入生歓迎会・部活動紹介ステージ」は、異様な熱気に包まれていた。


「次、一般科・合気武道同好会。演武の披露です」


アナウンスと共にステージに上がったのは、真っ白な道着に身を包んだ森、千手、そして恋問持子の三人だった。

持子がステージの中央に進み出た瞬間、体育館の空気が一気に爆発した。


「おい、あれって……!」


「芸能科の恋問持子じゃん! マジで!? なんで一般科の同好会に!?」


「『リュクス・アンペリアル』の世界的モデルだろ!? やばっ、顔ちっさ! 足なっが!!」


阿寒湖や南仏で撮影され、世界的な反響を呼んでいるブランドのメインビジュアルモデル。身長175cm、神が計算し尽くした『黄金比ゴールデンバランス』の美貌を持つ彼女が道着姿で現れただけで、新入生はおろか在校生までが身を乗り出してどよめいた。


「ふはははっ! 良い反応だ! さあ森、千手、いくぞ!」


演武が始まった。

まずは主将である千手と森が、流れるような基本の型を披露する。そしていよいよ、持子の出番だ。森が気合いと共に持子へ打ち込みをかける。

かつての持子であれば、うっかり極黒の魔力や殺人術の癖が出て、森を怪我させかねなかった(森は上手く受身や事前に防ぐ回避する)。しかし、数々の死闘を潜り抜け、器を広げた今の持子に抜かりはない。


「はぁっ!」


シュッ、と風を切る音。

持子は完璧な加減と、洗練された「合気武道」の理合のみを用い、森の力をふわりと受け流して美しく畳へと投げ落とした。一切の殺気を排し、純粋な武の美しさだけを抽出した、まるでアクション映画のワンシーンのような華麗な「四方投げ」である。


「おおおおおおっ!!」


体育館が割れんばかりの歓声に包まれた。

世界的モデルが魅せた、美しすぎる武の舞。作戦の第一段階、『手加減・演武披露』は完璧以上の大成功を収めた。


***


そして放課後。各部活がブースを出して勧誘を行う、体育館裏の広場にて。

合気武道同好会のブースは、これまでにない異常事態に陥っていた。


「はいはい、並んで並んで! 入部希望者は一列に並ぶのよ!」


「押すな! 順番に紙を渡すから! ちなみに千手に気安く話しかける奴は俺が許さんからな!」


千手と森が、汗だくになりながら入部届の処理に追われている。

ブースの前には、持子の美貌がデカデカと印刷された『トップモデルの美の秘訣は、合気武道にあり!』という巨大ポスターが掲げられており、それを見た生徒たちが男女問わず長蛇の列を作っていたのだ。

そして、その列の先頭では、極黒の魔王による容赦のない『最終兵器・誘惑作戦』が展開されていた。


「ふはははっ! さあ、そこの迷える子羊たち! わしと共に汗を流し、強き肉体を手に入れようではないか!」


持子は道着の襟元をほんの少しだけはだけさせ、絶世の美貌に極上の笑みを浮かべて新入生たちに迫っていた。

相手が男であろうと女であろうと関係ない。前世で天下を暴力と恐怖で支配した魔王・董卓の魂を持つ彼女にとって、己の配下(稽古仲間)を増やすためなら、使える武器(美貌)はなんでも使う主義なのだ。


「あ、あのっ! 恋問先輩! 俺、先輩の大ファンで……!」


「おお、そうか! 嬉しいぞ! であれば、すぐに入部届にサインをするのだ!」


「で、でも俺、運動とか全然できなくて……」


「案ずるな! わしが手取り足取り、優しく教えてやるぞ? ……そうだ、もし貴様らが入部してくれるというのなら、夏の合宿では特別に『わしの水着姿』を拝ませてやってもよいぞ!」


「「「入部しますぅぅぅぅッ!!!」」」


『水着になる』という持子の爆弾発言に、列に並んでいた男子生徒(と一部の女子生徒)たちの理性が完全にメルトダウンした。

鼻血を押さえながら入部届に群がる生徒たち。

持子は「ふははは! チョロい! チョロすぎるぞ!」と高笑いしながら、次々と入部届を回収していく。

結果として、持子を『究極の餌』としたこの作戦は、合気武道同好会に空前絶後の大豊作をもたらした。


***


「……終わった」


「……ああ、終わったな」


夕暮れの部室。

パイプ椅子に深く腰掛け、完全に燃え尽きた森と千手が、机の上に積まれた「入部届の山」を呆然と見つめていた。


「ふはははっ! 大勝利だな、千手、森よ! これで同好会消滅の危機は完全に去ったぞ!」


持子だけが、一人ピンピンした状態で誇らしげに胸を張っている。


「……なぁ、持子。俺たち、部活に昇格するための『五人』を集めたかっただけだよな?」


「うむ、そうだな」


森が震える手で、入部届の束をパラパラと捲る。


「……一般科、芸能科合わせて……二年生が10名。一年生に至っては……30名だぞ」


「合わせて40名!! 私たち三人を入れて、総勢43名のマンモス部活になっちゃったよぉぉっ!?」


千手が頭を抱えて悲鳴を上げた。

持子の世界的モデルとしての知名度、華麗な演武、そして「水着も辞さない」というなりふり構わぬ誘惑作戦が完全に裏目……いや、効きすぎてしまい、廃部寸前の同好会に40名もの新入部員が押し寄せてしまったのだ。


「ふはははっ! 素晴らしいではないか! これだけつわものが揃えば、わしの稽古相手には困らんぞ!」


「バカ言え! 全員素人だぞ! 誰がこの40人を一から教えるんだよ!」


「部室に入りきらないよぉ……っ! 道場どうしよう! 予算はどうしよう!」


歓喜に沸く極黒の魔王と、明日からの現実(40人の初心者の指導とマネジメント)に絶望する主将カップル。

色々と頑張りすぎた結果、合気武道同好会は無事に『合気武道部』へと昇格を果たしたものの、持子たち三人の前には「40人のひよっこ達をまとめる」という、また新たな、そして騒がしい試練が待ち受けているのであった。


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