第64話 『洗濯物バトル──勝者だけがパンツを干せる』
──午前9時。
温泉合宿4日目、朝の空気は澄んでいた。
だが、俺の目の前に広がる光景は──
血で血を洗う布争奪戦(洗濯物干しver.)だった。
「ねぇ、ちょっと! それ私が先に取ったんだけど!!」
「うるさい、兄のパンツは血縁者の権利よ!」
「ご両人、落ち着いて。ここは一度、香りで判定しませんか?」
洗濯カゴの中身を囲むヒロインたち。
争点は──
“俺の今日の脱ぎたてパンツ”を、誰が干すか。
「……どんな争いだよ……」
脱衣所の隅で、俺は己の尊厳を静かに見送っていた。
***
きっかけは些細なことだった。
昨晩、温泉から戻ったあと、俺が脱いだ衣服一式をランドリーバスケットに入れ──
それを誰かが“勝手に回収”した。
そして今朝。
「お兄ちゃんの洗濯物、誰が干すかで“争奪戦”にしまーす♥」
妹・幸香が満面の笑みで宣言したのだ。
「パンツ干しは愛情の証! つまり“正妻ポイント”の獲得チャンス♥」
「どんな制度だよ!?」
だが、ヒロインたちの目は真剣だった。
歩美「昔から、こうきの洗濯物は私がやってきたのよ」
玲奈「私は……先輩の布、ずっと大切にしてきました」
舞香「わたくし、パンツ干しという行為に、身分の差は関係ないと知りましたわ」
(……いや、全員どうかしてるぞ!?)
***
【布地争奪戦、第一ラウンド:匂い鑑定】
「まずは、今日のパンツを嗅ぎ分けて、“兄成分”を最も感知できた人が干す、というのはどうですか?」
玲奈が提案したその瞬間、空気が凍った。
歩美「……あんた、自信あるの?」
玲奈「ええ。なにせ、先輩の洗いたてと使用済みの“移行段階”の香りを識別できますから」
舞香「それは犯罪者の域ですわね?」
だが玲奈は平然と、ビニールに入れられた俺のパンツを取り出した。
そして──鼻を近づけ、深く吸い込む。
「……うん、今日は……甘い香りがします」
「甘っ!? それってどういうことだよ!?」
「昨日の夕飯に入っていたデザートのメロンと、入浴後の柔軟剤。
それに……わずかに含まれる、お兄さん特有の成分──“微熱と恥じらいのフェロモン”ですね」
「なにその設定濃すぎる解説!?」
玲奈は頬を赤らめ、そっと手の甲でパンツを撫でる。
「これ……まだ、温かい」
「返せ!! そのパンツ今すぐ返せぇぇ!!」
***
【布地争奪戦、第二ラウンド:干し方プレゼン対決】
「では、誰が最も“美しく干せるか”で決めるのはどうかしら?」
舞香が名乗りを上げた。
「パンツというのは、ただ吊るせばよいというものではありません。
適切な風通し、日の角度、さらには視線効果を考慮しないと──」
そう言いながら彼女はタオルを畳み、
物干し竿にパンツをかけるデモンストレーションを披露。
「ご覧ください、この“中心揃え美学”。干されたパンツが芸術に昇華しますわ」
歩美「なにその貴族仕込みのパンツ干し……」
だが、ここで幸香が横から──
「私、今朝の段階で干すポジション、予約してあるんだけど?」
「ずるい!? そんな制度あったの!?」
「ないけど、私が決めた♥」
歩美「それを“独裁”っていうのよ!!」
***
【第三ラウンド:最終決戦──兄に選ばせる】
ついに、ヒロイン全員が振り向く。
「じゃあ──こうきに決めてもらおうじゃない」
「えっ!? 俺が!? 自分のパンツを誰に干してもらうか、ってこと!?」
「当然じゃない!」
「選んだら……その子のポイントが上がるわよ♥」
全員が一斉に俺を見つめる。
無言の圧力。パンツ以上に重い空気。
(ま、待て……これは地雷だ……選んだ瞬間、他の誰かが暴走するぞ……)
「……い、いや、これは……その……自分で干すよ!? 自立って大事だし!!」
すると妹が、ポケットからスプレーを取り出した。
「じゃあ、“冷凍保存”コースに入れとくね♥」
「そんな凍結保存されるパンツ嫌だァァァァ!!」
俺は叫びながら、全力でパンツを奪取。
その後、自ら物干し竿にかけた。
風に揺れる俺のトランクス。
ヒロインたちの視線が、パンツと共に空を仰いでいた。
「……お兄ちゃんの、パンツの風景って……尊いね♥」
「やっぱこの家、終わってる!!」
──パンツを干すという行為が、
こんなにも重く、激しく、エロくなるとは。
俺は再び誓った。
(……明日こそ、普通の一日を……)
その願いが叶わぬことを、まだ知らずに。




