『トップモデルですが、部員が足りません』
放課後。少し埃っぽい、かなり狭い『合気武道同好会』の部室にて。
パイプ椅子にドカッと腰を下ろした持子は、腕を組んで傲岸不遜な笑みを浮かべた。
「ふはははっ! さあ、新入生獲得に向けた『合気武道同好会・存亡を懸けた軍議』を始めるぞ!」
その正面には、今年から主将を務める千手(女子)と、部員の森(男子)が真剣な面持ちで座っている。現在、部員はこの三年生三人だけ。五人集めなければ、念願の『部』への昇格どころか、同好会自体が消滅してしまうという絶体絶命の危機だ。
「まずは現状の確認だ。千手、森よ。去年の新入生勧誘は、一体どうやっておったのだ? 何か引き継ぎの資料などはあるのか?」
持子が尋ねると、千手と森はサッと目を逸らし、気まずそうに天井を見上げた。
「えっと……去年のポスター作りも、ビラ配りの手配も、体験入部のスケジュール調整も……」
「ぜ、全部、卒業した岩田先輩が一人で徹夜でやってくれてたんだ……。俺たち、言われた通りに動いてただけで……」
「き、貴様ら……っ! 見事なまでのポンコツではないか!!」
岩田先輩の偉大すぎる背中と、自分たちの無計画さに頭を抱える三人。春休みにイチャイチャしていたツケが、ここに来て重くのしかかっていた。
「ええい、嘆いていても始まらん! ゼロから策を練るぞ! まずは王道の『チラシ勧誘作戦』だ!」
持子がホワイトボードをバンッと叩く。
「でも持子、ただ文字を書いただけのチラシじゃ、今の新入生は受け取ってすらくれないわよ?」
「ふん、誰に向かって口を聞いておる! ここに世界的なトップモデルがいるではないか! 名付けて『持子広告作戦』だ!」
持子は自身の美しい顔をビシッと指差した。
「世界的ブランド『リュクス・アンペリアル』のメインビジュアルを飾ったこの絶世の美少女が、道着姿で微笑むポスターとチラシを大量に刷るのだ! 『トップモデルの美の秘訣は、合気武道にあり!』とでも書いておけば、ミーハーな新入生が群がってくること間違いなしだぞ!」
「おおおっ! それはすげえ! 今の持子なら、宣伝効果は億クラスだぞ!」
「ナイスアイデア! さっそく写真部のツテで印刷してもらおう!」
圧倒的な知名度の暴力(モデル特権)を使った作戦に、部室の空気が一気に明るくなる。
「よし! 次は実力行使、『演武の披露』だ! 体育館で行われる部活動紹介のステージで、わしらの華麗な技を見せつけてやるのだ!」
「演武か! いいね、俺と千手で基本の型を見せて、最後に持子が大技を決めるってのはどうだ?」
「うむ! わしの神速の体捌きと、極黒の魔力……げふんげふん、気迫を込めた『四方投げ』で、派手にしぶん投げような!」
「ま、待って持子! 持子の技、ガチの『殺人術』っぽくなるから手加減してね!? 新入生がドン引きして逃げちゃうから!」
「お前らもだろうが!」
千手が慌ててストップをかける。持子の規格外の身体能力をそのまま見せれば、武道というより『特撮の戦闘シーン』になってしまうからだ。
「むぅ、仕方ない。抑えてやろう。……して、他にはないか? もしチラシや演武で興味を惹けなかった場合の、確実な裏の手が」
持子は顎に手を当て、軍師のような鋭い(しかし絶望的に頭が悪い)目つきで唸った。
「うーん……合気武道の精神性とか、護身術として役立つとか……?」
「甘いぞ千手! そんな地味なアピールで現代の若者が動くか! もっと人間の根源的な欲望を刺激するのだ!」
持子はドンッと机を叩き、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「最終兵器『持子誘惑作戦』だ!」
「ゆ、誘惑!?」
「うむ! わしの絶世の美貌と色気で、純情な新入生(男女問わず)に甘く囁きかけ、強引に入部届にハンコを押させるのだ! そして千手、貴様も巻き込むぞ!」
「えええっ!? 私も!?」
「当然だ! お前もなかなかの器量良しだからな! 二人の美女による甘いハニートラップで、新入生の理性をメルトダウンさせて絡め取るのだ! ふはははっ、完璧な軍略よ!」
前世が董卓(男)なだけあって、発想が完全に『悪代官のそれ』である。
「だ、ダメだ!!」
その時、森がバンッと立ち上がり、千手を庇うように前に出た。
「千手の色仕掛けなんて、他の男(新入生)に見せられるか! ハニートラップなんて絶対に禁止だ!」
「えへへ……森くんっ、私のために怒ってくれてるの……?///」
「あ、当たり前だろ! お前は俺の……その、大事な……///」
部室の空気が、突如としてピンク色の甘い空間へと変貌する。
「ええい! この緊急事態にイチャイチャするな貴様らぁぁぁッ!!」
持子の怒声が響き渡る。
しかし、これで方針は固まった。
世界的モデルを起用した『チラシ広告作戦』。
体育館での『演武披露』。
そして、ギリギリのラインを攻める『持子の単独・誘惑作戦』。
「よし! 軍略は決まった! 明日の新入生歓迎会、絶対に五人の部員をもぎ取るぞ!!」
「「おーっ!!」」
極黒の魔王と、色ボケした主将カップルによる、波乱の『新入生勧誘大作戦』が、いよいよ幕を開けようとしていた。




