番外編:影の密室と、三百年の愛憎(えっち)バトル 〜指先の交印
番外編:影の密室と、三百年の愛憎バトル 〜指先の交印〜
地獄の『仏蘭西・下道縦断の旅』の真っ最中。
車酔いで完全に廃人と化した魔王・持子が、後部座席で白目を剥いて気絶していた頃。
本多鮎の足元に広がる異空間――吸血鬼の元女王ルージュの『優雅な影のマイルーム』には、招かれざる訪問者が訪れていた。
「……はぁ。持子の罵倒がないと、どうにも退屈でね。少し運転を雪に代わってもらったよ」
絶世の金髪美女の姿となった真祖の吸血鬼、エティエンヌ(♀)である。
彼女(彼)は、優雅な手つきでソファに腰を下ろし、豊かな胸の谷間を強調するように足を組んだ。その向かい側で、ルージュはワナワナと肩を震わせていた。
「よくも……よくも、いけしゃあしゃあと此方の部屋へ足を踏み入れられましたわね、エティエンヌ様……いいえ、エティエンヌ!」
「おや、元夫に向かってずいぶんな口の利き方じゃないか、ヴィクトリア」
ルージュは深紅の瞳に涙を浮かべ、三百年間溜め込みに溜め込んだ鬱憤を爆発させた。
「当たり前に御座ります! 貴方、わたくしを冷たく暗い地下墓所に三百年も打ち捨てた挙句、巴里の裏社会の利のみをずっと貪り続けていたではありませんか! どれほど寂しく、どれほど下僕吸血鬼達の世話に難儀したか……!」
「ふん。お前は私の妻であり、血を分けた『下僕』だったんだぞ? 下僕が主君のためにすべてを捧げるのは当然の理だろう」
あまりにも傲慢な態度。――プツンッ。
ルージュの中で、かつての貴族令嬢としての矜持が弾けた。
「……今はもう、貴方の下僕などでは御座いませんわぁぁっ!!」
パァァァンッ!!
影の部屋に響く平手打ち。ルージュの渾身のビンタが、エティエンヌの美しい左頬に命中した。激昂するエティエンヌだったが、脳裏をよぎったのは魔王・持子の圧倒的な器。
(ここで殺せば、私は永遠に持子の足元にも及ばない……!)
エティエンヌは爪を収め、深く頭を下げた。「……すまなかった。私の間違いだ」
その初めての謝罪に、ルージュの怒りはあっさりと「寂しさ」への甘えに変わった。
「エ、エティエンヌ様ぁぁ……っ! 誠に寂しゅう御座いましたの……っ!」
ルージュは涙を流しながら、かつて愛した夫の胸へと飛び込んだ。だが、そこに待ち受けていたのは逞しい胸板ではなく、エティエンヌ(♀)の規格外に柔らかな『双丘』だった。
(……ちょっとお待ちになって。わたくしより、圧倒的に形が良くて絶世の美女ではありませんの!?)
女としてのプライドがズタズタになりかける。だが、ルージュは気づいた。今のエティエンヌは、持子に屈服した「受け」の身体であることを。
「ふふっ……エティエンヌ様。三百年の空白、たっぷりと埋め合わせをしていただきませんこと? わたくしが、いぃ〜っぱい、気持ちよくして差し上げますわ♡」
「ほ、ほう……? 女の身体での愛の営み、お前相手に試してみるのも一興だ」
影の密室、血の雫に溺れる
「ああっ……! ヴィクトリア、お前のその指先……魔力の流し込み方が、たまらない……ッ!」
ルージュは魔力を帯びた指先で、エティエンヌの柔肌を執拗になぞり上げた。かつては冷酷な支配者だった真祖が、今やベッドの上で無様に腰を震わせている。
だが、ルージュの攻勢はそれだけでは終わらない。彼女は鋭い爪先で、己の白皙の指先に小さな傷をつけた。
「エティエンヌ様、ご覧なさいませ。わたくしの……三百年分、貴方を想い焦がれた熱き血を」
「っ、ヴィクトリア……お前、それは……」
ルージュは滴る自身の鮮血を、エティエンヌの喉元から豊かな胸元にかけて、ゆっくりと、儀式のように塗り広げていく。吸血鬼の血は、それ自体が濃厚な魔力の塊。肌に触れるだけで、エティエンヌの身体は未知の熱に浮かされた。
「ひ、あぁっ……! お前の血が、肌に触れるだけで……頭が、おかしくなりそうだ……っ!」
「ふふふ。次は貴方の番に御座りますわ」
ルージュはエティエンヌの指先をも優しく割り、そこから溢れる真祖の血を、己の指で掬い取った。そして、互いの血を混ぜ合わせるように、エティエンヌの最も敏感な場所に塗りつけたのだ。
「あ、あぁぁぁっ! なんだこれ……お前の魔力と、私の魔力が……中で、混ざり合って……っ!!」
「吸血などという野蛮なことは致しませんわ。ただ、斯様に互いの命を分かち合い……貴方を、わたくしの色で染め上げる。これこそが、真の征服だとは思いませぬか?」
ルージュは血と魔力が混ざり合う、熱く濡れた場所を執拗に愛撫した。血を媒介にして、ルージュの「悦び」とエティエンヌの「屈辱」が直接脳髄へと流れ込み、増幅されていく。
「い、いく……っ! 私、もう……ヴィクトリアの指がないと、生きていけない……っ!」
「ふふふ、もっと鳴きなさいませ! かつての王が、一介の女に成り果てて悦ぶ様……実に、実に愛らしゅう御座いますわ!」
ルージュが血の雫と共に強烈な魔力の波動を送り込むと、エティエンヌは背中を弓なりに反らせ、白目を剥いて派手な絶頂を迎えた。
「はぁっ……はぁっ……。ふふふっ、わたくしの……完全勝利に御座りますわ……」
気絶し、ドロドロに蕩けた金髪美女を抱きかかえ、ルージュは勝ち誇った笑みを浮かべた。
300年の恨みは、かつての夫を「最高のオンナ」へと堕とし、その命までも支配することで、完全に清算されたのである。




