第73話 『ご近所騒然──“実家でお風呂覗かれました”事件』
──久慈川家・午後六時。
風呂場の湯気が立ちこめる中、歩美は静かに体を沈めていた。
(はぁぁ~~……生き返るぅ……)
今日の一日は長かった。
母親の前での正座尋問。
“友達装い”会議。
妹の狂気報告書未遂。
そして、母親の「選んでやれ」爆弾。
心も体も限界だった。
そんなとき、田舎の風呂は心を癒してくれる――はずだった。
「……歩美~? タオルある?」
と、ノックもなくドアがゆっくり開いた。
***
時間は数分前にさかのぼる。
俺は洗面所でタオルを探していた。
風呂場の横には、俺が昔使ってた棚。タオルのストックはそこにある。
(歩美、まだ入ってるのかな……)
風呂場のドアを見た。
鍵の表示は「かかってない」。
(……もう上がったのか?)
ガラッ――
「きゃああああああああああああああああああああ!!!???」
***
そこには、いた。
全裸で湯船から上がった直後、タオルで胸元を押さえた状態の幼なじみが。
「あ、あああ、あ、あ……ご、ごめ……っ」
「──死ねええええええええええええ!!」
全力で投げつけられた湯桶が俺の顔面にヒット。
その瞬間、なぜか後方から別の声が。
「……あんたら、なにしてんの?」
母・静江、登場。
***
静江の視界にはこう映った。
・風呂場に全裸の少女(歩美)
・その前で鼻血を出して倒れこむ息子(幸喜)
・そして息子の後頭部を支えるように座り込む玲奈
「……説明して?」
誰も何も言えなかった。
***
翌朝。
久慈川家の井戸端会議所──すなわち、ご近所の縁側ネットワークで、事件は拡散されていた。
「奥さんとこの坊や、風呂場で“えっちな事故”起こしたらしいよ?」
「えーやだぁ♥」
「いやだじゃねぇ、母親と一緒に風呂乱入したって噂だぞ」
「えっそれ地獄では?」
母・静江、頭を抱える。
(うちの息子、モテすぎよりも“事故りすぎ”やろ……!)
***
リビングにて。
歩美はまだ頬を膨らませたまま、口をきいてくれない。
「な、なあ、ほんとに事故だったんだよ……」
「……鍵、かかってなかったって言い訳、三回目だから」
「いや、だってかかってなかったし……」
「今度同じことしたら、パンツに五寸釘打つからね」
(そこまで言う!?)
妹・幸香がにこにことフォローを入れる。
「お兄ちゃん♥ うちの風呂、鍵ゆるいの有名だもんね~。だから次から“女子のときは見張り役”するね♪」
「それお前が一番危険なんだよ!!」
玲奈は静かに呟く。
「事故って……わりと良いイベントですよね……回想シーンにぴったりで……」
「だから脚本脳やめろっての!!」
***
夜。
母親が、ふと呟いた。
「なぁ、幸喜。アンタ、あの子たちの“全部”受け止められるんか?」
俺は、答えられなかった。
なにせ今日、風呂場に“全部”ぶち当たったばかりなのだから――




