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『魔王様、下道九百キロは聞いてない!〜南仏発パリ凱旋門、地獄の田舎町縛りロード〜』

第十九章:『魔王様、下道九百キロは聞いてない!〜南仏発パリ凱旋門、地獄の田舎町縛りロード〜』


南仏の眩しい太陽が降り注ぐ、最高級リゾートホテルのエントランス前。

そこに用意されたのは、いかにも現地らしい小ぶりなフランス製のマニュアル車だった。お世辞にも車内が広いとは言えないその大衆車を前に、魔王の御一行は出発の準備を進めていた。


「おいルージュ、これもしまっておけ!」


「……Ouiはい


持子と鮎が、スーツケースから撮影機材、果ては道中のおやつに至るまで、すべての荷物をルージュが潜む影の中の「荷物置きマイルーム」へと情け容赦なく次々と放り込んでいく。300年ぶりに地上へ引きずり出された吸血鬼の女王は、すっかり便利な四次元ポケット兼お荷物持ちとして扱われていた。

荷物の積載(物理的な丸投げ)が完了すると、いよいよオープニングの撮影である。

車の前に並んで立つのは、ジャージ姿でふんぞり返る魔王・恋問持子と、秘薬によって「絶世の金髪美女」へと変貌を遂げた真祖の吸血鬼・エティエンヌ(♀)の二人だ。


「いいわね、鮎。カメラ回して」


「はい、雪さん! ばっちり持子様のお顔にフォーカス合ってます!」


カメラ担当(嬉野D)のポジションについた鮎が録画ボタンを押し、鬼プロデューサー(藤村D)役の雪が画面外から鋭い視線を送る。


「エティエンヌ、あんたが進行ミスターよ。持子に合わせてキューを出しなさい」


「ふふっ……承知した。ああ、この私が愛しの持子と共にテレビの企画を……胸が高鳴るな」


エティエンヌは恍惚とした表情で頬を染めながらも、カメラに向かってビシッとポーズを決めた。


「いくぞ、持子。せーのっ!」


「「『仏蘭西フランス水曜どうでしょう』!!」」


異国の地で、極東のローカル番組のタイトルが声高らかに響き渡る。

完璧なタイトルコールを決めた後、ミスター役のエティエンヌが、雪から渡されたカンペを恭しく読み上げ始めた。


「本日の企画を発表する! 我々はこの南仏のコート・ダジュールを出発し、一路パリの凱旋門を目指す! その距離、約九百キロ!」


「おおっ、九百キロ! なかなかの長旅ではないか!」


持子が腕組みをして満足げに頷く。しかし、エティエンヌの言葉には続きがあった。


「ただし! 移動手段はこのマニュアル車のみ。さらに、高速道路は一切禁止の『下道と田舎町縛り』で縦断する! 名付けて『仏蘭西・下道縦断の旅』だ!」


「…………は?」


持子の笑顔がピシリと凍りついた。


「ちょ、待て! 九百キロを下道!? しかもこの狭い車で!? 凱旋門に二日間で行けると思っておるのだ! わしはただ、優雅にサイコロを振りたかっただけで……」


「うるさい、いくよ!!」


持子のぼやきを叩き斬るように、画面外から雪の怒声が飛んだ。


「あんたがやりたいって言い出したんでしょ! ほら、さっさと車に乗った乗った!」


有無を言わさぬ雪の圧力に押し負け、持子たちは逃げるように車内へと押し込まれた。

かくして、女体化ドM吸血鬼の運転による、地獄のロードムービーが幕を開けたのである。


***


「出発進行ー! さらば南仏、待ってろパリ!」



「ふふふっ、持子の命を乗せて走るドライブ……最高のご褒美だ!」


出発から一時間。

車内は活気に満ちていた。後部座席で窓の外の美しいフランスの田園風景を指差してはしゃぐ持子と、ひたすら嬉しそうにマニュアル車のギアをガチャガチャと切り替えるエティエンヌ。

しかし、その元気な姿は、まさに『どうでしょう』における「最初の数時間だけの魔法」でしかない。

出発から三時間経過。


「…………」


「…………」


車内を、重苦しい沈黙が支配していた。

変わり映えのしない延々と続く田舎道。ガタガタと揺れるサスペンション。そして何より、狭い車内で身動きが取れないという疲労感が、確実にタレント二人の体力を削り取っていた。持子は後部座席の窓に頭を預け、虚ろな目で外を眺めている。


「……ちょっと、タレント二人! 喋りなさいよ!」


後部座席の隣に座る藤村D(雪)から、容赦のない檄が飛んだ。


「あんたたち、さっきから一言も発してないじゃない! ここ、カメラ回ってんのよ! 笑わせろ! 尺を持たせろ!」


「む、無茶を言うな雪ぃ……」


持子がげっそりとした顔で抗議する。


「景色はずーっと麦畑だし、ケツは痛いし……。そもそも、わしは腹が減ったのだ。昼飯はどうなっておる、昼飯は!」


雪はただ微笑んだ。

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