第63話 『ラッキースケベ強化月間、発令』
──茨城某温泉旅館、三日目の朝。
俺は、すっかり馴染んだ畳の上で、膝を抱えて震えていた。
「……無理だ……もう理性のHPがゼロなんだ……」
布団地獄。
風呂場罠。
下着攻撃。
生地感の洪水。
俺の体力も、精神力も、男子力も限界だった。
だが、そのとき──
「はいっ! 本日から、“ラッキースケベ強化月間”を開催しまーす♥」
元気な声と共に現れたのは、妹・久慈川幸香。
手にはなぜかホイッスルとチェックリストが。
「な、なんだそれ……またお前か……」
「お兄ちゃんの“ときめき反応”を定量的に測るための、愛の観察強化プログラム♥」
「なんだその“合法的に煽情するぞ宣言”は……!」
「ルールは簡単。“日常の中にラッキースケベを仕込んで、お兄ちゃんが鼻血出したら1ポイント♥”」
「バイオレンスかつセンシティブな指標やめろ!!」
***
【10:00 第一試験:うなじ編】
「先手はわたしよ!」
名乗りを上げたのは、幼なじみ・袋田歩美。
俺が執筆中の背後で、すっと髪を束ね──
「……どう? これ、“女”を意識する?」
ちらりと見えたうなじ。
汗で張り付いた白肌と、微かに香る柑橘系のシャンプー。
(や、やば……っ)
「お兄ちゃん、赤面3秒キープ。微反応あり、ポイント0.8です♥」
「えっ、なにこれ数値化されてんの!? どこで見てんの!?」
「隠しカメラ、布団の上に設置済み~♥」
「やめろおおおおおお!!」
***
【12:00 第二試験:水滴演出】
昼食後、リビングでくつろいでいた俺の元へ、
汗をかいた状態で現れたのは──図書委員・磐城玲奈。
「……先輩、あの……のど乾きませんか?」
玲奈は水差しを持って座り、
わざとらしく冷たい水を飲みながら──
「ふぅ……暑いですね……」
胸元をパタパタ仰ぎ、谷間に水滴を垂らす。
「ッ……!!???」
(な、なんでそんなピンポイントで落ちる!?)
「お兄ちゃん、呼吸停止まで2.1秒。反応度1.2ポイント♥」
「どこに誰が隠れてるんだこの旅館!?」
「心のセンサーが導いた正義だよ♥」
正義がそんな形をしてたまるか!!
***
【14:00 第三試験:耳元ささやき編】
俺が縁側で原稿チェックしていると、
背後からそっと足音が──
「……先輩」
振り向くと、そこには舞香が。
いつもの気品ある笑みのまま、唐突に──
「あなたが寝ているとき、私はずっと見つめてましたのよ?」
「な、な、な──!?」
舞香は微笑んだまま、さらに近づく。
「ふふ……右目のまつげが少し長いこと、昨日気づきましたわ。
あと、寝息がふわっと甘くて……少しだけ、好きになってしまいそうですわね」
(いや、もう、完全に好かれてるじゃんこれ!!)
「お兄ちゃん、過呼吸未遂・腰抜け発動。2.5ポイントでーす♥」
幸香がどこからともなく登場し、白板に“2.5”と記入。
「舞香さん、現在トップです」
「当然ですわ。だって──」
舞香は、ぐいと俺の胸元に顔を近づけて、囁いた。
「……あなた、わたくしの胸元を、さっき見てましたわね?」
「な──!?」
「確認します。“何カップだと思いました?”」
「それは詰問だろ!?」
「審問タイム突入ですわ♥」
俺は畳の上で、再び正座。
妹がすぐそばで実況。
「さあ、次は“羞恥度検査”に入りまーす♥」
──地獄だ。
この妹、合法の名の下にすべてのエロを許している。
***
【夜 得点発表】
1位:舞香(5.8pt)
2位:玲奈(4.2pt)
3位:歩美(3.6pt)
特別賞:妹(計測と誘導ポイントで3.0pt加算)
「さて、明日からは“スキンシップ編”に入ります」
妹が嬉しそうに語る。
「お兄ちゃんが“ときめいた数”だけ、ハーレムは豊かになるの♥」
その言葉の裏に、
誰もが気づかない“爆弾”があった。
それは──
ラッキースケベは、感情の戦争でもあるということ。
そして、俺はまだ知らない。
明日、もっと深刻な地獄がやってくることを──




