第66話 『混浴温泉──仕掛けられた“偶然”』
──茨城県某所、旅館の“貸切露天風呂”。
木漏れ日が揺れる湯面。
空は高く、白い湯気がふわりと舞う──
「ふぅ……ようやく、一人になれた……」
俺・久慈川幸喜は、
今日こそは平穏なひとときを味わいたいと、
朝イチで予約された“混浴貸切風呂”へやってきていた。
もちろん、混浴とはいえ、
時間帯予約制であり、基本は男女別。
(よし、誰も来てない……完璧だ)
タオルを巻き、ゆっくりと湯に身を沈める。
「……はぁ……天国……」
そう、これこそが理想の時間──
──だが。
ガラッ。
「お、お邪魔しまーす♪」
まず現れたのは、妹・幸香。
タオル一枚で、髪を結い、にこにこと入ってくる。
「えっ、お、お前……なんで……?」
「“偶然”予約が重なってたみたいで♥」
(偶然なわけあるかあああああ!!)
だがそれだけではなかった。
ガラッ。
「ちょっと、待ってよ幸香! 私が先に──って、あれ?」
歩美が入ってくる。
「こうき!? えっ、なにしてんの!?」
「俺のセリフだわ!!」
続いて、
「……あれ? あの、わたしも“混浴予約時間”で……」
玲奈が、湯気の向こうから登場。
彼女はなぜか泡風呂スタイルで、肩までしっかり湯に浸かっているが──
(泡が……不自然なくらい絶妙な場所にしか残ってない……!!)
「……そ、そんな……なぜ全員、同じ時間に……!?」
舞香も遅れて登場した。
「これはきっと、運命の偶然ですわ♥」
「嘘だァァァ!! これは計画的ラッキースケベだろうが!!」
***
【沈黙の“バスタオル事件”】
全員が湯に浸かった、5分後。
平静を装いつつ、
俺はタオルの端をぎゅっと握り、下半身をガードしていた。
ヒロインたちも、タオルや泡で防御態勢──だったのだが。
「きゃっ!?」
風が吹いた。
──ふわり。
舞香のバスタオルが、風にさらわれる。
「……っ!?」
一瞬の沈黙。
全員の視線が、湯の中の舞香の裸体へ──
だが舞香は、顔色ひとつ変えずにこう言った。
「どうやら……ここは“そういう流れ”のようですわね♥」
そして──
「きゃ、きゃああああっ!?!?!?」
バスタオル、滑る音。
歩美の、
玲奈の、
そして──妹・幸香のも。
“偶然”にしてはあまりに同時すぎる、全バスタオルロスト事件発生。
「…………」
湯の中で、みな息を呑む。
俺も、まばたきすら忘れていた。
(ま、マズい……これ、脳に焼き付く……!)
そして、誰よりも先に動いたのは──妹だった。
「ねえ、お兄ちゃん。今、どこ見てた?♥」
ぴくり。
(しまった、視線が舞香の……!)
その瞬間、全員の目線が、俺に一致。
「こうき……逃げられると思ってる?」
「さあ、“正妻の怒り”ってやつを、見せてあげる」
「先輩、覚悟……できてますよね?」
──湯気の中、
全員がにじり寄ってきた。
背中に岩場、前にヒロインたち。
完全に逃げ場なし。
俺は声をふりしぼる。
「た、助けて、混浴の神さまああああああ!!」
だが、神はいなかった。
ただ、湯気と熱気と、
あまりにも近い女体たちが──




