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第80話 『俺、画面の中の推しにガチ恋されてる疑惑』

──昼休み。


俺・久慈川幸喜は、ただサンドイッチを食べていただけだった。


ただ、それだけなのに。


 


「んーっ、やっぱり、このたまごサンド……おいしいですね」


 


そう隣でつぶやくのは、姫崎るりあ。

日本が誇る高校生声優にして、俺の作品のメインヒロイン役を演じてくれている、まさに“画面の中の推し”。


 


……の、実物が。


 


俺の隣で、ほっぺにパンくずつけながら微笑んでいる。


 


「……あの、サンドイッチ、もう一口どうですか?」


 


「え、え、いや、それは……ええええええええ!? いいの!?」


 


「はいっ♪ あなただから♥」


 


──これがVRなら、間違いなくバグかチート案件である。


 


 


 ***


 


当然、教室は騒然としていた。


男子生徒たちが休み時間のたびに群がってくる中で、るりあは明確に**“俺だけ”**にターゲットを絞って接してきた。


 


「久慈川くんって……その、すごく優しいですね」

「クラスの雰囲気も落ち着いてて、こういう場所に来られて、すごく嬉しいです」

「……それに、あなたの“セリフの癖”、私すごく好きなんです」


 


俺(癖って、どの!? どのセリフ!? “押し倒したら、俺が壊れる”のとことか!?)


 


だが──その空気は、別の方向から急速に冷却されていた。


 


 


 ***


 


「……ねぇ、今の、聞こえた?」


 


「“あなたのセリフの癖が好き”って……言ったよね?」


 


「“一口どうですか?”って、あれ何? 夫婦か何かの儀式?」


 


──背後からの圧。


 


そう、それは俺の生活を包囲する“公式ヒロインズ”。


 


・歩美(幼なじみ、嫉妬の火柱)

・舞香(元お嬢様、尊厳破壊警報)

・玲奈(地味後輩、沈黙による殺意)

・幸香(妹、笑顔で首絞め案提案中)


 


歩美「まさか、“あの声優が主人公にガチ恋”とかじゃないよね?」


 


舞香「同じクラスになっただけで“人妻ムーブ”かますとか、強者ですわね……」


 


玲奈「いっそ一線を越えてくれれば、“制裁権”発動できますのに……」


 


幸香「じゃあ、夜の添い寝は“順番制”に戻すべきだね♥」


 


(戻すの!? またあの戦場生活に!?)


 


 


 ***


 


午後の授業。


教師が説明する中、俺は必死にノートを取っていたが──その横で。


 


「……この漢字、ちょっと難しいですね……」


 


と、るりあが俺の腕にそっと触れながら寄りかかってきた。


 


「こ、このっ、そんな近づいたら……!」


 


「ふふ。原作の“第6話の距離感”……思い出しちゃって」


 


「……!」


 


──それは、俺しか知らないネーム案の没台詞だった。


 


つまり、彼女はガチで、俺=原作者であることを知っている。


 


(なぜだ!? どこでバレた!? 編集か!? それとも……)


 


その時、耳元に小さく囁かれた。


 


「ねえ、久慈川くん。私は、ヒロインを演じるだけじゃなくて……

“あなたが描く、ヒロインそのもの”になりたいの。ダメ……?」


 


 


 ***


 


放課後。


昇降口で靴を履き替えていると、背後から“足音のない”気配が忍び寄る。


 


「……浮かれてるみたいですね」


 


ヒュッ!


 


歩美のローファーが俺の脇腹にヒット。


 


「へぶっ!?」


 


「ねぇこうき。……もしかして、“推しに告られてうれしい”とか思ってない?」


 


「いや、あの、その、違……っ!」


 


「じゃあ、これはなに?」


 


スマホの画面に映っていたのは、

昼休みにるりあが俺の口にサンドイッチを押し込んでる瞬間の写真だった。


 


──そしてそれは、すでにクラスのLINEグループで**“#推しと間男”タグ付きで拡散中**。


 


 


 ***


 


──その夜。


俺は部屋で震えていた。


隣では妹が、録音した“昼間のるりあのセリフ集”をリピート再生していた。


 


「“あなたのセリフ、好きなんです”」

「“あなたと、また一緒に収録したい”」

「“原作の彼女みたいになれたら……”」


 


妹・幸香は、うっとりと笑って言った。


 


「うん♥ 完全にガチ恋ですね。お兄ちゃん、今こそ“声の誘惑”に落ちる時だよ♥」


 


「落ちてたまるかあああああああ!!」


 


──だが俺は、思ってしまったのだ。


 


(あの声が、本気で俺を呼んでいたとしたら……)


 


(俺は、どこまで抗えるんだ?)

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