第72話 『母、疑念の眼差し──“うちの息子、モテすぎでは?”』
──久慈川家・夜。
ご飯の時間が終わり、全員がそれぞれ自室や縁側に散っていったあと。
台所にひとり立つ母・静江の眼差しは、すでに尋問モードへと切り替わっていた。
(……あの女たち、明らかに“息子を狙ってる”やろ……)
茶碗を洗いながら、静江は心の中でひとり呟く。
(しかも“幼なじみ・転校生・地味後輩・ヤバ妹”という定番構成……ラノベか!!)
正確すぎる分類により、母の中で危険信号が点灯していた。
そして──その頃、リビングではヒロインたちによる“作戦会議”が始まっていた。
***
「……つまり、うちの母親に“誰も彼女じゃないです”って押し通す。それでいこう」
幸喜は神妙な顔で言い切った。
歩美「それ、無理あるよ。もう完全に“夜這いローテ組”ってバレてるじゃん」
舞香「むしろ、“全員彼女です”の方が誠実では?」
玲奈「黙ってれば、仏壇が全部見てくれてます……」
「ややこしい宗教持ち込むなぁあああ!!」
だが最も危険だったのは、やはり──
「ふふ、安心して。兄のハーレム合宿記録、まとめてきたから♥」
妹・幸香が、A4サイズのクリアファイルを差し出した。
中身は──
・添い寝シフト表
・混浴実績メモ
・兄の体調変化と快感度数グラフ
・“兄のED克服までの記録”写真付き(風呂上がり・布団・耳かき・膝枕 etc)
「……お前、なに研究してんの!?」
「兄の“愛され力”だよ♥」
その時だった。
「……何をこそこそやってんの?」
母・静江、登場。
彼女の眼は鋭く、何もかも見透かしているようだった。
***
「なぁ、アンタら」
全員が正座したリビング。
母は腕を組んで立っていた。
「──うちの息子、モテすぎじゃない?」
沈黙。
歩美が手を挙げた。
「こ、これはですね……その、全員“友達”でして……偶然一緒に合宿してたら、偶然法事が重なって……その、偶然です!」
「偶然で、兄の添い寝スケジュールが回るか?」
静江の一言で全滅した。
舞香「仮に“友人関係”で通すにしても、同衾記録は言い訳できませんわね……」
玲奈「お布団の配置……仏壇から見えてました……」
「……だから宗教やめてくれってば!!」
静江はため息をついた。
「まあ、あんたたちが“本気”なのはわかった」
全員がピクッと反応する。
「だからこそ聞くけど──うちの息子のどこがええの?」
それは、“母親の本音”だった。
──この女たち、息子のどこに惹かれてる?
──見た目か? 優しさか? それとも……。
歩美は言った。
「一緒にいると……居場所みたいに思えるんです」
舞香は続ける。
「不器用ですけど、見ていて飽きませんの。まるで一冊のラノベみたいですわ」
玲奈はうつむきながら、小さく。
「私……この人に、“助けられた記憶”があるんです……」
静江は、ゆっくりと息を吐いた。
「──なるほど。みんな、なかなか重いなぁ」
幸香が笑った。
「でしょ? お兄ちゃん、全員に恋される運命なんだよ♥」
(それが一番の地雷だっつってんだろお前ぇぇぇ!!)
***
その夜。
母と2人、縁側に座る時間が訪れた。
「母さん……あの子たち、変だけど悪い子じゃないから……」
「わかってるよ」
静江は煙草を一本取り出して火を点けた。
「──ただな。母親としては、“誰かひとり選んでやってほしい”って、そう思っちゃうわけよ」
俺は何も言えなかった。
「でも、アンタが苦しそうにしてんなら、母さんはもう黙っとく。選ぶって、簡単じゃないから」
静江は立ち上がった。
「──だから、せめて全員“傷つけずに済む道”があるなら、探してみな」
月明かりの中、俺の心に深く刻まれる言葉だった。
***
【翌朝】
妹・幸香が、昨夜の“ハーレム合宿報告書”を燃やしていた。
「お兄ちゃんには、また新しいページを書いてほしいから♥」
焚き火の火にくべられた“ED克服記録”。
──燃え上がるラブコメの過去。
でも、物語はまだ──続く。




