第65話 『兄のひざまくら席、争奪戦』
──温泉合宿4日目、午後。
浴衣姿でくつろぎながら、
広間に集った俺たちは、旅館の大型テレビでバラエティ番組を見ていた。
笑いと共に、
のどかな時間が流れる──……かに思えた。
だが、事件は唐突に。
「ねえ、そろそろ交代してよ、玲奈ちゃん」
歩美が声をかけた先、
そこには俺の頭をひざに乗せている玲奈の姿があった。
玲奈は穏やかな微笑を浮かべたまま、
髪を撫でながらこう言った。
「ダメです。今は“頭皮に愛を注ぐ時間”ですから」
「何そのスピリチュアル制度!?」
歩美が立ち上がる。
「わたしもやる! 私だって昔、こうきにいっぱいしてあげたもん!」
「待て、順番ってのが……!」
妹・幸香が唐突にホイッスルを鳴らした。
「はいっ! “兄のひざまくら席争奪戦”を開催しまーす♥」
「またお前かァァァァァ!!」
***
【ルール説明】
「これから、ひざまくらチャレンジを1人ずつ行ってもらいます。
兄の“ときめきリアクション”を測定して、最も反応した人が優勝です♥」
幸香が取り出したのは、ときめきセンサー(謎の電子機器)。
「ちなみに“生理的反応”も記録対象になります♥」
「待って!? 男子の尊厳が壊れるからやめて!!」
「この機械、下腹部の反応も察知するからね♥」
「ほんとにやめろォォォ!!」
だがもう、ヒロインたちはやる気満々だった。
***
【チャレンジャー①:袋田歩美】
「じゃ、いくわよ」
幼なじみの脚に頭を預ける。
ふわりと広がる香り──柑橘と湯けむりの残り香。
指先が、ゆっくり額をなぞる。
「昔から……こうしてあげてたよね。
宿題が終わらなくて、泣きそうな時とか……」
(やばい……優しさが……しみる……)
「お兄ちゃん、ときめきレベル1.3、下半身微動アリ。警告点滅」
「センサー正確すぎて怖ぇよ!!」
【チャレンジャー②:磐城玲奈】
「次、失礼します」
玲奈は無言で俺の頭を抱えるように包み、
ゆっくりとひざへ乗せる。
太もも、やわらか……いや、それ以前に、なにか温度がおかしい。
「今日は……少し、冷えてますね。温めてあげます」
両手で耳を包まれた。
鼓膜に響く、鼓動の音。
その向こうで、玲奈が囁く。
「……今日は、逃がしませんから」
(こ、こわい……! でもドキドキしてる俺がいる……!!)
「ときめきレベル2.0。下半身“急速成長曲線”突入!」
「やめろ! 言うな! センサー止めろォ!!」
【チャレンジャー③:舞香】
「さぁて、お次はこのわたくしの出番ですわね」
舞香は優雅に座ると、ふわりとスカートを整え、
まるで玉座に座るかのようにひざを差し出した。
「ほら、あなた。私の膝に甘えなさいな」
(これ絶対女王様属性じゃん……)
頭を乗せると、ふんわりとした柔らかさと、上品な香り。
手がそっと額を撫で──
「よしよし。今日はよく頑張りましたわね♥」
(なんで俺、“ご褒美の時間”受けてるんだ!?)
「ときめきレベル2.6。“臨界域”警告灯点滅!!」
「やばい!! マジでやばい!!」
妹・幸香がにやりと笑う。
「お兄ちゃん、そろそろ“生理的ピーク”来てるよね♥」
「その表現やめてぇぇ!!」
だが、センサーは正直だった。
ピコンピコンと鳴る音。
「下腹部脈動検知──反応、最大値接近」
「やばいやばいやばい!! これは──!」
俺は飛び起きた。
「ちょ、ちょっとトイレ行ってくるから!!」
全速力で部屋を飛び出す。
背後で妹が呟いた。
「うん、あれはほぼ“勃起バレ”直前だったね♥」
「聞こえてるゥゥゥ!!」
***
【後日報告】
最終得点(ときめき反応値)
1位:舞香(2.6pt)
2位:玲奈(2.0pt)
3位:歩美(1.3pt)
幸香「さて、明日は“添い寝ハグver.”に突入しまーす♥」
俺の青春は、ひざまくらでは終わらなかった。
スキンシップ地獄は、まだまだ続く。




