第61話 『朝の枕元は、女の戦場』
──朝。
静寂。
ほんの少しだけ、ぬるい空気。
茨城某所の温泉旅館、恋愛合宿二日目の朝。
目覚めた時、俺の身体には妙な違和感があった。
「あれ……なんだこの……重さ……?」
右腕が動かない。
左腕も。
そして、股間付近には何かが密着している。
(ん?……ぬくもり……?)
ぬくもり。
やわらかさ。
香り。
感触。
……生地感。
──生地感?
いや、これは……
「お、おいおいおい……まさかっ」
ガバッと目を開けて、俺は硬直した。
そこにあったのは──
俺の右腕に絡みつく、妹・久慈川幸香。
左腕を抱きしめる、幼なじみ・袋田歩美。
そして、俺の太ももに跨がるように寝ている、図書委員・磐城玲奈。
全員、浴衣の前がはだけ気味。
肌と肌の隙間に、布団一枚挟んでるかどうかの距離感。
玲奈の位置に至っては、完全に**直に“股間密着ポジション”**である。
「これ……は……」
俺は呻くように呟いた。
「動けない……!!(物理的に)」
***
「んぅ……お兄ちゃん、おはよ♥」
最初に目を覚ましたのは、妹だった。
まだ眠たそうな顔で、右腕に顔をすり寄せてくる。
「右腕は、私がもらったからね~♥」
「いや、勝手に予約すんな! ってか、なにこれ、どういう状況!?」
「添い寝ローテーション、昨日の結果を反映して、深夜3時から合同侵入♥」
「なんでそんなシステムあるんだよ!?」
「愛の公平運用ってやつだよ、お兄ちゃん。私、プロデューサーだからさ」
言ってることは分からんでもないが、
やってることが完全に枕元カオス管理職。
「……ん……は……? な、なに……」
左腕側で、歩美がむにゃむにゃと目をこする。
「ちょっ……こ、こうきっ!? なんで私、腕枕……えっ、なにこれ布団なにこれぬくもりなにこれヤバい!!」
「落ち着け! まずは状況確認だ!!」
「いやいや無理無理無理!!/// ちょっと、腕抜いて!! てか、なんで隣に妹いるのよ!! 玲奈までいるじゃん!?」
玲奈「……ん……先輩、あったかい……」
玲奈は寝言のようにそう呟きながら、
俺の太ももをぐりぐりと圧迫してくる。
(ちょ、ちょっと待て、玲奈……お前、その……)
──やわらかい。
しかも、絶妙にふくらみが……これは……もしかして──
(……ノーパン!?)
俺の脳内で、警報が鳴り響いた。
「ど、どどどどどういうことだこれ……!」
「深夜2:45、私が侵入。
その後、2:56に歩美ちゃん、2:58に玲奈ちゃんが勝手に乱入。
私は正規申請してたけど、あの子たちは明らかに“ゲリララッキースケベ戦法”だった」
「妹が語る戦況報告ってなんだよ!? てか、なんで黙認してたんだお前!!」
「だって、お兄ちゃんの“無防備寝顔”があまりに尊かったから……♥」
顔を真っ赤にしながら恍惚と語る妹の視線が、完全にアウト。
***
そのとき、部屋のドアが開いた。
「おっはよ~ございま……っっ!!」
そこにいたのは、金髪碧眼のお嬢様──舞香。
「な、な、なにをやってますの、これは──!?」
「ち、違うんだ舞香! これは事故で! 本当に偶然で!」
「“偶然”という単語で布団密着三人組が説明できると思いますの!?」
「だって俺も被害者だよ!!??」
だが、舞香はぷいと顔を背けた。
「もう知りません! 私も今夜から、全裸侵入作戦を実施しますわ!」
「なんで悪化させるんだ!?」
俺の叫びは、朝の廊下に虚しく反響した。
そして──
妹・幸香は、起き上がりながらにっこり微笑んだ。
「……ね? “平等なハーレム”って、すっごく楽しいでしょ?」
──朝の枕元は、
今日も変わらず、女の戦場だった。




