第67話 『夜這いの順番、間違えました』
──温泉合宿5日目、深夜。
旅館の畳の部屋、障子越しに月が差し込む。
俺・久慈川幸喜は、布団の中で緊張のあまり眠れずにいた。
というのも──
今夜の“添い寝ローテーション”は、**妹プロデュースの「公平制ハーレム運用計画」**により、
ヒロインたちが日替わりで俺と一緒に寝るという、常識の斜め上をいく制度になっていたからである。
「はぁ……今日は歩美の日、だよな……落ち着け俺……普通に寝るだけだ、何も起きるわけ──」
──ガラッ。
襖が開く音。
「お邪魔しまーす」
浴衣姿の歩美が、少しだけ恥じらいながら入ってきた。
「えへへ、今夜は……“一緒”だから」
ああ……なんて破壊力だ。
不安と期待がない交ぜになった、正統派幼なじみ系ヒロインの“夜這いスマイル”。
だが──その直後。
「……あれ? 歩美さん?」
もう一枚の襖が開いた。
現れたのは──磐城玲奈。
手には「今夜はわたしの番」と書かれたスケジュール表の写し。
「私、今日の分、確認しましたよ?」
歩美「は? いや、あたしが先って聞いて──」
玲奈「いえ、わたしは……このために……シャワー浴びて、下着も選んで──」
歩美「私だって気合い入れて……柔軟剤、こうきが好きなやつにしたのに!!」
玲奈「私の……はいてない……んですけど?」
歩美「えぐぅぅ!!?」
──修羅場は、寝る前から始まっていた。
***
【布団、上下からの侵略】
結果──
「こうき。私は頭側に入るから、そっちに移動して」
「じゃあ私は……足側からいくね。挟まれる形で♥」
「ま、待て! 俺はどこに寝ればいいんだよ!? ていうか“挟む”って何!? なんの罰ゲーム!?」
──だが、俺の抗議は無視された。
歩美は頭側から、すっと布団に潜り込み、
玲奈は足元から、するりと滑り込んできた。
そして──
「せーのっ!」
同時に、ぎゅっ。
「ちょ、ちょっと待って!? お腹の上に頭乗せるのやめ──」
「ひざで腰挟むのも危ないから!!」
「そこっ! 息できない! 息!!」
俺はまさかの、ひとり寝の布団で上下から抱きしめられる構図に陥っていた。
──左腕:歩美がギュウ。
──右脚:玲奈がスリスリ。
「こ、これは……理性が……酸欠で……溶け……」
「お兄ちゃん、ときめきセンサー、MAX♥」
どこからともなく妹・幸香の声が聞こえる。
(※おそらく天井裏)
「酸欠+ときめき暴走=“寸前爆発”反応ですね♥」
爆発て何だよ!?
***
【さらに追撃──“ささやき同時発動”】
歩美「こうき……今、すっごくドキドキしてるの、わかるよ」
玲奈「先輩の鼓動が、私の太ももに伝わってます……」
歩美「朝になったら、何か“変化”あるかもね……」
玲奈「……もしそうなったら、“責任”取ってくださいね?」
「ダメだ!!もう逃げる!!俺はこの布団から離脱する!!」
ガバッ!
──だが、動けなかった。
なぜなら、二人の太ももと腕力が、
絶妙な位置で俺を固定していたからである。
「ま、待って!! マジで誰か!! 誰か布団の外から助けてぇぇ!!」
襖の向こうから、妹の声。
「ダメだよ、お兄ちゃん♥ これは“男の責任”なんだから」
「意味がわからねえぇぇぇ!!」
***
【深夜2時・布団内限界突破】
俺はその後、2時間。
布団内で動けないまま、
ときめきセンサーと羞恥心と下腹部圧迫感のトリプルコンボにより、
ほぼ無言で悶え続けることになった。
翌朝──
歩美「おはよ、こうき……って、わぁ!?顔真っ青じゃん!!」
玲奈「心拍数が異常でしたね……救急車、呼びます?」
そして妹は記録表を取り出し、にっこり。
「お兄ちゃん、本日の**“圧死スコア”**は3.9ポイントでーす♥」
「その単語存在するなぁぁぁあ!!!」
──これは、青春の名を借りた、
恋と布団と圧力の物語。
俺は誓う。
(明日こそ……誰も布団に入ってくるな……!)
だが、明日の布団には3人が並んで潜り込むことを、
俺はまだ知らない──




