第3話 猫化
「尊…貴君は、ずっと私に味方してくれるか…?」
まだ、出会ったばかりの頃のマリィだ。
今とは違い、黒髪が腰まで長い。
儚くて、ちょっと後ろからつつくだけで
粉々になって壊れてしまいそうな危うさを持った…
目が覚めると、俺は路上で寝転がっていた。
雨が降っていて、身体がずぶ濡れだ。
俺は昔の夢を見ていたようだ。
そこで、ズキズキと頭痛がする事に気付く。
俺はさっきまでの出来事を思い出した。
立ち上がろうとしたら、バランスを崩してこけてしまった。
「んだ、何か身体がおかしい…」
声を出したはずだった。
「にゃんだ…ナオンオン…」
ん?今、俺なんつった?
「アオン、アオン」
はぁ!?
胸騒ぎがする。
俺は、自分の姿を水たまりに映してみた。
どうなってんだーーーーーーー!!?
「フシャアアアーーーーーーー!!?」
俺は水たまりを"前足"で引っ掻いた。
水たまりは弾けて波が立ったが、
しばらくして波がおさまった。
そして、再び水たまりは俺の姿を映し出す。
"どうなってんだてめぇら"
制御室に呼びかけてみたが、何の反応もない。
頭の中で"Hello"と言い、その後
俺の頭の中の声は"Good bye"と言うまで制御室に届くと言われたが。
"おいおい、まさか失敗したんじゃねぇだろうな…"
その数秒後、はちきれんばかりの笑い声が俺の頭の中で響いた。
"ダァーハッハッハ!!!にゃんだ、ナオンナオン!!"
マリィと制御室の山田、ミカエルの笑い声だ。
なるほど。直接頭に声が響いてる。
それにしてもムカつく笑い声だ。
”貴君も可愛くなったもんじゃのう”
マリィのにやけた面が浮かんできた。
顔まで脳内に浮かぶ機能なんてあったっけ。
"おっ、長田さんが、にゃんにゃんになって…にゃんにゃん言葉を…プッ!!"
"おい。マジで今から戻ってブチ殺すぞ山田"
こいつら、最初から知ってやがったな。
"何で俺だけ…泣"
"まぁ待て。落ち着いて今から私の言う事を聞け。"
"こんな身体でどうしろってんだよ。何の実験だこれは?"
"実験?貴君のような優秀な仲間を私が実験台にすると、お前は思っているのか?"
"じゃあ、何なんだよ!"
その時、目の前に傘を差した小学生の集団が通った。
「あ、猫だ!」
小学生の集団が一斉にこっちを見て駆け寄ってくる。
俺は慣れない身体で必死に走り、住宅の間をすり抜けて逃げた。
屋根のある場所を見つけ、室外機の上に上がった。
"落ち着け。私が貴君に任命した事は、兼近英行のボディガードだろう"
"あぁ。この身体で、ガキを守ったらいいんだろ?"
"馬鹿馬鹿しい。
この身体で、どうやって何度も死にかけるガキやガキの家族に危機を伝え、守れと言うんだ。"
"長田尊。"
ミカエルだ。フルネームで俺の名を呼ぶのは奴だけだ。
"あ?俺の今思ってる事はダダ洩れなんだろ?"
"これは重要な任務だ。人類が存続の危機を脱するかどうかは、お前にかかっているんだぞ"
ミカエルの抑揚のない声が響く。
"…本気なのかよ。"
未だ半信半疑の俺に、
間髪入れずマリィが言う。
"当たり前だ。貴君が私の事を裏切ったとしても、私は貴君を裏切らない"
"…そうかもな。俺も裏切らねえよ。"
それから、俺はマリィから話を聞いた。